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みうらじゅんの映画チラシ放談

新作『オーメン』のPRはやっぱり西川のりおさんじゃなきゃ!『オーメン:ザ・ファースト』『ローマの休日 日本公開70周年 4Kレストア版』

月2回連載

第127回

『オーメン:ザ・ファースト』

── 今回の1枚目のチラシは、1976年の大ヒットホラー『オーメン』の前日譚『オーメン:ザ・ファースト』です。

みうら 『オーメン』っていうと、僕からしたら「ペック映画」でね。悪魔の子ダミアンよりも断然、グレゴリー・ペックさんの映画なんです。

僕は中学生のときにリバイバル上映で『ローマの休日』を観たクチなんです。すっかりハマって、いまだにラストシーンを思い出すだけで涙がこみ上げてくるくらいのノイローゼっぷりなんです(笑)。

ペックさんは、後に『ナバロンの要塞』っていう戦争映画に出て、ウチの中学では学園祭のときに上映されたんです。その後『マッケンナの黄金』っていうちょっとトンデモなマカロニウエスタンに出ておられて。荒野に大地震が起きて当時流行ってたパニック映画みたいになるんです。で、『オーメン』です。

『ローマの休日』の純情な新聞記者から始まって、戦争モノ、ウエスタンと、いろんな役を演じられましたが、とうとうオーメンで悪魔と戦うことになります。どんどん遠いところに行かれるなあ、と思ったもんです。

だから、この映画は『オーメン』よりさらに前の物語なんだろうけど、僕からしたら『オーメン』はグレゴリー・ペックさんの映画だってこと。そこをお忘れになっていないか、確かめたくて。

ダミアンの頭皮に浮き出した「666」の文字のことも重要ですが、やっぱりちゃんとペックさんがやった神父のマイナスワン的な、最初のエピソードが出てこないと困るんです!

── あの、『オーメン』のグレゴリー・ペックは神父じゃなくて、アメリカ人の外交官の役ですよね?

みうら あれ、でしたっけ? すっかり忘れてました(笑)。てっきり十字架が突き刺さる神父だと思い込んでました。

── 突き刺さって死ぬのは、グレゴリー・ペックのところに警告にくる人じゃないですか?

みうら そうでしたか? すいません。エラソーに言って(笑)。

── オーメンは「前兆」って意味なんで、オーメンとペックが戦うわけじゃないですけど、聖なるナイフをもらって悪魔の子ダミアンを殺そうとはしてました。

みうら 何せ、公開当時、一度観たきりなんで(笑)。

そうそう。『オーメン』は大ブームでね。当然関西でも流行ってたんですけど、西川のりおさんが「オーメン!」ってギャグをしておられたこと、今急に思い出しました(笑)。

よく映画の宣伝でタレントを呼んでPRするのがあるじゃないですか。この新作の『オーメン』は当然、西川のりおさんじゃなきゃ。

── もう公開されてますけど、西川のりおさんは出てなかった気がします。

みうら 映画の上映前の「前の席は蹴らないで」の案内のときに、のりおさんが「オーーメン!」って出てこられたとか? ないですか……。僕らの世代はさらに観たくなるのにねぇ(笑)。

『ローマの休日 日本公開70周年 4Kレストア版』

── 2枚目のチラシは、先ほどのお話にも出ていた『ローマの休日』のリバイバル上映です。

みうら リバイバル上映って何回もやられてると思いますけど、今回は日本語吹替版のリバイバルなんです。やっぱりオードリー・ヘップバーンっていうと池田昌子さん、ペックといえば城達也さんですよねぇ。このふたりの声じゃないといけないんです。

チラシの裏に淀川長治さんの写真も入ってますが、もしかして、かつての『日曜洋画劇場』のママ上映するのでは? 

── それ合ってますね。「淀川氏による解説映像が付属」って書いてあります。

みうら 淀川さんも4Kなんですね(笑)。我々“老いるショッカー”のためにリバイバルをやってくれているわけですね。まあこの映画は何を言っても絶対に観る人は観るでしょうから、ここであえて勧めなくてもいいんですけど、できれば同時上映してほしい映画があるんですよ。

── ほう、それは何でしょう?

みうら 本多猪四郎監督作品『三大怪獣 地球最大の決戦』です。

僕が小学校1年生のときに初めて観たゴジラ映画なんですが、当時は全く気づかなかったことがあるんです。それはね、『三大怪獣 地球最大の決戦』で、サルノ王女っていう役をやってた若林映子さんがね、『ローマの休日』のオードリー・ヘップバーンのオマージュでね。

『三大怪獣 地球最大の決戦』では、夏木陽介さん演じる刑事が言うなればグレゴリー・ペック役で、王女のボディガードをするんですよね。

ラスト、王女がサルノ国に帰るときに、空港で記者会見が行われるんですが、記者と一緒に駆けつけたその刑事の顔を見て「そなたのことはよく覚えておる」って言うんですよ。日本での滞在の記憶はほとんどないのに。最初、それに気づいたときは『ローマの休日』が「怪獣映画のパクリじゃないか!」って思いましたけど(笑)。

── 本当は逆なのに(笑)。

みうら そうです。先に『三大怪獣 地球最大の決戦』を観てましたからね。本多猪四郎監督は、子どもを怪獣映画に連れて来た大人に喜んでもらおうと、オマージュとして『ローマの休日』の要素を入れたことは間違いありません。

── 恥ずかしながら『三大怪獣 地球最大の決戦』をつい数年前に初めて観たんですが、確かにコレは『ローマの休日』だ、ってビックリしました。

みうら でしょう! 刑事役の夏木陽介さんも、ちょっとペック感出しておられたでしょ。『ローマの休日』を意識して清潔感あふれる人を配役したんだと思うんです。

だから是非、一度『ローマの休日』と『三大怪獣 地球最大の決戦』を2本立てで上映してほしいんです。そのときは是非、僕に淀川長治さんの役をさせてくださいね。

取材・文:村山章


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プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『マイ修行映画』(文藝春秋)、『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。

『マイ修行映画』
文藝春秋
1650円(税込)