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みうらじゅんの映画チラシ放談

老人たちが各家庭についてるクーラーを壊しに行く話かもしれないです『エルダリー/覚醒』

月2回連載

第134回

『エルダリー/覚醒』

── 今回のチラシはスペイン発のホラー映画『エルダリー/覚醒』です。

みうら これ、まず「エルダリー」って言葉が分からない上に、それが「覚醒」するって言われてもさっぱり分かりません。それで選びました(笑)。まあ、右上のキャッチコピー「老人たちが暴れだす」が、ヒントなんでしょうけど。

── 確かに何が起きるのかって、このチラシの絵からはほぼ分からないですね。自分で自分の傷を縫ってるお爺さんなんですかね?

みうら そこまでするというのはやはりランボーみたいな強靭なジジイたちが暴れ出すんでしょうかねぇ。人類を滅亡させるために老人たちが暴れ出すのか、人類が滅亡するから老人たちが暴れ出すのか、予想はこの二手に分かれますが。

若い人が「老害」って呼ぶ人たちが逆襲をしてくるのか。「老害だと思っていたら、最後にゃいいことするじゃねえか」っていう「老益」話なのか、そのどちらかで間違いないと思います。

── 予想する方も人生観が問われますね。

みうら そうです。この老人は指輪をしてますよね。だから、かつては奥さんもいて、マトモな老人だったと思うんです。だから、凶暴になったのは奥さんがいなくなってからではないでしょうか?

── 妻に先立たれたわけですね。

みうら 奥さんが夫が暴れ出すのを止めていたのか、それとも奥さんの手前、暴れ出してなかったのか分からないけども、誰も制止する者がいなくなったとき、どうなったかですよね。

── ただ「老人たち」って書いてあるから複数いるってことですよね。そういう家庭がいっぱいあったってことですか?

みうら これ、正しく、僕が最近作った言葉なんですけど“アウト老”ってやつですよね(笑)“アウト老”たちが集まって、人類が滅亡するほど暴れ出したってことでしょうね。

── チラシには「前代未聞の地球温暖化」とも書いてますね。「暑い!」って怒るんですかね?

みうら ハハーン、そこですか原因は。“アウト老”たちの世代はね、当然、若い頃にはクーラーなんてありません。僕は小学生の頃にようやくクーラーが来ましたが、そういう家庭用のクーラーが普及したのは僕の年代からなんです。その前の世代となると、やっぱり今の地球温暖化にふさわしくないっていうか、慣れてない人たちですよね。ずっとクーラーをつけずに寝てたわけですから。

やっぱりクーラーのつけっぱなしは身体に良くはないっていう気持ちがあるんですよね。あと、クーラーで風邪ひくって教わってきましたからね。

── 確かに風邪ひくからつけっぱなしはよくないって言われてました。

みうら 「クーラー風邪」なんて言葉もあったくらいです。それがいつの間にか、寝てる間もつけといた方が身のため、みたいなことが言われ始めました。

── 猛暑で命に関わるからって理由ですよね。

みうら でもクーラー風邪のことを知ってる世代としては、やっぱどうしても途中で切っちゃうんですよね。消すんだけど暑くなって、何度も夜中に起きては消したりつけたりするんです。

前代未聞なのは地球温暖化ではあるけども、今の若い人たちからしたら、クーラー風邪を心配のあまり大暴れする老人も前代未聞なんじゃないですかねぇ(笑)。

── 「クーラーを消させろ!」って言って暴れ出すんですか?

みうら そうですね。1日中つけてって何やってんだ!っていうのは、怒りのひとつにはなると思うんですよ。

── 電気代も高くなってますもんね。

みうら ですよね。もっと節電しろって怒りもあるでしょう。そもそもクーラーによって排出される熱風っていうのも、自分の家だけが冷えればいいという考え方ですよね。自分はいいもの食って、人にはウンコ見せてるみたいな、そういう道徳心のなさをアウト老たちは怒りますよね。

猛暑ってみんなと同じ条件だと思いきや、“アウト老”たちの不満は意外なところに向けられていた。だからこの映画は、老人たちが街に出て、各家庭についてるクーラーを壊しにいく話かもしれないですよね。

── ホラーって書いてありますけど、そうなると警察案件ですね(笑)。

みうら 夏の時期にクーラーを壊されるっていうのは本当につらいですからね。量販店も品薄になってるでしょうから、パニックが起こるのは当然だと思うんですよね。

── 「熱波が老人たちを覚醒させる」というチラシの説明とも合ってきますね。

みうら 僕の推理、ほとんど合ってますよね(笑)。もしこの映画に続編が作られるならば、次の怒りはパソコンに向けられるんじゃないですかね? だって“アウト老”世代の最新機材はFAXですから。

── もうFAX機ってあんまり使ってないですけど。

みうら ウチの事務所ではバリバリメインで使ってますよ(笑)。FAXがもう科学の最後でいいと僕は思っていますから。

── みうらさんはFAXが失われゆく世の中にノーという気持ちがおありになる?

みうら ありますね。とてもあります。この原稿のご確認もいつもFAXでお送りしてますからね。

でも、そのうちぴあさんにもFAX機がなくなりそうですよね。最近、新しくご挨拶した方がくれた名刺にはFAX番号なんて書いてありませんでしたから。たぶん僕は“アウト老”になってFAX以外の機械を壊しにいくでしょうね。

── FAXホラーはまだ観たことがないですね。

みうら もうみんなすっかり忘れた頃、暗闇に「ピー! ピロピロ!」っていうFAX音が鳴ったら、“アウト老”が現れる瞬間です。怖いですよ(笑)。そして言うんです「FAXで十分だろう!」ってね。

取材・文:村山章


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プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『マイ修行映画』(文藝春秋)、『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。

『マイ修行映画』
文藝春秋
1650円(税込)