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みうらじゅんの映画チラシ放談

観終わったら“シャマらん”気分になるのは間違いないです『ザ・ウォッチャーズ』『ジョン・レノン 失われた週末』

月2回連載

第129回

『ザ・ウォッチャーズ』

── 今回の1枚目のチラシは、M.ナイト・シャマラン監督の実娘イシャナ・ナイト・シャマランの長編監督デビュー作、『ザ・ウォッチャーズ』です。

みうら これは娘さんの仕業ですか。どちらにせよ、“シャマらん!”ことには間違いありませんよね(笑)。最近、森がざわざわする映画を観たもので、つい。

── M.ナイト・シャマランの前作なら『ノック 終末の訪問者』ですね。 

みうら それです、それです。タイトルをすっかり忘れてました(笑)。「シャマらんな」っていう言葉には意味がふたつあるでしょ? 「面白いだろうな」っていうのと、「またいつものパターンだろうな」っていうのがね。だからいつも観にいくかどうかちょっと悩んじゃうんですよね。

『オールド』を観にいったときも迷いましたけど、よくよく考えると“シャマらん”気分を味わいたいのが目的ですから、「もう今後は迷わず観にいく!」って決めたんです。そうしたら気が楽になりました。

だからこの『ザ・ウォッチャーズ』も、チラシやタイトルから予想するってことは意味がない。そんなことは関係ないんです。だから真のタイトルは「脚本・監督、イシャナ・ナイト・シャマラン 製作、M.ナイト・シャマラン」です。『ザ・ウォッチャーズ』は副題と考えた方がいいでしょう。

── なるほど。

みうら チラシで読み解く連載ではあるんですけど、想像してもしょうがないなとは思うんです。だって、観終わったらシャマらん気分になるのは間違いないわけですし。それに毎度、意外とストレートじゃないですか。タイトルに忠実というか。

── 確かにM.ナイト・シャマランは、世間で思われてるような“どんでん返し”が売りの人ではないですよね。

みうら そうなんですよ。実は意外と真相はタイトルと同じの場合が多い。だからこの『ザ・ウォッチャーズ』も、単に誰か複数の者が観てるんだと思いますよ。そこの期待を裏切らないのも“シャマらん!”ですから。

── シャマラン映画では「まさかこんなことが?」っていう珍事は、大概本当に起こりますもんね。

みうら 間違いなくね。だからチラシにも書いてあるように、誰かがずっと見てる、そして見られてるっていうお話に決まってます。だから問題なのは、何に見られてるのかってとこですね。

フツーの考えなら宇宙人か怪物みたいなヤツらがどこかから人間を監視しているってことになるんでしょうが、きっと僕たちが思ってる以上に見てるんでしょうね(笑)。想像をはるかに超えてしつこく見られてるって話ですかね。

── このチラシ、裏も表もほとんど同じですね。それもしつこいですね。

みうら しつこいにもほどがありますね(笑)。普通だったら、チラシのオモテが見られてる側なら、ウラ面は見てる側の写真にするところじゃないですか。

意外にね、見てるのは怪物じゃなく、チラシに写っている4人の両親がずっと成長を見守っているのかもしれない。彼らも「もう大人なんだから勘弁してくれよ、おかん……」って言ってるのかもしれませんよ。

── 4人立ってるのに「見知らぬ3人」って書いてません?

みうら 確かに書いてありますね! はっはーん! 「私たちからは見えない」と書いてますから、つまりこの4人の中に、他の3人からは見えないヤツがひとりいるんですね。「奴らはずっと見ている」っていうのは、実は中に監視している奴がいるってことですよ。何もこのチラシの写真、外から見てるんじゃないんです。シャマらんなぁ!

