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みうらじゅんの映画チラシ放談

サイモンとガーファンクルが出てるホラー映画、ではないですよね。『サウンド・オブ・サイレンス』『フィスト・オブ・ザ・コンドル』

月2回連載

第122回

『サウンド・オブ・サイレンス』

── 今回の1枚目のチラシは、イタリア産のホラー映画『サウンド・オブ・サイレンス』です。

みうら サイモンとガーファンクルが出てるホラー映画ではないことは確かですよね(笑)。

チラシの彼女が口を押えているでしょ。きっとほら、あの、喋ったらモンスターがくるみたいな、ほら、あの映画……。

── 『クワイエット・プレイス』ですよね?

みうら それです! なぜか2作目だけを映画館で観たんですよ。

── 『クワイエット・プレイス』は2作目まで公開されていて、3作目の『クワイエット・プレイス:DAY1』が今年の6月に公開されるそうです。

みうら そうでしたか。その“DAY1”って、すなわちゴジラにおいての“-0.1”。過去にさかのぼりますよね。『陰陽師0』なんてのも公開されるんでしょ? そもそも平安時代でしょ、それ(笑)?

その点『サウンド・オブ・サイレンス』のタイトルはズルイですよね。オレの世代は「サウンド・オブ」とくると、「ミュージック」か「サイレンス」ですからね。せめてこの映画の出だしは「ハローダークネスマイオールドフレンド♪」で始まってもらいたいです。

口を押えている女性の後ろに、もうひとりおられますよね。サイモンとガーファンクルで予想すると、ミセス・ロビンソンだと思うんですよね。

── それはもうダスティン・ホフマンの『卒業』じゃないですか?

みうら ほら、サイモンとガーファンクルがその時代のサントラ担当してましたから(笑)。チラシの裏面に「久しぶりに故郷へと帰ってきたエマ」って書いてあるのも、『卒業』のエレンとかけているのでは?

── まあ向こうからヒントを出してきてる感じありますね。

みうら 『卒業』の名場面ですからね。ラストシーン近くにダスティン・ホフマンが、教会で「エレーン!」って何度も叫びますから。

このチラシに惑わされてはいけないのは、すごく暗いイメージのホラー映画仕立てに作ってあるけども、実は『卒業』のようにハッピーエンドって可能性もありますよ。

「喋ったらダメ」っていうのもね、実は主人公の女性が背後のミセス・ロビンソンさんから「私、あんたの婚約者と深い関係だったのよ。それに大悪人なの彼は」と聞かされるんじゃないかと。

── チラシに「沈黙か死か」って書いてあるのも、ちょっとシンクロする感じがありますね。

みうら 「あんた、それでも彼と結婚するつもり? それとも彼を殺したい?」なんてね、悪魔の相談につい乗っちゃうとか。

このミセス・ロビンソン、悪魔みたいな手をしてるじゃないですか。殺しの手口はね、このチラシに写ってる電話機が古いってことがヒントですよ。

── ああ、確かに古い電話機ですね。

みうら これもね、過去にさかのぼるってストーリーだからです。

これだけ古い電話ってことは、交換手が間に入って取り次いでいた時代のものだと思うんです。その交換手がミセス・ロビンソン。だから、彼女の婚約者の彼も過去の人。

この電話機を使えば過去に戻れるんでしょうね。そこで彼の息の音を止めるって誘いなんじゃないですか。だからミセス・ロビンソンじゃなく、彼が実は悪魔なんですよ。

ふたり力を合わせて、悪魔を退治。ラストは「ありがとう、私もこれで浮かばれるわ」とミセス。感動的なラストです。

と、思いきや、スタッフロールの後に「ジリーン!」とこの古い電話が鳴るんです。

彼女は別の男性と結婚してますから、捨てたはずの電話がその新居にあることにまず驚き、受話器を恐る恐る取る。すると死んだはずの悪魔の声が……そして、BGMがホラー映画にありがちなヘビメタに変わっていくんでしょうね(笑)。

