みうらじゅんの映画チラシ放談

「僕を信じてほしい」とか「最後のお願い」とか、信じられませんよ(笑)『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』『サスカッチ・サンセット』

月2回連載

第148回

『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』

『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』

── 今回の1枚目のチラシは、トム・クルーズ主演の大ヒットスパイアクション最新作『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』です。

みうら このシリーズは毎回楽しみに映画館で観てるんですけども、楽しみにしてる反面、最近ではトムさんのオカンの気持ちにもなっちゃうんですよ。「アンタ、まだ危ないことやってんのかいな!」ってなぜか関西弁でね(笑)。

「まだバイク乗ってるみたいやけど、あんたノーヘルなんはいくらなんでもアカンがな」という具合に、どんどんオカンの小言が浮かんできてね。っていうくらい前作はバイクで崖から飛んでましたでしょ?

── 飛んでました。あと離陸する飛行機に掴まったりもしてましたね。

みうら 「あんた、どんだけ親を心配させたら気が済むんやな」って言いたくなるんです。

もちろん僕の妄想なんですけど、「あんた、新作映画よりそろそろ孫の顔の方見せてえな」って言うわけです。実際のことは知りませんがね。

── お母さまは2017年に80歳で亡くなられたようです。そういえば、トム・クルーズが生前のお母さんにスカイダイビングをプレゼントした、ってニュースを見たことがあります。

みうら スカイダイビングを! 実際は飛んだオカンだったんですね。さすがです。ま、このチラシを選ばせていただいたのは、そんな妄想も含めてなんですけどね(笑)。

── 今回はどんな危険に挑戦してるんですかね。さすがに我々観客も、もはや大抵のことではびっくりしないですよね。

みうら 毎回チラシの裏の情報も少ないですからねぇ。でも間違いなく妄想のオカンを困らせる、とんでもないアクションに挑まれているのは確実でしょう。

── 確かに全然教えてくれないチラシですね。「僕を信じてほしい。最後のお願いだ」って書いてますけど。

みうら その文面が僕にはオカンへの言い訳としか思えないわけで(笑)。最後と言って最後だったためしはありませんから。

── でもオカンが映画館に観に行ったら、もうアゴが外れるぐらいびっくりするわけですよね?

みうら 妄想のオカンは心配し過ぎて観に行かないんです。「あんた、聞いたけどまた危ないことやってるんやて。えーかげんにしーや」と電話をかけてきます。

── 「全力で駆け抜けた29年間」とも書いてあります。このシリーズも随分経ちましたよね。

みうら いや、それもね、「今までの集大成の映像がかかるだけだから」っていう言い訳じゃないでしょうか? でも確実にやってますよ、トムさんは(笑)。

── でもトム・クルーズ、正式な予告編が出る前からセスナ機の翼かなんかに乗って「今、撮影中です!」って宣伝してましたよ。

みうら それがオカンの目に届いてないことを願うばかりです、僕としては。

やっぱ「僕を信じてほしい」とか「最後のお願い」とか、信じられませんよ(笑)。とにかく今度も面白い映画に決まってますけどね。

『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』
上映中
(C)2024 PARAMOUNT PICTURES.

『サスカッチ・サンセット』

『サスカッチ・サンセット』

── 2枚目のチラシは、ジェシー・アイゼンバーグとライリー・キーオ主演の謎めいた映画、『サスカッチ・サンセット』です。

みうら チラシに『ミッドサマー』って文字が書いてありますからね、選ばざるを得ません。

── みうらさん、最近『ミッドサマー』のことを載せているチラシが多いと指摘されてますよね。

みうら 当然、『ミッドサマー』って書いている以上は、奇祭を扱った映画だと思いますからね。

── みうらさんが追いかけてきた“とんまつり”(トンマな祭り)的なものですか?

みうら トンマで済まないですけどね(笑)。これはアメリカでやってる的なものだと思います。この岩に立ってる4人は、その番組のスタッフですよ。「こんな山奥に住んでおられる人がいるんだ」と行ってみたところ、そこは小さな村でね、とんでもない祭りをしている最中。

昔、新東宝の『九十九本目の生娘』っていう映画があって、それもとんでもない祭りをやってる村の話でした。

たぶんこの『サスカッチ・サンセット』は『ポツンと一軒家』の1本で、お蔵入りになったものだと思うんですよね。この岩の上から山が燃えているところを見てるシーンは、宇宙から来たインベーダーたちの円盤がこの村に不時着したところですね。とんでもない祭りをやってる村人が、さらに宇宙人に乗り移られるSF&奇祭のストーリー。

そりゃ、チラシにも「あなたの本能を刺激する」って書いてあるわけです。宇宙人の狙いは地球人と交わることですからね。

── はい(笑)。

みうら カメラは壊されてますから、このチラシ裏面に写ってるのは、そのとき番組クルーが唯一残したカセットテープの音源でしょう。

── 確かにカセットテープですね。

みうら たぶん阿鼻叫喚の声が録音されているのだと思います。

── もう、『ミッドサマー』ってチラシに書いてある映画は……。

みうら そんな映画でしょうね(笑)。

── 「『人類創世』を超える」とも書いてありますが、『人類創世』は原始人の映画ですよね?

みうら いや、宇宙人創世のことを意味してるんでしょう、きっと。

『サスカッチ・サンセット』
上映中
Copyright 2023 Cos Mor IV, LLC. All rights reserved

取材・文:村山章

プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『マイ修行映画』(文藝春秋)、『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』『アウト老のすすめ』(ともに文春文庫)など著作も多数。

『アウト老のすすめ』
⽂藝春秋
1540円(税込)