みうらじゅんの映画チラシ放談
『死霊の盆踊り RRR』と呼んでもいいかもしれません。『ボーはおそれている』『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』
月2回連載
第123回

『ボーはおそれている』


── 今回の1枚目のチラシは、『ミッドサマー』のアリ・アスター監督の最新作『ボーはおそれている』です。
みうら 『ミッドサマー』、そこですね。選んだ理由は。
── みうらさん『ミッドサマー』の話はしょっちゅうしてますもんね。
みうら しょっちゅうしてます(笑)。このチラシ放談でも『ミッドサマー』を引き合いに出している映画はたくさんありましたけど、本家本元が満を持して登場してきたわけですからね。それにキャッチコピーも気になります。「ママ、きがへんになりそうです」ってどうです? きっと、なりそうじゃなくて、なることは間違いなしでしょう(笑)。
「ママ、きがへんになりそうです」って言ってんですから、このチラシに大きく写った人がパパってことですね。
── 確かにこの人、困った顔してますね。
みうら その肩に子どもらしき人たちが小さく乗ってますけど、この「ママ、きがへんになりそうです」の吹き出しを誰に持っていくかで、この映画の見方が変わってくると思うんですよ。やっぱ、パパがおかしくなる話だとみるのが妥当かと。
でもね、ここにはママらしき人が映ってないんですよ。たぶん、左にいる天使みたいなのがママなんじゃないですかね。ママはもうこの世にはいないのかも。ただ、「きがへんになりそうです」って丁寧な口調が気になりますよね。「ママ、きがへんになりそうだよ」とか「なっちゃうよ」でもいいのにね。
そこを考えるとこのパパは『サザエさん』でいうマスオさん的な位置にいる人ではないでしょうか?
── つまり「婿養子はつらいよ」って話だってことですか。
みうら ですね。となると、チラシに写ってるおじいさんみたいな人は、ママ側のお父さんだったり親戚だったりするわけで、やはりパパだけが孤立する話なんでしょうね。家主であったママがいなくなった以上、パパがこの家に住み続けるのはどうかとか? でも娘としては「この家にいてよ!」って言うでしょうしねぇ。
── なかなかに辛い話ですね。
みうら まあママの実家は大金持ちなんでしょうね。ま、そこは『ミッドサマー』の監督ですから、当然、パパの病み方は尋常じゃないに決まってますよ。
── 『ミッドサマー』の監督、だけに。
みうら いろいろ周りから言われてね、パパとしても「この家にいたら気が変になりそうだよ!」ってなるでしょうし、自分の田舎に戻ろうかとも考えるわけですよ。当然、変な祭りをやってる村ですよね、そこ。
パパは、そこにママの親族をも連れ出す計画を立てますよね。僕の田舎で面白い祭があるから、ちょっと気分を立て直すためにもみんなで旅行に行きましょうよって、うまく誘い出して、とんでもないメに合わそうとね。
チラシの下にもあながち間違ってないことが書いてありますよ。「怪死した母のもとへ帰省」って。怪死って、実はこの立場がないパパが殺したんじゃないですか? こういうときは困った顔した人が一番怪しいですからね。そして親族も次々と怪死の原因である生贄祭りに連れていく。
── パパ、けしからんですね。
みうら けしからん! 実にけしからんですよ。チラシに墓がふたつ並んで写ってますよね。
── それぞれ墓石に「マザー」「ファーザー」って書いてます。
みうら なるほど。ママもパパも既にゾンビなんですよ。そう思って見ると、このパパ、顔色ものすごく悪いですよ。
── ケガもしてますね。
みうら 『ゾンビ』&『ミッドサマー』、ということは『死霊の盆踊り』ってことですね(笑)。
── だとしたらかなり核心を喋ってしまいましたね。
みうら なんならこのチラシそのものが遺影という可能性もありますよ。
それどころか、実はこの子たちのパパでもないんじゃないかな。死んだ人に乗り移って、養子として入り込んだのでは? 結婚詐欺ゾンビって新しいですからね。
── ゾンビの結婚詐欺師とは、まだ観たことがない新機軸ですね!(笑)。ちなみに上映時間が3時間近くあるそうです。
みうら えー!? 『RRR』級じゃないですか、結婚詐欺ゾンビ。
── 3時間がかりの『死霊の盆踊り』ですか?
みうら 『死霊の盆踊り RRR』と呼んでもいいかもしれませんね。まあ、覚悟して観に行ってください(笑)。
『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』



