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みうらじゅんの映画チラシ放談

インド神話に出てくる白猿のハヌマーンをもう一度、世界的ヒーローにすべく撮ったのだと思います『ハヌ・マン』『シン・デレラ』

月2回連載

第136回

『ハヌ・マン』

── 今回の1枚目のチラシは、神話のヒーロー、ハヌマーンをモチーフにしたインド映画『ハヌ・マン』です。

みうら ハヌマーンには少し思い入れがありましてね。昔『ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団』という映画を観たんですけど、それ、日本の円谷プロダクションとタイのチャイヨー・プロダクションの合作だったんです。物語の主役は実はウルトラ6兄弟じゃなくて、インド神話に出てくる白猿のハヌマーンだったんです。

何年か前、『TV見仏記』のロケでタイに行ったんですけど、そのとき偶然、そのチャイヨー・プロダクションの跡地を見つけたんです。鉄柵の向こうにウルトラマンの巨大な顔の像が見えたのでびっくりしました。

── まだ残ってたんですね。

みうら 建物は完全に廃墟でしたけど。どうやら聞くところによると、後に円谷プロとウルトラマンの権利関係をめぐってもめたらしいです。

── そのとき、ハヌマーンの像はなかったんですか?

みうら ありませんでした。当時、後半に出てくるウルトラ6兄弟の方が人気があったんじゃないですかね。インドとしても黙ってられなかったのでしょう。こりゃハヌマーンをもう一度、世界的ヒーローにすべく撮ったのだと思います。

でもこのチラシを見る限りだと、主人公は白猿ではなくウルヴァリン的なキャラのようですね。

── 大きいものを持ってるんで、力持ちな人間に見えます。

みうら 確かに神ではなく人間ですね。そういや映画のタイトルはハヌマーンじゃなく『ハヌ・マン』でしたね(笑)。

「猿の将軍ハヌマーン×平凡な青年」とチラシに書いてありますし、平凡な青年にハヌマーンが乗り移るんでしょう。でも、乗り移っても、猿には変身しない。ウルトラマンでいえばハヤタ隊員のまま大活躍するようなものですね。

「異色の最強ヒーロー」とは、平凡な青年のままの姿でハヌマーンの武器をブンブン振り回すんでしょう。でも、この大きな棒、いつも持ち歩かないといけませんからね、周りからは「オマエ、どうかしてんぞ」と言われるシーンはあると思います。

── 持ち運ぶには不便そうですね。

みうら 通学の満員バスで「じゃまだよ!」って文句言われたり、コレ引きずって教室に入ってきて、先生に叱られたりするでしょうね。彼女にはいつも「もういい加減にして!」と言われてるんだけど、あるとき、この棒を使って世界を救うんですよ。ラストシーンで彼女が「やっぱりあなたの棒、ステキね」って言うと思います(笑)。

映画館の売店に、コレのグッズが販売されていれば僕は買うんですけどね。

── どの程度の大きさのグッズですかね? キーホルダーレベルなのか迷惑レベルなのか。

みうら 迷惑レベルだと、家に持ち帰るまでがひと苦労(笑)。

── ですよね(笑)。

ある夜、ハヌマーンがこの青年の家を訪ねてくるところから映画は始まります。そして、この棒を差し出して「おまえにやる。おまえは今日からハヌ・マンになるんだ」と言いますね(笑)。

── 突然、そんなこと言われても困りますよね?

みうら でもね、これが悪の手に渡ったら大変なことになるとハヌマーンは説得するわけです。

── じゃ、この棒の奪い合いになるってことですかね?

みうら たぶんそういうことになるでしょう(笑)。だって異色のヒーローですから、何があってもおかしくないと思いますよ。

『シン・デレラ』

── 2枚目のチラシは、誰もが知っている童話を基にしたホラー映画、『シン・デレラ』です。

みうら このタイトル、当然『シン・ゴジラ』の“シン”でしょうけど、日本の配給会社は最初邦題に「死んデレラ」を考えたと思うんです。なつかしのキンチョールのCM「飛んデレラ、死んデレラ」をヒントにね。

でも、あまりにもそのギャグ古すぎじゃないですか、若い人には通じません。だから『シン・デレラ』にしたんだと思います。ということはですね、この映画のシンデレラはおそらくゾンビですね。

── はい?

みうら あの話と違って、実際には舞踏会に行けなかったシンデレラがね、その恨みを残して死んだんでしょう。そして、ゾンビ化して舞踏会に出席してた奴らに復讐をしにいくんだと思います。

── 確かにこのチラシ、舞踏会を血祭りにしそうなビジュアルですね。

みうら チラシの文面に「クソ」って書かれてるでしょ。それはクソのシーンがあるからなんですよ。

── シンデレラがですか?

みうら いや、かぼちゃの馬車の馬フンかもしれません。それを投げつけたりするんでしょうね。そうでもしないと、ホラー映画ファンは喜びませんから。

── 確かにタイトルだけで出オチというか、ただシンデレラが人を殺すだけだと、簡単に想像できますもんね。

みうら でしょ? まず、シンデレラの清楚なイメージを崩すにはそれが一番だと思うんですけどね。

── シン・デレラは下品な映画でもあると?

みうら 「ゲヒン・デレラ」でもあるでしょうね(笑)。

取材・文:村山章


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(C)2022 Dark Abyss Productions Ltd

プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『マイ修行映画』(文藝春秋)、『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。

『マイ修行映画』
文藝春秋
1650円(税込)