みうらじゅんの映画チラシ放談
一応言っときますけど、犯人はホテルのメイドです。『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』『ツイスターズ』
月2回連載
第131回
『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』
── 今回の1枚目のチラシは、1969年の人類初の月面着陸をモチーフにした『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』です。
みうら チラシに人類初の月面着陸は「リアルかフェイクか」って書いてありますけど、この設定は昔、『カプリコン・1』という映画でもありましたよね。
── NASAが火星着陸の映像を捏造しようとする近未来SFですね。
みうら そちらは火星ってことになってましたけど、どうなんでしょう?
僕が小学5年生のときに、アポロ11号は月面着陸に成功したんですよ。衛星の生中継を必死で見てました。日本の生中継といえばアポロとあさま山荘事件と相場が決まってます。親もテレビを遅くまで観るのを許してくれましたからね。
アームストロング船長、コリンズ、オルドリンの宇宙飛行士3人はビートルズくらいの人気でした。そうそう、最近、コロナ画という連作を描いてるんですけど、そこにもアームストロング船長が出てきます。当時買った『人類が月を歩いた』って本もいまだに手元にあるぐらい、グッとくる出来事でした。
── さすがの物持ちのよさですね。
みうら 捨てる術を知りませんから(笑)。その後聞くんです。月面着陸したときにアメリカの国旗を立てるんだけど、旗がたなびいてるのがおかしいって話を。なぜ大気がない月に風があるんだっていう疑問でした。
友だちの中にもエラソーに「あれ、行ってねえんじゃね?」みたいなこと言うヤツがいてね、僕はつまんないこと言うなよと思ってたんです。でも今頃になって、その話を蒸し返すような映画を作る意図が分かんなくて、それで選びました。
── 1969年の月面着陸は、何年おきかで陰謀論みたいなものが再燃しますよね。
みうら そうです。陰毛みたいな論ね(笑)。小学校のときのピュアな心の僕を台無しにしないでほしいんですよ。
推理モノの映画を一緒に観ていて、「あ、犯人分かっちゃった」とかすぐに言うヤツ、いるじゃないですか?
霊を見る才能があると豪語しているヤツも、うちの家に遊びに来て、「あ、ココにいるね」とか言うのやめてほしいんですよね。僕にとって陰謀論はそれに似てますから(笑)。
もしかしたらフェイクだったかもしれないけど、分かんない人は分かんないままでいいじゃないですか。それを分からせようとするのって、嫌がらせだと思います。こっちはせっかく感動したんだから、もうそのままで一生を終わりたいです。
ま、そんな気持ちがあるもんで、逆に観たくなってるんですけどね。
── 結局、観たい側に回ったんですね。
みうら 『カプリコン・1』もそれで観たんですけどね(笑)。でも他人のロマンを台無しにすることはないでしょ? こっちは『わさお』で感動し、泣いてるんですからね(笑)。
── (笑)
みうら すると、「アレで泣くヤツ信じられねえ」とか言うヤツいるじゃないですか。「あんなので泣くの? 安い涙だね」とまで言われる始末です(笑)。
── それはさすがにひどい。
みうら そういうことを言う人の方が正しいというか、謎をすぐ解けるヤツがカシコイって考えを、ぜひともやめていただきたい。私が訴えたいのはその一点です。
そういや昔、古本屋で買った外国の推理小説、家で読んでたら、数ページ目にボールペンで“犯人はホテルのメイド”って落書きしてあったんですよ(笑)。いい加減にしろよと思ったんですけどね、気になるじゃないですか? それで読み切ったんですけど、なんと、なんとですよ、犯人はホテルのメイドじゃなかったんですよ!
── ああ、いいイタズラですね(笑)。
みうら 完敗ですよ、こちらは(笑)。しかも、そもそもホテルのメイドなんてその小説には出てこなかったんですよ。
── 見事ですね!
みうら いや、そこまでやられたら笑うしかないけど、手ぬるい段階の、「あれはフェイクでしょ?」は許せません。
……一応言っときますけど、『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』の犯人はホテルのメイドです。みなさんもさらに観たくなったでしょ(笑)?
『ツイスターズ』
── 2枚目のチラシは、巨大竜巻が発生するパニック映画『ツイスターズ』です。
みうら 前に『ツイスター』っていう映画を映画館で観たんですけど……。
── 竜巻に突っ込んでいくバカの話ですよね。
みうら そうです、バカの映画でした(笑)。だからこのチラシを見て、最初リバイバル上映なのかなと思ったんですけどね。
“ズ”が付いてました。ということは続編と考えていいんでしょうか?
── 『エイリアン2』の原題が『エイリアンズ』だったみたいな感じなんですかね。
みうら そうです。
── 続編なのかリブートなのか分かりませんけど、同じ製作チームが関わっているのでシリーズのようなものではあるのかなと思います。
みうら だとすると、この映画の竜巻は、前の竜巻から続いてる竜巻なんですか?
── 「前の竜巻から続いてる竜巻」ってどういうことですか? ずっと回ってるってことですか?
みうら 「あのツイスターがまたも帰ってきた!」って、寅さんみたいな扱いかな?と(笑)。
でもチラシを見た限りでは、あのバカが突っ込んでいった竜巻がさらに大きくなって帰ってきたように思えますが。
── あと、チラシの裏面にみうらさんがお好きそうな比較図が載ってますね。
みうら また出ましたか(笑)! 大きさの比較図。また奈良の大仏が出てるじゃないですか!
── 確かに『MEG ザ・モンスターズ2』のチラシでも比較図に奈良の大仏が出てましたね。
みうら 同じデザイナーの仕業に違いありませんね(笑)。
── 配給会社も同じワーナーですね。
みうら だって、今、奈良の大仏、比較として出します? 別にティラノザウルスから都庁でよくないですか?
── 竜巻と比べるのに、ティラノザウルスを挟む必要も実はないですね。
みうら さては、そのデザイナー、奈良出身なんじゃないですかね。
当然、次にまたパニックもののチラシの依頼が来たら、奈良の大仏を出すでしょうね。もうこうなると、絶対に出してほしいです(笑)。
── でも、今回の竜巻よりもデカい敵って、なかなか現れないんじゃないですか? パッと見、富士山よりデカいですよ。今回のチラシには「巨大竜巻が多数発生」って書いてあります。
みうら それが“ズ”の意味ですね。1本だけじゃないってことですよ。
── 竜巻は「1本、2本」って数えるんですね(笑)。
みうら いや、柱みたいな形状ですから「1本、2本」じゃないでしょうか(笑)? 予告編を観たんですけど、確か「合体」って言ってませんでしたっけ? つまり竜巻に合体ロボ的な発想を入れてきたっていうことじゃないでしょうか?
── なんなら腕とか付いてる可能性ありますよね。
みうら ありますね。竜巻に人格が生まれるかもしれないですね。それか、「VSモノ」っていう可能性もありますね。チラシでは「VS人類」ってなってますけど、「ツイスターVSツイスター」も考えられます。
マサチューセッツ部屋の竜巻とテキサス部屋の竜巻の二大勢力が戦いますね、これは。そうなるともう人類では全く太刀打ちできませんよ。
人類が叡智を結集させて、メカ竜巻を生み出して対抗するかもしれません。こうなると怪獣ファンも必ず観に行きますからね(笑)。
取材・文:村山章
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プロフィール
みうらじゅん
1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『マイ修行映画』(文藝春秋)、『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。
『マイ修行映画』
文藝春秋
1650円(税込)