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みうらじゅんの映画チラシ放談

これほどグッとくるタイトルの映画はなかなかないです『MR.JIMMY ミスター・ジミー レッド・ツェッペリンに全てを捧げた男』『エマニュエル』

月2回連載

第140回

『MR.JIMMY ミスター・ジミー レッド・ツェッペリンに全てを捧げた男』

『MR.JIMMY ミスター・ジミー レッド・ツェッペリンに全てを捧げた男』

── 今回の1枚目のチラシは、レッド・ツェッペリンのギタリスト、ジミー・ペイジの再現パフォーマンスで知られるミュージシャン、ジミー桜井さんのドキュメンタリー『MR.JIMMY ミスター・ジミー レッド・ツェッペリンに全てを捧げた男』です。

みうら これほどグッとくるタイトルの映画はなかなかないですよね。

── ジミー桜井さんのこと、ご存知でしたか?

みうら いや、僕は“東ボブ”こと、東京ボブ・ディランさんしか知りませんが、このチラシ見たとき「本当、よかった!」って思ったんです。だって、チラシの左下に、このジミー桜井さんとジミー・ペイジさんが一緒に並んで写っておられる写真がありますよね。

── はい、そうですね。

みうら 夢が叶ったんですよね! ジミー・ペイジさんに影響を受けたギタリストの方って世界中にたくさんおられるし、ジミー・ペイジさんそのものになりたかった人もいっぱいおられると思うんですけどね。

人生で挫折も味わい、無理だと思って諦めたり、いろいろ考えた結果、次の夢に向かって人生の設計を立て直したりする人がほとんどでしょう。でも、この方は極められ、本人からお墨付きをもらった。それって、やっぱり並大抵の努力ではないと思うんですよね。

多くの人が途中で挫折することを続けるっていうのも、やはりKEEP ON ROCK'N ROLLの賜物です。僕の友だちにもツェッペリンの真似して高校時代に学園祭に出てた者がいました。でも、フツーは辞めちゃうんですよね。しかし、この方はとうとう“ミスター・ジミー”と呼ばれるまでになられたわけですから。本当、スゴイです。

── 確かにタイトルの“ミスター・ジミー”もジミー・ペイジのことじゃなくて、ジミー桜井さんですもんね。

みうら そこですよね。チラシの写真を見る限り、映画『レッド・ツェッペリン/狂熱のライブ』の頃のジミー・ペイジさんのスタイルですよね。きっと本物のジミーさんが見ても、「そうそう、オレってそうだったよ!」って再確認ができるというかね。その時代だけじゃなく、きっとジミー・ペイジさんの一生を演じられるのではと? 

── 実はこの映画、もう観てるんですけど……。

みうら でしたか(笑)。

── ジミー桜井さんって、どの時代のジミー・ペイジも演奏するんですよ。

みうら やっぱ、スゴイですね!

── ツェッペリン解散後のザ・ファームとかも演奏されていました。例えば「今日は何年のツェッペリンの、どこの会場のライブの再現をするので、69年以前のスタイルのソロは絶対に弾きません」みたいなことを言う人なんです。

みうら そりゃ、こだわりはハンパないでしょうね。

── しかも、どれだけものまねが凄くても、なかなか1本の映画にまではならないですよね。

みうら ですね。そこがこの映画の興味深いところです。

── さっきみうらさんも触れていたこのドラゴンスーツも、ドキュメンタリーの中で特注で作ってる場面があるんですけど、細かいところを衣装担当の人にすごいダメ出しするんですよ。「腕を上げたときにこの角度になるように見せたいんだ!」みたいな。

みうら 衣装のこだわりもハンパないってことですね。テルミンを操るときの角度でしょうかねぇ。そりゃあツェッペリンファンは垂涎映画ですよね。

── チラシにジミー桜井さんとジミー・ペイジが一緒に写ってるのも、ジミー・ペイジが東京のライブハウスに観に来たそうなんです、ジミー桜井さんのライブを。それで「今日は何年のをやってくれたんだよね」って言ったらしいんです。それって「ありがとう、俺が20何歳のときの演奏をしてくれたね」みたいなことですよね。

みうら うわぁ、本当に来られててですか。そりゃ、スゴイ! もはや無我の境地「自分なくし」ですよね。誰しもができることじゃないですよ。唯一無二の自分なくしですからね。

── ちなみにみうらさんが「本人と会えたんだね」っておっしゃいましたけど、それって映画の序盤なんです。

みうら ええ!? ようやく会えてよかったね、めでたしめでたしで終わるわけじゃないんですね。いやあ、正しく人間ロック宝ですね、ジミー桜井さんは!

