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みうらじゅんの映画チラシ放談

このブルーの正体はヨギボーじゃないですかね?『ブルー きみは大丈夫』『SCRAPPER/スクラッパー』

月2回連載

第130回

『ブルー きみは大丈夫』

── 今回の1枚目のチラシは、ライアン・レイノルズ主演のファンタジードラマ『ブルー きみは大丈夫』です。

みうら 実はね、6年ぶりにいとうせいこうさんと『見仏記』っていう連載を再開したんですよ。noteというサイトでね。

それで今回は滋賀県のお寺を巡ったんですが、仏さんの前に供えてあるのがブルボンのアルフォートが多くてね。それも袋詰めされた大量に入ってるやつで。いやぁ、その包装している袋の色が頭に焼きついちゃって。今では、“アルフォートブルー”って呼んでるんですよ(笑)。

ブルーといえばフェルメールブルーとかキタノブルーとかいろいろありますけど、アルフォートブルーは色が深いんですよね。

── 確かに、あらためて見てみると吸い込まれそうな青ですね。

みうら でしょう! で、お供えされたアルフォートを、参拝を終えた後に村の人たちがごっそりくれたんです。だから、僕らはアルフォートの袋を持ちながら次の寺へと回ったんですけどね。

その夜、滋賀県の旅館でいとうさんとアルフォートブルーについて3時間近く語り合いました。それをビデオに撮って配信してますので、よろしかったら見てください。

こないだ安住(紳一郎)さんのラジオ番組に出たときもアルフォートブルーについて熱く語ったんですが、その時、安住さんが「ニベアブルーもいいですよね」って言うんです。確かにニベアの入れものも濃いブルーで、アルフォートにかなり近いんです。

でも安住さんは、最近ニベアのブルーが変わったと言うんです。その後、量販店に確かめに行ったんですけど、確かに僕らが知ってるニベアの缶のブルーが、水色っぽくなってました。

── 今、画像検索で新パッケージと旧パッケージを比べてるんですけど、確かに違いますね。

みうら 色が明るくなったというか。どうしてニベアブルーを薄くしたんですかねぇ。そんなことばかり最近考えているので、当然この映画のタイトル『ブルー きみは大丈夫』が気になったもんで選んだんです(笑)。

── つまりどんな映画なのかは……。

みうら まったく知りません! でもこのチラシに写ってる青いやつがブルーって名前で、主人公なことは何となく分かりますよね。

── コピーの文言を見る限り、みうらさんがよく話している『プーと大人になった僕』っぽい感じがありますね。

みうら ですね。子どもの頃に遊んでいたぬいぐるみたちが突然、大人になってから訪ねてきて、「遊ぼうよ、また昔のように遊ぼうよ」って言うやつです。

「忘れていた大切なものに」ってコピーにありますしね。ということはこの三大テノールのひとりみたいなおっさんが忘れてしまっていた大切なものを「ブルー」によって思い出すってストーリーでしょう。

お父さんは仕事が忙しくて、世界各国を周ってるんでしょう。だからあまり家にいたことがない。娘さんも寂しい思いをしてた。でもテノールの声帯がちょっとおかしくなって、仕事を休まなくちゃならなくなる。それで家に久しぶりに帰ってくる。そのとき、おせっかいな、いや、このキャラ、ブルーが訪ねてくるんでしょうね。

あれ? 右の上にいるやつはプーじゃないですか? なるほど、今度はプーが新しい使者ブルーを送り込んだってわけですね。

── プーが黒幕で、あちこちに思い出のぬいぐるみを派遣してるんですか?

みうら プーは“思い出派遣会社”の社長ですから。そうそう、このブルーの正体はヨギボーじゃないですかね?

── 確かに。チラシでももう寝転がってますし。

みうら うちもヨギボーを買ったので間違いありません。厳密に言うと、ヨギボーのカバーがブルーのやつです。ヨギボーとこの映画が提携してるっていう情報は、このチラシのどこかに載ってませんか?

── 載ってないみたいですけど、ありえなくはないですね。

みうら このチラシのオモテの写真はね、娘とデパートに行ったときのものですよ。ヨギボー売り場のところで寝っころがってみたんだと思います。娘が欲しいと言うもんで購入したんでしょうね。でも送られてきたのはヨギボーじゃなく今回の主人公ブルーだった。

たぶんこのブルーに寝っ転がると、忘れていた大切な思い出が蘇る。そんな不思議なヨギボー話じゃないですかね。

ちょっと気になるのは、タイトルの「きみは大丈夫」ってところなんです。おそらくブルーのシートを汚してしまうんじゃないでしょうか?

