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みうらじゅんの映画チラシ放談

邦題は『エイリアン/やっぱあれが一番怖いじゃん!』にしていいと思います『エイリアン:ロムルス』『メリーおばさんのひつじ』

月2回連載

第135回

『エイリアン:ロムルス』

── 今回の1枚目のチラシは、伝説のSFホラーシリーズ最新作『エイリアン:ロムルス』です。

みうら 「やっぱ『エイリアン』ってこれじゃないですか!」っていうチラシ写真じゃないですか。長くシリーズは続いてますが、やっぱり一番怖いのは、人の顔に貼り付くコイツじゃないですか? 

リドリー・スコット監督も、そもそもこんなものがいきなり飛んできて顔に貼り付くの、絶対イヤじゃんって発想で映画を始めたのでは。けど、1作目がヒットしちゃったことで、それ以外のことも出していかなきゃなんないっていう歴史があった。その間、いろいろと怖がらせてきたけど、この新作では、顔面に貼り付くヤツの連打でいこうと考えたのでは? 

── 実はこの映画もう観たんですけど、だいたい合ってますね。

みうら だいたい合ってますか(笑)。

── これって“フェイスハガー”って呼ぶんですけど……。

みうら そうそうフェイスハガーと言いましたね。かつて、プロレスラーのフリッツ・フォン・エリックが得意としたアイアンクローみたいなもんですよね。

── いや、この形態の呼称がフェイスハガーなんですが、確かにかなりフェイスハガー祭りな印象はありました。

みうら (ジェームズ・)キャメロン監督の『エイリアン2』もすごく面白かったけど、やっぱりフェイスハガーの怖さにはかなわない。とうとうここに来て「やっぱアレの連打じゃん!」ってことになったんだと思います。

── 原点回帰ってことですよね。

みうら だから、“ロムルス”っていうのは「やっぱあれじゃん!」っていう意味でしょう(笑)。邦題は『エイリアン/やっぱあれが一番怖いじゃん!』にしていいと思います。

── デザインも潔いチラシですよね。

みうら 全くもって潔い(笑)。

── もう余計なことを説明する気もないですね。完成形のエイリアンすら写してない。

みうら ですよね。

エイリアンをデザインしたのはH・R・ギーガー。僕らの世代はエマーソン・レイク・アンド・パーマーの「恐怖の頭脳改革」というレコードジャケットで知ってました。エロチックなんですよね、とても。

フェイスハガーも貼り付き面がかなり卑猥な形状をしてます。そんなもんが顔に貼り付いたら最後、取れませんからね。

── 確かに勘弁してほしいですね。

みうら シリーズとしてはエイリアンがどうして誕生したのかに迫ってきましたけどね。そろそろ飽きてるんじゃないですか、みんな。

── 前作『エイリアン:コヴェナント』と前々作の『プロメテウス』ですね。

みうら 原点回帰。単なるホラー映画に戻したのではないかと? 正直言ってファンは「待ってました!」ってとこでしょう。

── チラシの裏面もストイックですね。

みうら 裏も情報がほとんどないですもんね。やはり貼り付きだけでやるつもりですよ(笑)。

── 今回の監督はアナログが好きで、フェイスハガーもラジコン操作で襲ってくるから役者も相当怖かったらしいです。

みうら いやぁ、いいですね。ホラーはアナログに戻るべきですよ。もちろん僕は観ますよ。

『メリーおばさんのひつじ』

── 2枚目のチラシは、童謡を元にしたパロディホラー、『メリーおばさんのひつじ』です。

みうら 『プー あくまのくまさん』とかもそうですけど、今、この路線って流行ってるんですか?

── ほぼ同じ人たちがやってますね。チラシにも「『プー あくまのくまさん』のスタッフが」って書いてますし。

みうら やっぱりね(笑)。この連載で、よく江戸木純さんが絡んだチラシを手に取ってましたが、そのような感覚ですね。

── 確かに海外の江戸木さんみたいな人たちがやってるプロダクションの映画ってことですね。

みうら このプーとかメリーの路線は他社には飛び火してないんですか?

── 権利が切れたものをホラーにする企画は他にもあると思うんですけど、最近はとにかくこの人たちが大量投入しようとしている印象です。

みうら 古い童話は当然、権利が切れてますもんね。でも、邦題は『メリーさんのひつじ』じゃなく『メリーおばさんのひつじ』にひねってあるわけですよね? あの歌に登場するメリーさんは、イメージとして子どもですよね。そのメリーさんが、なんと年を取ってとうとう羊になったってことですかね(笑)?

── この後ろにいる羊がメリーさんってことですか?

みうら ですね。メリーさんは羊を飼ってるうちにとうとう羊になったんですよ。

── 恐ろしいですね。

みうら ほら、人間が羊の子どもを産む映画があったじゃないですか。

── アイスランドの映画『LAMB/ラム』ですよね。

みうら それです。羊の牧場やってる奥さんが羊の赤ちゃんを産んで育ててましたよね。

── 一緒にソファーに座ってテレビ観てたりしてましたよね。

みうら 子どもが羊である以外、ごくフツーの家族団らんでしたよね(笑)。この映画でも、メリーおばさんが産んだ羊って可能性もありますよね。

── 子どもだったら当然お母さんについてきますよね。

みうら ですよね。チラシのコピーに「みんなが死ぬまでついてくる」って書いてあります。それほど人気がある羊だってことでしょうね。

── 羊がついてくるんじゃなくて、みんなが羊についてきてるんですか?

みうら 何せ魅力的な羊でしょうから。

── なるほど、なるほどね。

みうら みんなが死ぬまでついてくるくらい人気がある羊ですから、メリーおばさんは、さしずめトップブリーダーですね。

── ちなみに原題は歌のタイトルそのまま『Mary Had a Little Lamb』。映画を観てないのでメリーさんの年齢は分からないですけど、確かに「おばさん」と書いているのは邦題だけですね。

みうら 「ステラおばさんのクッキー」とかあるじゃないですか。あのカンジですかね(笑)。

どんな想像をしても怒られない映画を提供してくれているわけですから。それにもっとひどいんでしょうね、ストーリー。ま、こちらとしても今後ともよろしくです。

── でも、これだけ乱発していたらお腹いっぱいになりませんか?

みうら ラム料理ばかり出されると困りますけどね。

取材・文:村山章


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(C)2022 Dark Abyss Productions Ltd

プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『マイ修行映画』(文藝春秋)、『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。

『マイ修行映画』
文藝春秋
1650円(税込)