みうらじゅんの映画チラシ放談

邦題は分かりやすく『二代目はエクソシスト監督』とするのはどうでしょう? 『ザ・エクソシズム』『SKINAMARINK/スキナマリンク』

月2回連載

第143回

『ザ・エクソシズム』

『ザ・エクソシズム』

── 今回の1枚目のチラシは、ラッセル・クロウ主演の悪魔憑き映画『ザ・エクソシズム』です。

みうら このチラシを選んだのは、文面に「『エクソシスト』の息子が」って書いてあったからです。ということは二代目を襲名されたってことですよね。

── 何の二代目なんでしょう?

みうら 三代目J Soul Brothersがあるように、やはりここは二代目エクソシスト神父ということになりますよね。『エクソシスト』が1973年公開ですから、とっくに二代目の時代になっててもよかったんですけど、継ぐのを渋ってたんですかね? 随分と高齢になられてからの二代目です。親の七光りだって言われるのも嫌だったんでしょう。それに先代を越えるのはかなり難しいですからね。

……ちょっと待ってくださいよ。文面をよく読んだら『エクソシスト』のカラス神父役の息子が監督って書いてありますよ。どういうことなんでしょう(笑)? ということは二代目リンダ・ブレア役も何かやってるのかもしれません。

僕、リンダ・ブレアが『エクソシスト』の後に、かなりセクシーな映画に出てらっしゃった時期のビデオを集めてたことがあるんです。もし彼女の娘さんが助監督だったら、とても感慨深いですね。

それにチラシに写ってるこの二代目リンダ・ブレアも、初代リンダ・ブレアにちょっと似せてますよ。当然、天井を蜘蛛みたいに歩くやつとか、ガクンって首が回ったりするリンダ・ブレアタイプを踏襲するんでしょう。

── リンダ・ブレアタイプって言葉、初めて聞きました(笑)。

みうら いや、後にさまざまな『エクソシスト』もどき映画がありましたからね。ところで、神父二代目が監督をしたこの映画、どんな内容なんでしょうね?

── チラシの説明によれば、新作ホラー映画を撮ろうとする話っぽいです。

みうら ホラー映画を撮ろうとする映画って、『カメラを止めるな!』的な?  当然、お父さんのカラス神父のやられっぷりも再現されるんでしょう。悪魔が取り憑いたリンダ・ブレアから卑猥なことを言われ、その後、股間に一発パンチを食らうでしょ? あれは見ていてキツかった(笑)。  カラス神父、すごく痛がってましたからね。そのシーンは当然、二代目も踏襲しないとダメですよね。

── 二代目が継ぐには結構決め事があるわけですね。

みうら 老舗の味を引き継ぐラーメン屋のようにね。「先代はもっといい味出してたもんだよ」なんて言われちゃおしまいですから。息子としては、本家エクソシスト軒の味を世に知らしめたいんでしょうね。

── 「世界一有名な神父役に捧げられた」って書いてあるんで、今おっしゃってることと符合する感じはありますよね。

みうら ま、のれん分け的映画と言ってもいいでしょう。当然、二代目がまだ生存しておられる当時のスタッフに会いに行き、「ウチの親父はどうでした?」って聞く、そんなドキュメンタリー要素も入ってくると思います。

この際、邦題は分かりやすく『二代目はエクソシスト監督』とするのはどうでしょう? 

── それ、『二代目はクリスチャン』のパロディですか?

みうら そちらは、井筒監督でしたけどね(笑)。

『SKINAMARINK/スキナマリンク』

『SKINAMARINK/スキナマリンク』

── 2枚目のチラシは、カナダ産の低予算ホラー『SKINAMARINK/スキナマリンク』です。

みうら チラシに「躙り寄る悪夢。」って書いてあるでしょ。だから、悪夢が怖くてムリして起きてる子どもの話だと思うんですよ。

── 「躙り寄る」、難しい漢字だからルビも振ってありますね。「にじりよる」って。

みうら 大人でも読めませんからね(笑)。この少年、寝間着を着てますよね。寝ると必ず悪夢を見る。だから必死で起きてるんだと思います。 いや、悪夢を見るだけではなく、その後、必ずおねしょをして親に叱られてると思うんですよね。僕は小6までおねしょしてたんで、この少年の気持ちがよく分かります。しょうがないじゃないですか、おねしょは止めようがないんですから。

── 本人は寝てるわけですもんね。

みうら ウチの親は怖い顔で「また布団に世界地図描いてんのかいな!」って言ったもんです。

── 世界地図、昭和ではよく使われた表現ですよね。

みうら 昭和はおねしょにやたら厳しかったですからね(笑)。そこである日、考えたんです。ドライヤーで布団を乾かせばバレないんじゃないかと。でもおねしょって乾かすとシーツが黄ばむんですよね。乾かすことでむしろ、世界地図がより露わになってくる。もう取り返しはつきません。

それを親は2階のベランダにこれ見よがしに干すんです。ウチは角家で四方八方からそれを見られてしまう責苦なんです。思い返しただけでもゾッとします。『スキナマリンク』がホラー映画であることも頷けますよ。子どもにとって本当に怖いのは、親に叱られることですからね。

── つまりチラシに「内なる最も深い恐怖が目覚める」って書いてあるのは……。

みうら 当然、「おねしょでこっぴどく怒られること」の意味ですね。

この「スキナマリンク」って不思議なタイトルも、どこかの国ではおねしょっていう意味だったりしてね。その国の子どもはやたらおねしょするんでは? 「異例の大ヒット」とも書いてあるでしょ。たぶん、かつてのおねしょリストたちが、こぞって観に行ったんじゃないでしょうか? 本当、この少年が気の毒でなりません。

── 裏面に「夜中に起こる物事の認識を変える」とも書いてますね。

みうら おねしょホラー映画は今までなかったですからね。初見ロールな人は当然、認識を変えるでしょう(笑)。

取材・文:村山章

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プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『マイ修行映画』(文藝春秋)、『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。

『マイ修行映画』
文藝春秋
1650円(税込)