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みうらじゅんの映画チラシ放談

『呪怨』の俊雄くんサイドから語るストーリーということも考えられます『変な家』『DOGMAN ドッグマン』

月2回連載

第124回

『変な家』

── 今回の1枚目のチラシは、間取り図をあしらったデザインの『変な家』です。

みうら 僕、旅先で不動産屋の前に貼ってある間取り図を写真に撮っておく癖が昔からあってね。

旅っていうのは、行って帰ってくるまでが旅じゃないですか。結局、その土地に訪れた他県から来た者っていうことになりますよね。でも、その街に住んでみようかなという気持ちで旅を始めると、かなり街の見方が変わるというか。当然、次に思うことは、じゃあどんな家に住もうかってなりますよね。

家賃にしても、ここはいくらかなとか、敷金は何ヵ月分かな?とか考えてると、そこで見つけた物件、見に行ってみようかなって思ったり。でもね、中には駅前でとても便利なのに家賃が安すぎるんじゃないかなと思う物件があったりするわけでね。

たぶん、この映画ってそういう話ですよ。何かあるから安い。それ、すなわち『変な家』。岡本太郎デザインの家じゃなくってね。

ま、フツーに考えれば“出る”っていうことでしょうけどね?

── つまりジャンルはホラーってことですか?

みうら 問題は、ホラー映画なのか、それとも不動産屋さんの映画なのかっていうことですよね。

間取りが変というか、その当時にちょっと流行ってたオシャレな作りにしたために、トイレの導線がすごく通りにくかったり、そういう変さも不動産屋映画としてはアリでしょうから。

たぶんこの映画では佐藤二朗さんが不動産屋の方でしょう。この街に住むことになった若者に、「この間取りがちょっと変なんで、安くしてあります」って言うわけです。「僕、大丈夫です、別に気になりませんから」って若者は言うんでしょう。それで、契約して、安い物件に住めてめでたしめでたし……という、話ではね、映画としてはどうでしょうねぇ(笑)。

── そんなほのぼのとした映画だったらびっくりしますね。

みうら あ、チラシにやっぱ「ゾクっとミステリー」って書いてありますね。チラシ裏面の若者も「いい物件に当たって良かったです!」って顔はしてませんね。となると、ゾクッとの問題は間取りのことですね。

オシャレにしてあるもんで、押し入れがやたら少ないとか?

── このチラシの間取りも押し入れがないですね。

みうら でしょ? オシャレは押し入れを排除しますから。要するに『呪怨』の白いあの子の居場所がないってことですよ。

── 俊雄くんですね。たしかにこれだと俊雄スペースがないですね。ホラーだったら不利な家ですね。

みうら ですよ。ゾクッとミステリーを感じるのが、これじゃ俊雄くんの方です。となると、俊雄くんサイドから語るストーリーということも考えられます。「これじゃオレの居場所がねえじゃねえか!」っていう。ハハーン、この若者は俊雄くんが成長した姿じゃないですかねぇ。

つまり不動産屋さんが「ダメダメ! そこは変な家だから」と言って勧めようとしない映画。佐藤さんの方が怪しいです。

── これ、リビングにテレビ置く場所もないですね。

みうら あ、そこにもこの映画のヒントがありますよ。それでは貞子も出てこられないってことになりますから。

── いや、そこまでは考えてませんでした(笑)。

みうら 現代のことを考えて、スマホ画面からも貞子は出るのかもしれませんが、これじゃ貞子からも「変な家」と言われても仕方ありません。ま、最近の若い人はテレビを見ないらしいですからね。

この間取りでは台所からダイニングテーブルまでもだいぶ遠いですけど、それによってまた出にくくなるヤツもいるんじゃないですかね。

── 今、このチラシ作った人は大喜びでしょうね。我々がまんまとハマってますね。

みうら ですよね(笑)。やっぱり見る方も出る方も、よく不動産屋さんで間取りを知ってから入居されるのがいいでしょうね。

『DOGMAN ドッグマン』

── 2枚目のチラシは、リュック・ベッソン監督の最新作、『DOGMAN ドッグマン』です。

みうら 「ドッグマン」っていうんだから、犬人間と考えるのが妥当だと思いますけどね。

このチラシに写ってる方が主人公だと思うんですが、この派手なメイクからしてビジュアル系のバンドをやってますね。

しかし、ライブをやっても客の入りも悪くて、夢半ばにしてもうダメだなと思ってたところに、ある紳士がライブハウスにやってきて、「君、すごくお金が入る仕事をやらないか?」って言ってくるんですよ。

「今度の休日にうちの家に来てくれたまえ」と口車に乗せられ、その紳士の家に行ってみたら、地下室に連れていかれるんです。当然そこは実験室ですよね。電送機みたいな大きい機械が置いてあるんでしょう。その実験室で、主人公は睡眠薬が入った飲みものを飲まされましてね。

で、気がついたら、拘束された姿で機械の中に入ってるんです。ふっと横の機械を見たら犬も入ってる。紳士はマッド・サイエンティストだったんですね。ガチャンとスイッチを入れると、人と犬は合体して、ドッグマンが誕生します。

── (笑)。

みうら たぶん、そのマッド・サイエンティストがなぜドッグマンを作ったのかっていう理由が、長い時間かかって解き明かされていく映画だと思います。

── 見どころはどこになりますか?

みうら 見どころですか(笑)? そうですねぇ……。

「犬って人を姿形で判断しないし、本性を見抜ける」みたいなことですかねぇ。たぶんこのマッド博士は、幼い頃から飼ってた犬だけが友だちだったんでしょう。姿形で判断してきた人間どもに復讐を企てるんでしょうね。

── 哀しいけど、イイ話ですね(笑)。でも、ドッグマンにされた人はムチャクチャ災難ですね。

みうら 本当、気の毒ですがね。後にそのドッグが功を奏して、ロックになるんです。

── ロックからドッグに。

みうら ええ。バンド名も「ドッグマン」に変えるでしょうし、歌い方もドッグっぽくなってね、人の心を打つんでしょうね。

── チラシに「規格外のダークヒーロー」って書いてありますけど、なんかヒーローっぽいことはするんですか?

みうら まあドッグマンですから、ノーメイク。ステージでは人間社会に対する警告や、真の愛の歌がメインです。顔色は当然ダークになりますよね。

それが本当にいい曲でねぇ、もう観客は大泣きですよ。それが今まで狙っても果たせなかった大ヒットに繋がって、その印税で、大きな寄付もされると思います。

── いい曲が書けるまでのミュージシャンの話ですね。

みうら ですね。たぶん吹替版が出たら主人公の声はROLLYがやるんじゃないかと。顔も似てますしね。『ロッキー・ホラー・ショー』みたいに、舞台版もROLLYが務めるのではと。

取材・文:村山章

(C)2024「変な家」製作委員会
(C)Photo: Shanna Besson - 2023 ?LBP ? EuropaCorp - TF1 Films Production - All Rights Reserved.

『変な家』3月15日(金)公開
『DOGMAN ドッグマン』上映中

プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『マイ修行映画』(文藝春秋)、『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。