チラシではすごくSFっぽく見えるけど、これはただの野外ステージかもしれないですね。「4人のうちのひとりが他の3人を見てる」芝居上演の。

まさかなって思ったことはみな、シャマらん! 「やっぱり」だったりしますからね。

── シャマラン映画の「まさか」はほぼほぼ正解ですからね(笑)。でも今回は娘のイシャナの作品なんですけど。

みうら そうでしたね。でも、娘さんは過去のシャマらん作品に参加しているみたいじゃないですか。

── だから、まさかはやっぱりですよ、きっと(笑)。

みうら やっぱ、想像するだけ時間がムダです。“シャマらん”気分になりたい人は必ず観に行くしかないでしょうしね(笑)。

『ジョン・レノン 失われた週末』

── 2枚目のチラシは、ジョン・レノンが妻のオノ・ヨーコと別居していた時代を描いたドキュメンタリー『ジョン・レノン 失われた週末』です。

みうら ジョン&ヨーコを語る上でかなり重要な案件ですからねぇ。

── オノ・ヨーコの肝いりで若い愛人をあてがわれたみたいな、変な伝わり方をしている話ですよね。

みうら そこ、やっぱ真相は知りたいですよね。僕が小学校5年生のときにビートルズは解散したんです。

僕らの世代は『レット・イット・ビー』の映画は公開されて観てるんですけど、リアルタイムはソロ活動でしてね。ジョンだとやっぱ『イマジン』のイメージが強いんです。

ジョンさんはオノ・ヨーコさんと知り合って、どんどん変わっていくじゃないですか。“ラブ&ピース”って言葉を知ったのもふたりからです。

オノ・ヨーコさんっていうミューズに会ってどんどん変わっていく様を、まるで自分ごとのように見てたというか、「僕にもヨーコさんのようなミューズがいれば変われるのに!」って他力本願で思ったりして(笑)。

後に僕、『アイデン&ティティ』って漫画を描いたんですけど、そのアイデンとティティは当然、ジョン&ヨーコがモデルでした。

アンデンティティっていうのはひとりで形成するものじゃなく、ふたりの愛が合わさったときに初めてアイデンティティが確立するんだっていう。そんなテーマの漫画でした。

そんなふたりが“失われた週末”でしょ? 当時は僕、よく分かってませんでしたから、てっきり週末だけかとか思ってましたけど、そういうことじゃないですよね。もっと長いでしょ(笑)。

── このチラシだと18カ月って書いてありますね。

みうら その時期にジョンさんが出したアルバムが『ロックンロール』。カバーアルバムでした。当時買いましたけど、原点回帰の意味もあったんでしょうね。その中の “ウェンザナイ”って曲はヒットしましたよね。

── 『スタンド・バイ・ミー』ですよね。

みうら そうそう(笑)。

ヨーコさんは当時、「私をミューズと思って、頼りきっていてばかりではいけない」ってジョンさんに修行の旅を勧めたんですかね? 

その旅にメイ・パンっていう女性を同行させたのは、彼女もまた東洋人であったっていうことでしょうか? 何だかそこに意味があるような気がしますが。

── 確かに。

みうら ヨーコさんから東洋思想を学んだジョンにさんは『イマジン』を作ります。僕はその歌詞がすぐに般若心経だと思いました。

歌詞のテーマは「そもそもはない」でしょ? つまりは般若心経でいうところの“空”です。

そしてすべてはないと悟ったジョンさんに、ヨーコさんは次の段階として失われてない週末を与えた。違いますかね?

── ヨーコさん、むちゃくちゃ教えてくれますね!

みうら でもジョンさんは、ヨーコさんをミューズだと思ったあまりに、実のお母さんだと勘違いした? よく夫が奥さんに「私はあなたのお母さんじゃないから!」って叱られることあるじゃないですか(笑)。よく考えなさいって、それで旅に出したとか?

── もはや聖書か神話みたいですね。

みうら (笑)。当時、あまり情報もなくて、ヨーコさんが愛人まで付けてジョンさんを送り出したっていうことだけがクローズアップされてましたから、よく分かりませんでしたけどね。

たぶんこのドキュメンタリーではその真相が分かるようになってるんじゃないですかね?

── それは確認しにいかないと。

みうら でしょ? それかもっと驚くべき事情があったのかもですよ。

取材・文:村山章


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プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『マイ修行映画』(文藝春秋)、『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。

『マイ修行映画』
文藝春秋
1650円(税込)