『フィスト・オブ・ザ・コンドル』

── 2枚目のチラシは、アクション俳優マルコ・サロールの主演作『フィスト・オブ・ザ・コンドル』です。

みうら 僕、こないだ出先の新宿で時間が空いたんで、映画でも観ようと思って調べたんです。するとね、その時間帯に合うのが2本。この『フィスト・オブ・ザ・コンドル』と『哀れなるものたち』だったんです。

でも“コンドル拳”はきっとこの連載で選ぶだろうと思ったから、『哀れなるものたち』を観に行ったんです。コレがすごく面白くてね。息もつかせない展開で、ちょっと「コンドル拳にしなくて良かった……」なんて思ったんですが、こちらも『チラシ放談』的に盛り上がるでしょ? きっとね(笑)。

ところでこの映画、チラシを見る限りどっちがタイトルなのか分かんないんですが。

── 確かに“フィスト・オブ・ザ・コンドル”も“コンドル拳”も大きく書かれていて、どっちもタイトルに見えますね。

みうら でしょ。字の大きさからすれば“コンドル拳”じゃないですか。今は映画のチケットは自動の券売機で買えますけど、昔なら僕は窓口で「コンドル拳1枚」って言っちゃってますよ(笑)。

ただ、このチラシからではコンドル拳がどんなものかがよく分からないんです。コンドルっていえば僕の世代は『コンドルは飛んでいく』ですからね。

── またサイモンとガーファンクルに戻ってきましたね(笑)。

みうら きっと技をくり出す直前には「コンドル拳!」って言うでしょうね。仮面ライダーの「ライダーキック!」みたいに。キックした後に「ライダーキックでした」って言うライダーはいませんからね。

これはどこの国の映画なんですか? 

── 製作国はチリです。

みうら ほーう、チリの必殺技がコンドル拳ってわけですか。

きっと、チリに代々コンドル拳を継承している一家がいるんでしょう。このチラシに写っている彼は3代目が4代目なんじゃないかな。

── 裏面だと「双子の兄弟が袂を分かった」って書いてますね。

みうら なるほど双子ですか。となると、弟の方は「コンドル拳は兄貴が継いでくれよ。俺は都会に出て漫画家になりたいんだ」などと言い出すんでしょう。コンドル拳の血筋でも、すべての家族にその血筋が渡るとは限りませんからね。

ま、ラストでは「兄貴! 俺も継ぐよ!」って言って、コンドル拳をふたりで決めるんでしょうけど。「よっ!! コンドル兄弟!」って村人たちは囃し立てますよ。

── 「コンドル兄弟」、もはや続編のタイトルみたいです(笑)。

みうら 優しい兄ですからね、「いいよ、コンドル拳は俺が継ぐから、お前は立派な漫画家になれ」と言って送り出してくれたんですがね、今は出版不況じゃないですか。仕事がなかなかうまくいかず、弟はついつい悪い奴から金を借りちゃいましてね、返せなくてボコボコにやられたりするんですよ。兄貴はそんな現場をコンドルを使って見てたんでしょうね。

そのコンドルは実際の鳥。伝書鳩的な役目をするんです。兄貴はそれを知って都会に乗り込みますよ。そして、弟の窮地を救います。当然、コンドル拳を使ってね。

── 昔、コンドールマンって特撮ヒーローがいましたよね。

みうら いましたね。川内康範原作の『正義のシンボル コンドールマン』、DVD持ってますよ(笑)。

それで弟も田舎に戻ってコンドル拳を習うんですけどね、漫画も描くんです。それがコミックになってバカ売れするんです。そのタイトルが『コンドル兄弟』。最後には「実はこの映画は、弟が書いたストーリーだった」ってオチがつくんです(笑)。

取材・文:村山章

(C)2022 T3 Directors SRL
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『サウンド・オブ・サイレンス』上映中
『フィスト・オブ・ザ・コンドル』上映中

プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『マイ修行映画』(文藝春秋)、『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。