みうらじゅんの映画チラシ放談
チラシのニコラス・ケイジの感じが僕の夢に出てくるオッサンに似ています。その似顔絵がこれです『ドリーム・シナリオ』『テリファー 聖夜の悪夢』
月2回連載
第138回
『ドリーム・シナリオ』
── 今回の1枚目のチラシは、A24製作、ニコラス・ケイジ主演の不条理スリラー『ドリーム・シナリオ』です。
みうら コレはズバリ、僕の予想が当たってると思います。チラシの右のキャッチコピー「悪夢で会いましょう」でピン!ときました。
僕、昔からたまに同じ夢を見るんです。暗い屋敷の中で何かを探してるんですけど、ある部屋に行くと椅子に男が後ろ向きに座ってるんです。突然、その男が振り返ると、毎回同じオッサンでね(笑)。
目が覚めて考えるとアイツだっていうのは分かるんですけど、夢で見てるときは毎回“初見ロール”でね。だからうなされて起きるんです。このチラシのニコラス・ケイジに感じが似ていてね。
── ハゲた人ってことですか?
みうら いや、ハゲてはいないんだけど、何となく雰囲気がね。ひょっとして僕の夢だけじゃなくて、いろんな人の夢に出てるんじゃないかと。村山さんは、怖いオッサンの夢を見たことないですか?
── いや、見たことないですね(笑)。
みうら 忘れちゃってるんじゃないですか(笑)?
── 怖い人形の夢は見るんですけど、怖いオッサンは見てないですね。
みうら そうですか。何度も見てるオッサンなので、次に見たときは怖いんですけど、ちょっと素性を聞いてみようかなと思ってんですよ。だからね、コレ、たぶんそんな映画じゃないかと思って。誰しもの悪夢に出てくる男の話でしょ?
── ハイ、今のところほぼ100%で合ってますね(笑)。
みうら でしょう! やっぱりね。
── つまりみうらさんの夢に出てくるオッサンの話が映画化されて、ニコラス・ケイジが演じてるってことですか。
みうら たぶんそうだと思いますね。この映画を観たらきっと、そのオッサンの正体が分かるんでしょう。
── キャッチコピーだと「悪夢」ですけど、別におじさんが怖いことをしてくるわけではないんですか?
みうら 僕の夢は振り返ったところで終わりですが、その先にはもっと怖いことが待ってるんでしょうね。でもね、声をかければ「あ、どうも」ってあちらも言ってくるのかもしれないですしね。
── もしかしたら気さくなオジサンかもしれないわけですよね?
みうら ですね。僕のことは当然、相手は知ってますから。
── でも映画だったら、同じ夢を見るのはたぶん導入部で、その先まで描かないと2時間はもたないですよね?
みうら そりゃ、もたないと思いますね。でも、次見たときは僕、勇気を出して「もしかしてニコラス・ケイジさん?」って聞いてみます。
でも大勢の人がそいつの夢を見てることは確かです。ちなみにこれが僕の夢のオッサンの似顔絵です。
きっとこのチラシにある「悪夢で会いましょう」ってコピーからしてニコケイがいろいろと変装して夢に出てくる映画なのでしょう。
── 現実に「アナタですよね?」て思う人に会ったことはないんですか?
みうら 「この人だ!」という経験はまだないんですが、電車に乗ってたり街を歩いたりしていて、ちょっと似てる人は見かけたことありますね。でも、ドンピシャな人ではありません。だから、この映画を観ると、そのオッサンの正体が分かる気がしてます。
── 実は、この映画をすでに2回観に行ってるんです。
みうら ええ!? オッサンの夢は見ないのに(笑)。
── はい。もう1回行こうかなって思ってるくらいで。だから今のところ、みうらさんの話がほとんど正解してるので、コメントに困ってます(笑)。
みうら つまり、夢の中に出てくるオッサンと現実に会うって話だってことですね。
── そうですね。
みうら この人は大忙しですよね、世界中の夢に出まくってるわけですから。
── 映画の中でも「フランス人の夢にも出てきて人気」みたいなことを言われていました。みうらさん、この映画、本当に観てないんですよね?
