みうらじゅんの映画チラシ放談
チラシのテイストは僕たち“アウト老”を騙す戦法ですね(笑)『皆殺しに手を貸せ』『メロディがいた季節』
月2回連載
第146回



『皆殺しに手を貸せ』
── 今回の1枚目のチラシは、B級テイストの西部劇『皆殺しに手を貸せ』です。
みうら これはひょっとして今の映画ですかね?
── 最近の映画ですね。2024年製作と書いてあります。
みうら まんまと引っかかりました(笑)。つまり新作映画のチラシを60年代後半のマカロニ・ウエスタンのテイストに仕立て上げたってわけですね。マカロニ・ウエスタンのDVDは何年か前にずいぶんシリーズで出たじゃないですか。この映画、観逃してるやつなのかなと思って選んじゃいました(笑)。
これは間違いなくマカロニのアウトローたちに憧れた僕たち“アウト老”を騙す戦法ですね(笑)。お見事です。
チラシの画像もわざと荒らして当時の雰囲気を出しておられる。
── わざわざ「カラー作品」と書いてあるのも、当時へのオマージュですよね。
みうら 僕らの世代はその文字に弱いですからねぇ。昔「キドカラー」って書かれた宣伝用の飛行船が空を飛んでいたもんです。日本を横断してたんですよ。新幹線のドクターイエローみたいに「キドカラーの飛行船を見たら幸せになる」みたいな伝説すらあって(笑)。僕が小学生のとき、朝礼で校庭に立っていたらちょうどキドカラー号が上空に現れて、ひと騒動ありましたよ。
このチラシ、「カラー作品」の他にもちょろちょろいろんなところに仕掛けがしてありますね。16mm、コダックフィルム撮影とも書いてありますねぇ。
僕も実は、当時撮影したフィルムをいまだに持っていましてね。それは中一のとき、アニメを作ったんですよ。タイトルは『荒野のテンガロン』っていうんですけど。
── あからさまにマカロニ・ウエスタンなタイトルじゃないですか。
みうら 大好きでしたから(笑)。主人公はケチャップっていう名前の猫みたいな顔したガンマンでね。当然、テンガロンハットをかぶってました。
その頃、ちょうど小学校の同窓会の話があったんですよ。僕、中学から私立の男子校に行ったもんで、何かモテモテになる方法はないだろうかと思ったんですね。それで、その『荒野のテンガロン』のアニメーションを作って上映したらきっと「じゅんちゃんスゴイ!」って女の子に言われるんじゃないかっていう、まあ、青春ノイローゼだったんですけどね(笑)。
その頃、8mmフィルムの撮影機を親戚のおじさんが買ってたもので、使わせてくれって頼んだんです。しかし、僕、アニメーションの作り方ってやつを全く知らなくて、当然セルっていうものも知らなかったもんでね、紙芝居みたいに1枚1枚画用紙に描いていったんですよ。夏休みだったと思うんですけど、その休みを利用してね。
結局、50枚ぐらい描いたんですけど、それが限界で。でもセルじゃないから、前の絵を下に敷いて上に重ねて描くことができないじゃないですか。全てズレてました。そのシーンが、酒場にいる悪党たちがバーカウンターの向こうに並んでる酒瓶をピストルでバンバンバンって割っていくところで。ズレてるわ、うまく割れているように見えないわで落ち込みました。結局、そのシーンだけで、同窓会に間に合わなかったという(笑)。
── そんな努力の結晶がまだ残ってるんですね。
みうら はい。そのフィルムがまだ残っているんです。大人になってから、その原画を基にして作り直してもらったものを、僕の展覧会の会場で流してました。そんな僕ですからね、このチラシにグッとくるのは仕方ないかなと。
── それは間違いなく騙されますね。
みうら でもマカロニ・ウエスタンって、当時、僕は映画館で観てないんですよ。ほとんどはテレビの洋画劇場で観てます。
そうそう、去年の夏、新宿の映画館で『夕陽のガンマン』と『続・夕陽のガンマン』を朝だけ上映してたんですよね。当然その作品はVHS、レーザーディスク、DVDも全部持ってますけど、やっぱり大画面で観たかったんで、行ったんです。
アウト老な観客は20人ぐらい来てたと思います。おそらく僕と同じ世代、映画館でマカロニを観てなかったアウト老たちです。
だから、この『皆殺しに手を貸せ』も当然、そういう人向けに作られたんだと思うんですけど……、気がついたらもう上映始まってんですよね、コレ(※取材は2025年4月下旬)。
── 確かに東京の上映、終わってますね……。
みうら でしょう(笑)。それにこれ、わざわざ吹替版で上映してたんですよね。そこら辺も、クリント・イーストウッドといえば山田康雄さんの世代に向けてのことですよね。
ところでコレ、本当にアメリカ映画なんですかね?
── そのようですね。
みうら マカロニ・ウエスタンを愛するアメリカ人監督が撮ったっていうことなんでしょうかねぇ。
── エグゼクティブ・プロデューサーがコリー・スネルさんって書いてあるんで、オースティンさんと親子でお父さんにお金を出してもらって撮ったのかもしれないですね。
みうら スネかじり映画ですかねぇ(笑)。
いや、僕はこのスネル親子、もしかしたらアメリカ人じゃないかもしれないなと思ったんですよね。当時マカロニ・ウエスタンを撮ってたイタリア人の監督って、初期の頃はアメリカ名で発表していたじゃないですか。この映画も、そこをパロディにしてるんじゃないかと?
── まずアメリカ人のふりをするっていうところからが、マカロニ・ウエスタンの伝統ってことですね。
みうら 楽しく引っかかるのがいいと思いますね(笑)。
『メロディがいた季節』