── 2枚目のチラシは、ホラーゲームの映画化『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』です。
みうら これもチラシに「『M3GAN ミーガン』のブラムハウス最新作」って書いてある以上、選ばざるを得ないわけですよ。『M3GAN ミーガン』は昨年のみうらじゅん賞ですからね(笑)。
当然、『M3GAN ミーガン』ってわざわざ書いてあるぐらいだから、人形が大暴れする映画であることは間違いありません。今回は手にギター持ってますんで、AIロボットバンド物語かと。
── でも楽器を持ってるのは1体だけじゃないですか?
みうら ですね。つーことは、多趣味なAIロボット物語。『タシュミーガン』ってことですね(笑)。
チラシの文面にも「楽しい5日間をお過ごしください」って書いてありますから、いつも「楽しくないな、楽しくないな」って言ってる人のために、この4体のロボットが製造されたっていうことになりますね。
他の3体が何をしてくれんのかは、ちょっとこのチラシだけでは分からないですけど。
── ギターを持ってるロボット以外の個性が今ひとつ分かりませんね。
みうら そうなんですよ。ちょっと待ってくださいよ。背後に「レッツ・イート」って書いてあるヤツがいますね。さてはコックロボットとか
いや、違いますね。ハハーン、分かっちゃいました。このショーパブみたいなステージで。ここは、新宿でいえばモノマネショーを楽しめる「そっくり館キサラ」ですよ。
だから「もう人間が人間のものまねするってダサくね?」みたいなことを言った人のために作られたのが、この完璧にコピーするモノマネロボットたち。でもちょっとデータが古かったみたいですよ。このクマっぽいロボット、帽子の感じからしてチャップリンのモノマネが得意なんだけど、まあ全然ウケないんでしょうね。今の若者には。
── たしかにチャップリンのモノマネ芸は昨今はウケなさそうですね。
みうら たぶん、元気よくタカタタタッカターって『モダンタイムズ』の音楽で登場して笑いを取るつもりだったんでしょうけどね。
後ろのヤツは悪そうな顔してますねぇ。悪役の有名な俳優のモノマネでしょうが、古くてね。客の反応がイマイチで、最終的にはブーイングが起こる。AIロボットだってキレますよ、そりゃ。逆襲が始まります。
── ショーがウケなかったからって逆襲するんですか?
みうら ま、それ以前からも「こんなのダメじゃん、やっぱりAIなんてまだまだだな」って言う輩がいたわけですから。AIだって、そんなこと言われ続けたAI先輩たちを気の毒に思ってますよ。
── ああ、それは腹立ちますね。
みうら で、ロボットたちが「恐怖の夜を生き延びてみろ!」と叫び、ショーパブがホラーハウスに変わるんです。
題名で「ファイブ・ナイツ」って言ってますから5日間公演だったんでしょう。モノマネ芸が受けなくて、とうとうAIに“怒り”という感情が生まれる映画なんだと思います。
── ああ、それはいい話ですね。
みうら この「フレディーズ」っていうのは、モノマネの定番でもあるフレディ・マーキュリーのことなんじゃないでしょうか? と、なるとギターを持つロボットはブライアン・メイのモノマネですね。
── よく見たらギターが6弦でなく5弦ですね。
みうら 本当だ。すべてにおいて未完成に作られている。人類を越えられると思ってそうしてあるのかもしれませんね。人間だったら客の反応を見てネタを差し替えたりもできるけど、AIにはできなかった。
「4人そろって僕たちフレディーズ!」と陽気に登場。それぞれがモノマネしていくんでしょうけど、全くウケなかった。
── 切ない話ですね、結果的にどっちが悪いでもないみたいな。
みうら 人間だと“挫折”という感情が出ますが、ヤツらはそれがない。マイナスな感情が組み込まれてなかったんですよ。「お前ら、笑うまで帰さねえぞ!」が出たと思うんですよ。
── じゃあ映画の前半は、ウケなかった5日間が描かれるんでしょうか。
みうら 5日目の夜、とうとうショーパブが『恐怖の館キサラ』に変わるんでしょうね。これは哀愁もあるホラー映画だと思います。ついAIの方に感情移入しちゃう観客もいるんじゃないでしょうかねぇ。
取材・文:村山章
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『ボーはおそれている』上映中
『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』上映中
プロフィール
みうらじゅん
1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『マイ修行映画』(文藝春秋)、『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。