みうら 映画はまだ観てませんけど、夢は何度も見てますからね。
── 空恐ろしいくらいそのとおりの映画なんです。かろうじて違うところがあるとすれば……。
みうら それ以上は言わないでくださいよ。僕の夢が壊れてしまいますから(笑)。
── この連載を読んだ人が、みうらさんの絵を見て「そのオッサン、自分も見てます!」って名乗り出てくれるかもしれないですからね。
みうら 上映館ではニコラス・ケイジの似顔絵募集をしてもいいと思いますよ(笑)。
『テリファー 聖夜の悪夢』
── 2枚目のチラシは、ピエロの姿をした殺人鬼が襲ってくるホラーシリーズ第3弾、『テリファー 聖夜の悪夢』です。
みうら たまたま1作目を観ちゃったんです。このピエロ、本当どうしようもない奴でね。だいたいホラー映画って、ひとりくらいは生き延びたりしてもいいじゃないですか。
── 確かに、誰がどこまで生き残るかのゲームみたいなところありますよね。
みうら そこがハラハラするところでもあるでしょ? でも、この映画、全滅なんですよ(笑)。
チラシのコピーに「全世界が吐いた」って書いてあるでしょ? 本当やり口もエグくて。ピエロはズルくってやり返されてもすぐ再生してるんですよ。
殺人鬼にもそれなりに弱点とかあってもいいじゃないですか。でもこのピエロ、弱点がなさすぎるというか、ただただ酷いことをするんです。逆に死んだってことになってもね、どうせ起き上がるだろうなという、何だろう期待どおりというか……。
── もはやホラーだけど安心感があるってことですか?
みうら ですね。ピエロ側に安心感はハンパないんです。フラれてもすぐ立ち直る “寅さん”的な安心感というかね(笑)。
僕、昔から映画を観るときは主人公の気持ちになって観てきたんです。例えば『ローマの休日』だったら、オードリー・ヘプバーン側になって。そういう意味ではピエロ側になりきって観る限り安心感はあるというか。
── それって殺す側の気持ちになるってことですよね?
みうら 仕方なくですがね(笑)。
『13日の金曜日』シリーズのジェイソンだって蘇生はするものの、何というかピンチはあるじゃないですか。でも、このピエロには全くピンチがないんです。
── スティーヴン・セガールとかチャック・ノリスの主演作みたいな感じなんですかね。
みうら そうですね。「やられるわけないだろ!」っていう安心感があるでしょ?(笑)
あと、襲う人に対してせめて、恨みぐらいはあってほしいじゃないですか? それも全くないんです。
ま、「全世界が吐いた」というのが本当なら、全世界の人はピエロになりきって観てないってことなんでしょうけど。
── チラシの背景に、もうひとり怖い顔の女の人がいますね。
みうら ですね。ピエロファミリーのひとりなんでしょうか? 3作目なんでそろそろ、何かしらピエロの生い立ちが分かるのかもしれませんね。そう、1作目がわけの分からなかった『ヘルレイザー』のように。
── 『ヘルレイザー』も徐々に正体が明かされますからね。
みうら 意味がよく分からないからこそ怖いっていうのもあるんですけど、さすがに3作目ともなると、その辺に踏み込まなきゃ映画がもちませんからね。
── チラシの裏面を見ると、この人、相当調子に乗ってますね。サンタの格好してふざけてます。
みうら クリスマスに何かしらの恨みがあってほしいですよね。ピエロのお母さんが仏教徒で一度もクリスマスプレゼントをもらったことがなかったとか。
でも、このピエロに関してはたぶんそんな過去はないんでしょう。“たまたまサンタ”に決まってますよ。
── 『ジョーカー2』を抜いて全米ナンバーワンヒット、となってますけど、『ジョーカー2』は全米でもコケましたよね。
みうら あ、そうなんですか。僕『ジョーカー2』は観てないんですが、あのピエロメイクには何らかの理由があるんでしょう?
── 『ジョーカー』にはありますね。なんでこうなったのかみたいな過程をちゃんと説明してる映画でした。
みうら やっぱね。でも『テリファー』は全く理由がないままシリーズ化してるんだと思います。当然、あのピエロはマイナンバーなんて取ってないでしょうし、そろそろ健康保険証が切れるなんて心配もありません。
となると、シリーズはどんどん上映時間が短くなってません?
── 1作目は84分ですけど、2作目『テリファー 終わらない惨劇』が138分。
みうら え?
── そして今回の3作目は124分だそうです。
みうら そりゃ、ピエロになりきって見せなきゃ吐きますよ(笑)。
じゃ、仕方なく今回は「全世界が吐いた」側で見るようにします。こんなに後味が悪い映画はありませんからね。
取材・文:村山章
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プロフィール
みうらじゅん
1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『マイ修行映画』(文藝春秋)、『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。
『マイ修行映画』
文藝春秋
1650円(税込)