『エマニュエル』

『エマニュエル』

── 2枚目のチラシは、1970年代に一世を風靡したソフトコアポルノ『エマニエル夫人』の再映画化、『エマニュエル』です。

みうら この世には「エマニエル」と「エマニュエル」のふたりが存在するんです。しかし、このチラシには「世界を虜にしたあのエマニエル夫人が」って書いてある。当然、主演がシルヴィア・クリステルさんじゃないことは分かるんですが、一体どっちなんだってことですよね(笑)。

── 全身整形しましたっていう設定で役者が変わった1984年のシリーズ第4作ですね。

みうら そのリニューアルが“ニュエル”になったんでしょうか(笑)? “ニュエル”以降のやつも何本か観たことあるんですけど。今回の映画はその流れじゃないんですよね? “ニュエル”世代が観に行っても満足できる映画ってことでしょうね。 

当時は本当、衝撃でしたね。今はクリステルっていうと滝川クリステルさんのことでしょうが、僕らの世代は間違いなくシルビア・クリステルでしたからね。

── 確かに当時はクリステルさんなんて世界にシルビア・クリステルひとりしかいなかったですよね。

みうら 『エマニエル夫人』が大ヒットしたことで、日本も『東京エマニエル夫人』なんて映画も作りましたしね。『東京エマニエル夫人』は田口久美さんっていう方が主演だったんですけど、これは田口久美さんでもないですよね? 当時は『エマニエル夫人』があまりにも流行ったもんで、大人ものも大流行で、『五月みどりのかまきり夫人の告白』とか、高田美和さんの『軽井沢夫人』とか、数々の夫人モノが撮られたもんです。

でも今回のタイトルは『エマニュエル』ですけど、「あの『エマニエル夫人』が現代に生まれ変わる」って書いてあるじゃないですか。「あの」っていうところに点が打ってあるところも“ニエル”ファンをワクワクさせてますよね。

となると、前みたいに東南アジアを旅するんだろうと睨んでるんですけど、どうでしょう? このチラシの部屋の感じ、和風ですよね。

── 確かにオリエンタルな雰囲気ありますね。

みうら このチラシが一番伝えようとしてるのがここだと僕は思うんですよ。日本にやって来るんじゃないですか?

『エマニエル夫人』の有名なポスターでは、籐家具の椅子に座ってるじゃないですか。あのポーズは、京都の広隆寺にある、弥勒菩薩のポーズをマネていますよね。

── ああ、確かにそうですね。

みうら 物思いにふけって、手を口元に寄せて、足を組んでる姿って、仏像では半跏思惟のポーズって言うんですが、あの1作目では、劇中日本に来てもいないのにあのポーズなんですよ! 僕は「タイに行く前に日本にも立ち寄って、京都の広隆寺で弥勒菩薩を見たに違いない」とずっと思ってるんです。

── でも手が逆ですね。

みうら そうです、そうなんですよ! よくお気付きになりましたね。確かにすべてが逆なんです。僕が唱えているのは、デザイナーがポスターを作るとき、タイトルの入れ方など考えてわざと写真を左右逆にしたんじゃないかっていう説なんです。

── 撮影した現場では、ちゃんと弥勒菩薩を正しくトレースしてたはずだってことですか?

みうら そうですね。ボブ・ディランのファースト・アルバムのジャケ写も、吉田拓郎さんの『人間なんて』のジャケ写も逆版なんです。たぶん、デザイナーがそうしたんでしょう。

籐家具の椅子も、実は1作目では背もたれがたいして大きくないんです。それがあのイメージポスターで映画が大ヒットしたもんで、その後籐家具の後ろを大きく、丸くしていったんです。たぶんそれも、仏像の“光背”に似せて作ったんだと思います。

── つまり『エマニエル夫人』には日本の仏教文化の影響があったとおっしゃっている?

みうら そうですね。だから、このチラシの写真は、広隆寺がある京都の太秦近くのホテルで撮ったと僕は思っています。おそらく映画にも、夫と弥勒菩薩を見に行くシーンは出てくると思います。ついでに、広隆寺の裏にある東映太秦映画村にも行ってるはずだと僕は踏んでるんです。ま、こればっかりは観てみないと分かりませんけどね(笑)。

取材・文:村山章


(C)One Two Three Films
(C)2024 CHANTELOUVE - RECTANGLE PRODUCTIONS - GOODFELLAS - PATHE FILMS

プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『マイ修行映画』(文藝春秋)、『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。

『マイ修行映画』
文藝春秋
1650円(税込)