――2枚目のチラシは、70年代の名作『小さな恋のメロディ』に主演した子役の現在を写したドキュメンタリー、『メロディがいた季節』です。
みうら いやぁ、このタイトルは中・高のとき、『小さな恋のメロディ』を観て、グッときた人たちの“アウト老映画”であることは間違いないですね(笑)。
── でもフィーチャーされてるのは劇中の子どもたちじゃなくて、演じていたトレーシー・ハイドとマーク・レスターみたいじゃないですか?
みうら でも、その“おなつかしい”感がまたグッとくるわけで。中には記憶がごちゃごちゃになってマーク・レスターをマーク・ハミルと間違えてる方もおられるかもですが(笑)。
── マーク・ハミルだったらさすがに『スター・ウォーズ』のファンが気づくんじゃないですか?
みうら ですよね(笑)。マーク系ってあんまり見た目は老けない体質なんですかねぇ。
── 確かにチラシの写真だと顔がツヤツヤしてますね。
みうら まさか、このチラシ、加工してませんよね(笑)。ところでチラシの裏面の写真を見ると、このふたり、日本に来たんですか?
── 2022年にそろって来日していました。舞台挨拶とかもしていたみたいです。
みうら そうだったんですか。この写真に写っている五重塔は、たぶん京都の東寺の五重塔だと思いますね。
── チラシにも「京都奈良でのオフ」って書いてありますね。
みうら 奈良にも行っているんですか。右の写真は、京都の蹴上の疏水ですね。僕が通ってた中学と高校のすぐ近所なんです。これ、“ちいこい”の観光旅行映画なんですか? ちなみに“ちいかわ”じゃなく、『小さな恋のメロディ』約めて“ちいこい”ですけどね。
当時は『小さな恋のものがたり』っていう漫画もありましたし。チッチとサリーの。あと、ダスティン・ホフマンの『小さな巨人』っていう映画もありました。
── それは恋愛ものじゃなくて西部劇映画ですよね?
みうら そうです(笑)。ちいこいの原題は『Melody』、ビージーズの「メロディ・フェア」って主題歌も大ヒットしましたからね。
チラシに「半世紀の時を超え、ふたりが再び蘇る初恋への道」って書いてありますけど、どういう意味なんでしょう?
── どこが引っかかりますか?
みうら いや、それって焼け木杭に火が付くってことじゃなくて?
── 「初恋の道」をたどってるみたいなんで、プラトニックな再会なんじゃないですか?
みうら 初恋の道が京都や奈良にあると?
── 京都の哲学の道を散歩するぐらいがクライマックスなんじゃないですか?
みうら たぶん、“ちいこい”初上映のとき、ふたりは京都にも舞台挨拶で来日してたんじゃないですかね。そんな写真が当時の映画雑誌に載ってたような……。
── じゃあ、京都・奈良はそのときの思い出の地なんじゃないですか?
みうら 奈良はよく分からないですけどね。その来日時に何があったんですかねぇ?
── それはちょっとご本人たちに聞かないと分からないですけど……。
みうら そういえばわりと最近観た『ベニスに死す』のビョルン・アンドレセンさんのドキュメンタリー映画でも、初来日したときの京都の思い出を語っておられました。だから、正式には関西での舞台挨拶の思い出ですね。何もマークさんが日本のコーディネーターに連れていってもらった先斗町で芸子さんに恋して、その人にもう一度会いたいとかって言ってるって話ではないことは確かです(笑)。
しかし、何があったんでしょう、ふたりに。
── みうらさんがガイドだったら、京都はどこがおすすめですか?
みうら そうですねぇ、僕だったら大報恩寺っていうお寺にお連れしますね。
大報恩寺、通称「千本釈迦堂」って呼ばれてるんですが、本当、仏像が見事でね。その上、観光客の方も少なくて。快慶作の十大弟子立像が特にスゴイです。
── みうらさんが案内できたら良かったですね。
みうら “ちいこい”とは全く関係ないですけどね(笑)。でも、このドキュメンタリーには何かしらの初恋話が出てくるんでしょうね(笑)。あの頃、言えなかったけど的な。
── 芦田愛菜と鈴木福くんが60代になって再会するみたいなことですかね?
みうら その例えは分かりやすいですね。だから日本では『マル・マル・モリ・モリ!がいた季節』ってカンジですかね(笑)。
── だったら芦田愛菜と福くんが出てこないとみんな怒るんじゃないですか?
みうら コメンタリーとして出てきたりして(笑)。
ちなみに横浜独占って書いてますけど、どういうことですか?
── 横浜の映画館シネマノヴェチェントが製作・配給だそうで、ソフト販売や配信の予定もないって書いてありますね。確かふたりを日本に招聘したのもシネマノヴェチェントが関わっていた気がします。
みうら なるほど。この『メロディがいた季節』は“ちいこい”に恋した日本のファンの映画だということですね。夢の企画ですね。
僕も若い頃に夢中になった映画『ジェレミー』の主演のふたり、ロビー・ベンソンさんとグリニス・オコナ―さんを日本に招いて『ジェレミーがいた季節』っていうのを撮りたくなりましたよ(笑)。ありがとうございます。『メロディがいた季節』。
『皆殺しに手を貸せ』
https://www.cine-mago.com/collection/minagoroshi
『メロディがいた季節』
4月29日(火・祝)より公開中
https://cinema1900.wixsite.com/home/melody
取材・文:村山章
(C)MMXVIII SUNRUNNER FILMS LLC ALL RIGHTS RESERVED/Cinemago
プロフィール
みうらじゅん
1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『マイ修行映画』(文藝春秋)、『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。


『アウト老のすすめ』
⽂藝春秋
1540円(税込)