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みうらじゅんの映画チラシ放談

チラシにある吊り橋自体が怪物で、怪獣は“吊り橋効果”を試してくると思います『プロジェクト・サイレンス』『マッド・マウス ~ミッキーとミニー~』

月2回連載

第144回

『プロジェクト・サイレンス』

『プロジェクト・サイレンス』

── 今回の1枚目のチラシは、韓国のパニックホラー、『プロジェクト・サイレンス』です。

みうら  チラシを見る限り、霧の中でなにか起こるやつですね。

── そう書いてありますね。

みうら  霧といえば、スティーヴン・キング原作の映画が有名ですよね。

── 『ミスト』ですよね?

みうら  そう『ミスト』。あと『ザ・フォッグ』っていう映画もありましたよね。かつて松本清張さんが作った映画会社を“霧プロ”と言いますしね。

── 小説のタイトルにも『霧の旗』とか『霧の会議』とかありますもんね。

みうら  霧隠才蔵なんて忍者もいました。今回のチラシを見る限りだと霧は「橋の上」に立ちこめてますよね。霧の中から怪物が出てくるんでしょうけど、当然この映画はひねってくると思うんですよね。僕、『FALL/フォール』を初日に映画館へ観に行くような高所恐怖症なんです(笑)。

── 怖いけど、観には行くんですね(笑)。

みうら  映画だからです。昔ね、「勝手に観光協会」って、安齋肇さんとやってたユニットで日本全国を旅したときに、ロケでものすごい吊り橋を渡らされたことあるんですよ。いや、結局ダメで、スタッフの人に僕の服を着てもらって、代役として渡ってもらったんですけどね(笑)。

── それほどの吊り橋でしたか。

みうら  金玉が縮み上がるどころの騒ぎじゃないくらいの吊り橋でした。だから分かるんです。このチラシにある吊り橋自体が怪物だということが。

── なるほど、だから『プロジェクト・サイレンス』っていうよく分からないタイトルにして、チラシではそれをひたすら隠しているってことですね。

みうら  そうなりますね。チラシにはひと言も「吊り橋怪獣」のことは書いてありませんよね。当然、怪獣は“吊り橋効果”を試してくると思いますよ。

── 危険な体験を一緒に経験すると、恋に落ちたりするやつですか?

みうら  そうです。その逆パターンで、吊り橋離婚なんて現象も起こるでしょうね。そういう吊り橋系のエピソードがこの映画にはたくさん入ってると思います。

ツリバシヤー、これはあくまで今思いついた怪獣の名前ですがね。吊り橋に擬態するんですよ。やられたらまた違う吊り橋に擬態しますからキリがありません。

ラスト、ツリバシヤーは退治されてみんな安心して吊り橋を渡ることができるんですが、実は死んでなくて、また世界のどこかで吊り橋のふりをして待ってるんです。なぜかって? 僕にもよく分かりませんが、たぶん観客の度肝を抜くのが大好きだからでしょうね。

『マッド・マウス ~ミッキーとミニー~』

『マッド・マウス ~ミッキーとミニー~』

── 2枚目のチラシは、著作権が切れたミッキー・マウスをネタにしたB級ホラー『マッド・マウス ~ミッキーとミニー~』です。

みうら  逆に言えば著作権が切れると、この人たちに取り上げてもらえるっていうことですよね?

── やっぱり、またあの人たちなんですかね?(笑)

みうら  たぶん『プー あくまのくまさん』を作ったあの人たちではないでしょうか(笑)? これから著作権が切れるものをリストにして書き出してるんでしょうね。

── ちょっとハイエナみたいな印象はありますね。

みうら  そもそもは他人がお作りになったキャラクターですからねぇ。いくら著作権が切れたからといっても、その人たちの常識が問われるとは思うんですよ。タイトルの字体もあからさまですし、もう怒られる気満々ってことですよね。

僕、昔『見ぐるしいほど愛されたい』っていう漫画をね、ヤングマガジンで連載してたことがありまして、その1本に『タンスの国のアリス』っていうタイトルの漫画を描きました。もう遊んでもらえなくなったぬいぐるみたちが、タンスの奥に仕舞われてしまう話なんですがね。そのぬいぐるみの中に今回、この『マッド・マウス』に似たキャラも描いてしまっているんですよ。

── それは誌面に載ったんですか?

みうら  もう時効だから言いますけど、連載中は載っちゃってたんですが、単行本にまとめるとき、ヤバいキャラクターは全部描き換えたんです。自分のオリジナルっぽいものに。でもやっぱり、すごく有名なキャラじゃないと漫画は面白くないわけですよ。

タンスの奥には牢名主のぬいぐるみがいるんですよ。もうどのぬいぐるみよりもボロボロで、若い頃は俺はよぉとか言って、新参者たちに武勇伝を聞かせたりするんですが、そいつも初めは有名なキャラでした(笑)。やっぱり牢名主って相当有名なやつじゃないと務まらないでしょ。

昔はそうやってちょっとだけ変えてみたりしてね、どうにかやってきたもんですよ。ただ僕らの世代はちょっとパロディー世代というか。本家本元の面白いとこを引っ張り出せみたいなとこもあったんですよ。

── はい、権威に対してはいじっていいみたいな価値観がありましたよね。

みうら  でもこのチラシはちょっと怖いですね。このチラシの笑顔とは違う意味で怖いです。一応予想すると、ミッキーの仮面をかぶった殺人者の話ですよね、これはどう考えても。

── タイトルでミッキーだって言ってますからね。

みうら  ただ別のタイプもいますよね、チラシの写真を見る限り。

── いますね。黒目のやつと白目みたいなのがあるヤツがいますね。

みうら  黒目のやつはやっぱり初期ミッキーなんですかね。チラシにもわざわざ『蒸気船ウィリー』でデビューしたとまで書いてるんで、歴代ミッキーが見られる可能性はありますね。

大どんでん返しっていうのは、「実は著作権が切れてなかった!」ってやつじゃないですか(笑)? この監督にとっての大どんでん返し!

── (笑)。

みうら  パロディっていうのは世の中に向けてのアンチテーゼだ、みたいな感覚もありましたけど、この映画も思想があるのかないのか、観てみないと分かんないですよね。

── 『プー あくまのくまさん』に思想はなかったですけども。

みうら  やっぱりありませんでしたか(笑)。ということは、村山さんはご覧になったわけですね、『あくまのくまさん』。

── はい、観ました。続編も観ました。

みうら  ということは結構面白かったってことですね?

── 1作目は本当にひどかったんですけど、2作目の方が頑張ってました。やっぱり多少でも金があると、人はもうちょっと頑張れるんだなって思いました。

みうら  そういうことを学んだんですね(笑)。

ムリヤリ予想するとしたら、お金がなくてミッキーの人形を買ってあげられなかったお父さんが、娘の誕生日に素っ裸になって、ミッキーみたいに身体を黒く塗って、ミッキーの格好をしたら娘に大泣きされて……。それじゃつまんないですよね。映画として。

あるマッドサイエンティストの罠にかかり、お父さんがミッキーに改造されてしまう。いや、これもよくありますよね。

── お父さんが頑張れば頑張るほど、著作権にも抵触していきますね(笑)。

みうら  ですよね。本当、困った映画ですね(笑)。

『プロジェクト・サイレンス』
上映中

『マッド・マウス ~ミッキーとミニー~』
上映中

取材・文:村山章
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プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『マイ修行映画』(文藝春秋)、『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。

『マイ修行映画』
文藝春秋
1650円(税込)