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みうらじゅんの映画チラシ放談

「当然ラストでは、ジェイステが巨大蜂になることは間違いないでしょうね」『ビーキーパー』『鹿の国』

月2回連載

第139回

『ビーキーパー』

『ビーキーパー』

── 今回の1枚目のチラシは、ジェイソン・ステイサム主演のアクション映画『ビーキーパー』です。

みうら なんだか安心感のあるチラシが来ましたね(笑)。で、「ビーキーパー」って何なんすか?

── 蜂を飼ってる人のことだと思います。養蜂の人。

みうら なるほど、今回のジェイステはそれですか。チラシの写真を見ると、身体は特殊スーツみたいなのを着てますけど、直に蜂の巣を持っているようにも見えますね。だってビーキーパーですもの。今までの路線のアクションとは違う気がしますね。

── 確かにジェイソン・ステイサムといえば、いつもは黒いジャケットに白いシャツですよね。

みうら それでなければ大概は上半身裸ですからね。おそらく寒い場所が舞台なんでしょう。チベットのような山で、ジェイステは養蜂業を営んでるのですが、そこが無政府みたいな状態になっていて、軍部のヤツらが制圧しに来るんだと思います。で、「キレる。」。蜂を使ってその軍隊をやっつけるストーリーでしょう。

そういえば昔、チャールズ・ブロンソン主演の『ミスター・マジェスティック』っていう映画があって。

── 農場主がスイカを荒らされてキレる映画ですよね?。

みうら そう。その養蜂版と考えていいと思います。

当然ラストでは、ジェイステが巨大蜂になることは間違いないでしょうね。そして、軍隊と戦うでしょうね。

── チラシの「キレる。」っていう文字がバカデカいですね。

みうら バカデカイは巨大化を意味しますから(笑)。これはいつもよりキレてますよ。 それも「キレる。」っていう文字が背後に配置されているところに意味があると思うんですよ。「る」の部分が肩越しになってますでしょ? これはたぶん、ジェイステが僧呂でもあるからです。普段、僧呂はキレることを禁じられてますから、すっごくガマンするんだと思いますがね。

── じゃあこのチラシはキレないように我慢してる状態なんですかね?

みうら そうなりますね。チラシでは下半身までは写ってないから分からないですけど、当然これは瞑想のポーズを取ってるんだと思うんです。瞑想のポーズで坐禅を組んでいて、ちょうどお腹の辺りにでかい蜂の巣を置いているって具合で。

本来、僧侶は殺生はできませんから、夏場の修行中に腕に蚊が止まっても、叩き潰すことはできないんです。でも、瞑想に入ってしまえば、蚊に刺されることはありません。当然、蜂にもです。 きっと『ガメラ2』の宇宙怪獣レギオンみたいに、蜂がいっぱいくっついてジェイステが巨大化するんだと思いますね。

── みうらさんはステイサムの映画だと毎回「今後は巨大化する」って予想してますよね(笑)。

みうら 『アドレナリン2』以来巨大化してませんから、そろそろしてもいい頃だと思うんですよ。

── だんだんこのチラシの写真も、巨大なステイサムが見下ろしているような気がしてきました。

みうら 大仏感があるというかね。目も半眼じゃないですか。半眼で、斜め45度くらい下を見つめてらっしゃる。

── つまりチラシの写真はステイサムが巨大化するクライマックスの場面ってことですか?

みうら おそらく悟りを開いて、金色に輝くと思いますね。「ビーキーパー」は。サブタイトルに『蜂の親玉』と入れると分かり易いんじゃないでしょうか。

『鹿の国』

『鹿の国』

── 2枚目のチラシは、日本古来から伝わる祭礼を追いかけたドキュメンタリー『鹿の国』です。

みうら 僕、今年の夏、奈良に行ったんですけど、何十年ぶりかに鹿せんべいを買ってみたんですよ。奈良にはよく仏像を見に行ってますが、鹿せんべいを買ったのはたぶん小学生以来だと思います。僕ね、もうフツーのおじいさんになれない“アウト老”ですから、そんなことしてもいいかなって思ったんです。

でも奈良公園で鹿せんべい買おうと思ったら、インバウンドの人たちで奈良公園がいっぱいなんですよ。もうちょっと離れたところで買った方が鹿が来るかなと思ったんで、春日大社の方まで足を伸ばして、参道にある鹿せんべい屋さんで買ったんです。

そこにはインバウンドの人たちもあんまり来てなくて、鹿が鹿せんべいをもらえる率がかなり低くて、鹿せんべいを買った途端、5、6匹の鹿がバーってカツ上げみたいにやってきて、周りを取り囲まれたんですよ。もうどうしていいのか焦っちゃって。何せ、“アウト老”ですから(笑)。モタモタしてるうちに、その中の1匹が僕の腰をガッて噛んだんです!

── え? 奈良の鹿ってそんなに凶暴でしたっけ?

みうら 凶暴というか、僕がモタモタしていたのが悪いんです。Tシャツに穴が空くぐらい噛まれちゃってね(笑)。それで、鹿せんべいをばらまいてその場は逃げたんですけどね。 春日大社の鹿って“神鹿”って言われてるんです。神の遣いなんですよ。春日大社には、“鹿曼荼羅”っていう、鹿の上に木が生えてて、そこに丸い鏡のようなものがあって、5体の仏を描いた絵があるんです。神仏習合しているんですよ。 きっと、その神鹿から「お前、いい歳こいて鹿せんべいの配り方もちゃんとできないのか」と、お叱りを受けたのだと思いましてね。

── (笑)。

みうら それからずっと鹿のことを考えているんです。鹿の抱き枕やいろんな鹿グッズもいっぱい買いました。で、今、事務所が鹿グッズでいっぱいになってるんです。

奈良になぜ鹿がたくさんいるのか? それはお釈迦さんが悟りを開いたサルナートという場所に、鹿野園っていう学校をお建てになった。そこには鹿がいっぱい住んでたそうです。奈良はその鹿野園を模しているわけで、鹿と日本人の付き合いはものすごく古いわけです。

なんて話を、こないだ久しぶりに仏像を見て周る連載旅行『見仏記』に一緒に行ったいとうせいこうさんにしたんです。そうしたらせいこうさんが、「え? みうらさん、いま鹿ブームなの? 俺、今度、鹿の映画のナレーションしてるよ」って言ったんです。このチラシに「ナレーション いとうせいこう」って書いてますよね。

── どんな内容の映画だと思われますか?

みうら 神に供える儀式の映画なんじゃないでしょうか? 

── この映画の祭礼は、みうらさんが“とんまつり”(とんまな祭り)を訪ね歩いたときには行ってないんですか?

みうら いや、この儀式はきっと秘めたる儀式だろうし、そう易々と一般人は見られないんじゃないですかねぇ。『ミッドサマー』とは言いませんがね(笑)。かなり、ハードな儀式であることは間違いありません。

── つまり、お祭りを掘り下げていくと際どいところにいってしまうってことですか?

みうら ですね。だから鹿ファンとしてはドキドキなんです。そうそう、2024年のみうらじゅん賞は鹿が獲ったくらい。

── めちゃくちゃハマってるじゃないですか、鹿に。

みうら そうなんですよ。だから怖い映画じゃないことを、今回は望んでいるんですけどね。

取材・文:村山章


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プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『マイ修行映画』(文藝春秋)、『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。

『マイ修行映画』
文藝春秋
1650円(税込)