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みうらじゅんの映画チラシ放談

ちょっとトンマなウエスタン感にグッときました『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』『密輸 1970』

月2回連載

第132回

『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』

── 今回の1枚目のチラシは、スペインの奇才ペドロ・アルモドバル監督初の西部劇『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』です。

みうら このチラシの写真、抜群にいいじゃないですか! かつて『スリー・アミーゴス』のチラシを見たときと同じような感情を抱いたんですけど。どうなんですか?

── 日本では『サボテン・ブラザース』のタイトルで公開された80年代コメディですよね。

みうら ジョン・ランディス監督作で、『ブルース・ブラザース』と並び、最高作です。このちょっとトンマなウエスタン感にグッときたんですが、どうなんですかね?

── 実は僕、もうこの映画を観てるんですよ。

みうら と、村山さんがおっしゃるときは、僕の予想が外れてるってことですね(笑)。イーサン・ホークが保安官のバッジをしていて、ペドロ・パスカルっていう人はきっとアウトローの役だと思ったんですがね。

でも、一応予想はしてみますね。かつておそらく『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』っていうテレビドラマがあって、すごく人気だった。それを今でも放映している国があって、その国の人たちがドラマじゃなくて本当に存在する人たちだと勘違いして、「ウチで巻き起こってる騒動をこのふたりに解決してもらおう」と自分の国に呼びつける、っていう話だと思いますが。

── それはもうほとんど『サボテン・ブラザース』じゃないですか?

みうら はい(笑)。

── チラシの「イーサン・ホーク」「ペドロ・パスカル」と書いてあるフォントも、ちょっとイジってる感じありませんか?

みうら 確かに、イジってますね。しかも、この映画って31分しかないんですか?

── はい。短編なんです。

みうら 短編中の短編じゃないですか。裏面に『ブロークバック・マウンテン』の答えって書いてありますけど、どういうこと? その映画は観てるんで、何となく分かりましたけど、シリアスなウエスタン映画なんですか?

── いや、決してシリアスな話ではないというか、チラシをこのデザインにしたくなる気持ちは分かる映画でした。

みうら いや、さっぱり分かりませんけど(笑)。

── ただチラシにも書いてあるとおり、イヴ・サンローランとのコラボ作品なんです。

みうら 何で(笑)? 

── オシャレではあるんですけど、同時に「なんやねん!」ってずっと思い続ける31分ではありました。

みうら 31分って何でやねん! じゃなくて(笑)? 31分に合わせて、チラシ予想も短編つーことで。あとは観てのお楽しみ。

『密輸 1970』

── 2枚目のチラシは、韓国のリュ・スンワン監督の新作『密輸1970』です。

みうら これはチラシでもすぐ分かったんですけど、“海女映画”ですね! 海女の発祥は韓国だと聞いてます。

もう、20年近く前になりますが、当時のマイブームが海女で日本の海女ゾーンを旅してたことがあります。日本海の舳倉島(へぐりじま)っていうところの海女さんの絵ハガキを手に入れたんですが、トップレスなんですよ。紐パンみたいなのをお履きになってる写真なんです。僕が思うにこれが日本初のグラドルではないかと。そんな映画でしょうね。

── でもタイトルに「密輸」って書いてますけどね(笑)。

みうら ですよね(笑)。つーことは、海女さんが何かの事情で密輸に加担するんでしょう。いつもは貝をお獲りになってるけども、あるとき、昔沈んだ船が見つかって、巨額の金塊が発見される。で、そこから悪い奴らが寄ってきて大騒動。たぶん、1970年代っていう時代が重要になってくるんでしょうね。

── 現代のテクノロジーがないからこそ成立する話ってことですか?

みうら きっと、そうです。当然NHKの朝ドラ『あまちゃん』よりもずっと昔の話であることは確かです。日本で言えば、新東宝や大蔵映画の時代背景です。サスペンス&お色気映画なんでしょうね。

海女さんは、頭に巻く布のところに「セーマンドーマン」っていう魔除けのマークを描くんです。それは海にはトモカヅキっていう魔物がいて、海女さんと同じ顔をした妖怪から身を守るためなんですよ。

── そんなのに海で会ったら怖いじゃないですか。

みうら それを見たら死ぬみたいな。きっと、海の妖怪との対決シーンもあると思いますよ。

── みうらさん、びっくりするほどチラシのサメのことを無視してませんか?

みうら あ、本当だ(笑)。海女の方に食いつき過ぎてサメを見落としてました (笑)。

『海女の化け物屋敷』は三原葉子さん、『海女の戦慄』は前田通子さんが大活躍されます。ぜひ、日本の海女映画も観てほしいものです。

── チラシの裏には「1秒たりとも無駄がない」って書いてありますね。

みうら 海女さんは素潜りですからね。1秒たりとも無駄はありません(笑)。映画を観る方も息を止めなきゃならないかもですよ。

取材・文:村山章


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プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『マイ修行映画』(文藝春秋)、『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。

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文藝春秋
1650円(税込)