── この娘さん、寝っ転がりながら靴を履いてますね。

みうら ダメですよ、靴は脱がないと(笑)。コピーに「かつて子供だったすべての人に贈る」って書いてありますから、間違いないです。黒幕のプーがヨギボーを“呼びボー”するんです(笑)。

『SCRAPPER/スクラッパー』

── 2枚目のチラシは、サンダンス映画祭で受賞したイギリス映画『SCRAPPER/スクラッパー』です。

みうら このタイトルは、小学校1年生のときから、スクラッパー人生を始めた僕ですからピン!ときましたね。スクラップ帳に切り抜いた記事や写真を貼っている人の話でしょう。違いますか?

── それはどうでしょう(笑)?

みうら いや、僕の場合、もうそのスクラップ帳の数が800冊を超えてますから。 

小学1年のときに悟ったんですけど、雑誌のまま、記事のままで置いといたら家の人に捨てられる可能性があるでしょ? ちっちゃい頃から、いかに物を残していくかばっかり考えて生きてきたんで、写真や記事に再構成を加えたスクラップブックというものは、本棚にも入れられるし、親も“子どもが作った作品”として認めるので、捨てないんですよ。

ちょうど怪獣のスクラップを始めたときに、コクヨの「ラ40」ってスクラップ帳が発売されたんです。だから、僕はコクヨとともに生きていると言っても過言ではありません。

でも最近は、町の文房具屋さんで置いてないところが結構あるんです。なんでもパソコンでやるようになって、スクラップ界もヤバイんです。もちろんヤマト糊の方も心配です。

── オレンジのキャップのやつですよね。

みうら そうです。僕が使ってるのはアラビックヤマトLっていう商品なんですけど、コンビニで見つけると全部買っているんですよ。めちゃ売れてるように見せることで、再入荷してもらえたらいいと思って。文房具屋でも、コクヨの「ラ40」を見つけたらある分全部買っているんですよ。

その“活動”はずいぶん長いこと続けてるんですけど、あと何年持つのやら。スクラッパー人生もそれがないと始まりませんので、幕を下ろす日が来るのが不安でね。

そうそう、スクラップする人のことを“スクラッパー”って呼んだのは僕なんで、この映画のタイトルを見て、遂にネーミングが世界で流行り出しているのかと(笑)。

僕が知る限り、スクラッパーは、現代美術家の大竹伸朗さんと僕だけなんですけどね。そんなスクラップ帳に切り抜きを貼ってる人の人生が描かれてる映画が公開されるなんてことは、驚きです。

── チラシ写真には男の人がなにか四角いものを持ってますね。

みうら ハハァーン、これがスクラップ帳の一部でしょうね。金具の部分かな(笑)。

チラシの写真だとこの町の様子はよく分からないですけど、湿気がある所ではね、スクラップ帳に糊付けするのはかなり危険というか、非常に貼りにくいんですね。だから糊は均等に、薄紙の場合は四方八方から貼っていくのをおすすめします。

── 水張りですよね。

みうら そうです。水張りの要領です。やっぱりスクラッパーって“匠”じゃないといけません。ハサミだってそれ用のハサミを使いますし、ミリ単位で切りますから。

この方は、僕よりは当然年下だろうけど、スクラップに相当なこだわりがおありだろうと思うんですよね。しかし、なにか事情があってスクラップをやめなくちゃいけなくなる。どうしても娘に継いでほしい……そのシーンがチラシの写真なんじゃないかなぁ。

── でも本当にスクラップの映画だったら、みうらさんにコメントの依頼とか来てないんですか?

みうら それがおかしなことに来てないんですよ(笑)。

── じゃあそんな映画じゃないのかもですね(笑)。

みうら ですね。そもそもこのタイトルの“スクラッパー”ってスクラップする人の意味じゃないかもですね?

── 今、そこから疑問を抱きますか?(笑)

みうら (笑)。でも、「解体しながら闘う」ってコピーも書かれてるでしょ? スクラップする前には雑誌や写真集を解体しますからね。どうでしょう? 

── 映画監督のハーモニー・コリンに取材したことがあるんですが、渡された見本誌をすぐに切り取って、その場でスクラップにしていました。

みうら えっ⁉ ああ、やっぱりスクラップ映画かも(笑)。監督もかなりの重症なスクラッパーなんでしょうね。

ここに書いてあるように「いびつだけと愛おしい」。そんな目でこれからスクラッパーを見守ってほしいと思います(笑)。

取材・文:村山章


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プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『マイ修行映画』(文藝春秋)、『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。

『マイ修行映画』
文藝春秋
1650円(税込)