みうらじゅんの映画チラシ放談
『何がジェーンに起ったか?』と同時上映をお願いします!『サブスタンス』『ガラ』
月2回連載
第147回



『サブスタンス』
── 今回の1枚目のチラシは、元人気スターが若返りを目指すホラー映画『サブスタンス』です。
みうら これをなぜ選んだかというと、チラシの後ろのストーリーをちょっと読んでしまったからです。
── それは珍しいですね(笑)。
みうら 若返りホラーといえば昔、『永遠に美しく…』って映画あったじゃないですか。
── 1992年のブラックコメディですね。
みうら 当時、映画館で観たんですけど、やっぱ年寄りの若返りには無理がありますよね(笑)。たぶんこの映画もそういうことですよね?
僕、今、その逆の老け作りを始めたもんで、みなさんにはぜひ、ベティ・デイヴィス主演の『何がジェーンに起ったか?』をまずお勧めしたいです。『何がジェーンに起ったか?』の後にベティ・デイヴィスさんは『妖婆の家』っていう映画にも出ておられます。
それはイギリスのハマー・フィルムって会社のホラーもので、実際は「家政婦は見た!」的なスリラー映画だったんですけどね。そうそう、ベティ・デイヴィスさんと言えば、キム・カーンズっていうシンガーの「ベティ・デイビスの瞳」っていう歌が大ヒットしたこともあります。
『何がジェーンに起こったか?』のベティ・ディヴィスさんはね、“老け作り”が本当すごくて、真のホラー映画でした。確かその役で賞をお取りになったんじゃなかったかな?
── ベティ・デイヴィスがアカデミー賞主演女優賞候補になってますが受賞はしていなくて、超不仲だった共演者のジョーン・クロフォードが別の人の代理でオスカー像をもらって、余計に仲がこじれたみたいな話が伝わってますね。
みうら まぁ、映画もそういう仲の悪い姉妹の話でしたからね。やっぱり世の中っていうのは今も変わらず若作りの方に興味があるようですね。『サブスタンス』も若作りし過ぎてとんでもないことになる、“老いるショッカー”の話なんでしょう。
東宝怪人シリーズの『マタンゴ』のように変貌するんじゃないですかね。きっと後味悪い感情を持って映画館を出ることになると思います。そう思うと、マタンゴファンとしては観たくなりますが(笑)。
── 確かに『何がジェーンに起ったか?』と合わせると、すごく深みが出てくる気がします。
みうら この際『サブスタンス』は『何がジェーンに起ったか?』と同時上映をお願いします!
『サブスタンス』
上映中
(C)2024 UNIVERSAL STUDIOS
『ガラ』



── 2枚目のチラシは、台湾で大ヒットしたというホラー映画『ガラ』です。
みうら もちろん、これはチラシで選びました(笑)。口の中のアップでしょうか? 奥の方に歯のようなものがいっぱいありますが。
僕、5年くらい前に大腸ポリープの内視鏡検査をしたんですけど、そのときに見せられた画像にも似てます。
右上のキャッチコピー「その音が聞こえたら、さいご」って、どこかで聞いたようなコピーですが(笑)。と、なると耳の中に歯が生えるんですかねぇ。タイトルの“ガラ”がヒントなんでしょうが、“ガラ”と言えば僕にはダリの奥さんしか見当たりません。あとは『ウルトラQ』のガラモンぐらいでしょう。
── ガラモンは浮かびますね。
みうら ガラパーティーって言葉、聞いたことがあるんですが、あれはなんのことですか?
── なんかリゾート地とかで聞きますよね?
みうら リゾート地のパーティで起こるホラーなんでしょうか?
「途中退出者続出!」っていう文句も書いてありますけどね、昔は「失神者続出」って言ったもんですよ。失神者続出だと衝撃映像があるんだなって思いますけど、退出者続出では単に映画がつまらない場合もありますからね(笑)。
── チラシの裏面の真ん中に、“ガラ”の答え合わせが書いてありました。台湾で歯ぎしり音を表す擬音語だそうです。
みうら やっぱ、歯には関係あったんですね。ぎしり過ぎるととんでもないモンスターになるんでしょう。
歯ぎしりって、いびきよりも軽んじられてますからね。歯ぎしり&いびきをする人も当然おられるだろうけども、いびきの方が耐えられない轟音として扱われてる気がするんですけど。でも、そんな風に歯ぎしりを軽んじてるととんでもないモンスターになるぞって、この映画は警鐘を鳴らしてるんじゃないですかね?
── 『サブスタンス』に続いて警鐘の映画なんですね。
みうら 警鐘ブームなんでしょう(笑)。
おそらく蘇民将来(そみんしょうらい/災厄を払い、疫病を防ぐとされる神)みたいなお話だと思います。歯ぎしりを軽んじている家にある日、すごい綺麗な女性が訪ねてきて、ひと晩泊めてくださいって言うんだけど、実はその人が妖怪歯ぎしり女“ガラ”で、ものすごい歯ぎしりをして、その家の人たちを狂い死にさせるんです。それがどんどん台湾中に広まってね。
── 妖怪なら、確かに擬音でガラって名付けそうですね。
みうら その妖怪ガラに「歯ぎしりがすごくうるさいんですけど」って注意などすると、ガラの顔は口だけになって、「一体、どの歯がうるさいのかな?」って見せてきて「ギャー!」ってなるんでしょうね。
── それは怖いです。
みうら 昔、『デッドリー・スポーン』ってホラー映画で、歯がギッシリのモンスターが出てきましたよ。やっぱ歯が多すぎると、上下の噛み合わせがうまくいかなくて、ギシるんでしょうね。
── だとしたら気をつけたいですね。警鐘を鳴らすビジュアルとしてはかなり有効ですね。
みうら 歯医者さんの警鐘かもしれませんけど(笑)。
「嘔吐者続出」とも書いてありますけど、映画館も後始末が大変ですね(笑)。「その音が聞こえたら、さいご」っていうのは、最後に自分も妖怪ガラになるってことかもしれません。
── いびきでも、いびきをかいてるのは自分だって気づいて目覚めることもありますもんね。
みうら 台湾ではそれをガラ現象と呼ぶのかもですね。誰かに「歯ぎしりしてたよ、昨夜」と言われた人は、この映画を観てガラにならない対策を練った方がいいかもしれませんよ。
『ガラ』
上映中
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取材・文:村山章
プロフィール
みうらじゅん
1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『マイ修行映画』(文藝春秋)、『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。


『アウト老のすすめ』
⽂藝春秋
1540円(税込)