みうらじゅんの映画チラシ放談

リリーさんは“老け作りキング”と言っても過言ではないでしょう『ハルビン』『顔を捨てた男』

月2回連載

第150回

『ハルビン』

── 今回の1枚目のチラシは、韓国の歴史サスペンスアクション映画『ハルビン』です。

みうら 実は2週間ぐらい前に、リリー(・フランキー)さんから「この老け作りどうですか?」ってスマホで写真が送られてきたんですよ。ものすごい白髪でね、それ(笑)。よくよく見たら“伊藤博文/リリー・フランキー”って書いてあって。どうやらリリーさん、伊藤博文役で映画に出てるらしくて。

── チラシにもリリーさんの写真が大きく載ってますね。

みうら 正しくこの映画のことでした。僕が数年前から“老け作り”を始めたもんで、オレのはどうです?ってことなんでしょう(笑)。

リリーさんがちょっと前に、テレビドラマ(『クジャクのダンス、誰が見た?』)で広瀬すずさんのお父さん役をやったとき、「回想シーンでしか出てこないけど若作りしてるんですよ、でも若作りってやっぱり無理があるからヘンなんですよね」って言ってたんです。それで今回のコレ。髭メイクに4時間もかけたという博文さん、いや、リリーさん。“老け作りキング”と言っても過言ではないでしょう。さすがです!

僕、コロナ禍で髭の有名人や文化人の写真を雑誌から切り取って、スクラップブックに貼ってたんです。当然、その中には伊藤博文さんと板垣退助さんはおられました。まさかリリーさんが博文役をやってるなんて知らずにね(笑)。

── ただ急に伊藤博文の写真が送られてきたんですか?

みうら きっと「この1枚をみうらさんの髭スクラップに貼ってくださいよ」っていう意味だったと思うんでね。このとき、博文さんはおいくつぐらいだったんでしょうね? たぶん実際には今のリリーさんの方が年上かもしれませんが、いやぁ、この老け作りは本当、お見事です。

ここまでやられちゃ、「アウト老」なんて言ってる僕はまだまだだなと思いました。それに映画『ハルビン』では本物の博文さんと思っちゃうくらい演技もうまいでしょうしね。そんなリリーさんと、20年ぐらい前に共演したことあるんですよ、僕(笑)。

杉作J太郎さんが監督した『怪奇!!幽霊スナック殴り込み!』って映画でね。ほぼ知り合いしか出てない映画でしたけど、リリーさんの演技力が段違いで、逆にうますぎて違和感すら感じましたから(笑)。

── リリーさんは最初から演技がお上手だったんですね。

みうら そりゃ伊藤博文役のオファーも来ますよね。そんなリリーさんともう20年も週刊SPA!で「グラビアン魂」という連載をやっていること。とても誇らしく思いますね。それ、エロ多めの対談なんですけどね(笑)。

『ハルビン』
上映中
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『顔を捨てた男』

『顔を捨てた男』

── 2枚目のチラシは、A24の心理スリラー『顔を捨てた男』です。

みうら A24っていうことは『ミッドサマー』ですよね(笑)。

── はい。みうらさんがよく引き合いに出す映画ですね。

みうら A24って書いてある限り『ミッドサマー』を思い出さないわけがありませんから、この映画も当然、奇祭モノだと思うんですよね。

きっとこのチラシに写っている男は奇祭用の仮面をかぶっているのでしょう。

── なるほど。また奇祭の映画なんですね。

みうら 日本にもこういう不気味な面があるでしょ。伊豆の修善寺の宝物殿にも、源頼家の仮面と言われるものがありましてね。かなり怖いです。僕、昔、土産物屋でそれに似せたものを買ったことがあるんですよ。

みうらさんが買ったお面

── 確かに検索したら「死相の面」と呼ばれてるやつですね。

みうら そうそう! この面をヒントに書かれたのが『修禅寺物語』だって言うじゃないですか。歌舞伎の演目にもなってます。

わざわざこんな不気味な面を彫るわけですから、そりゃ、ホラーものに間違いありません。

── 何かを封じ込めてるとか、深い理由がありそうですよね。

みうら だから『顔を捨てた男』もそんな映画だと思うんです。

── ずいぶんざっくりしてません?(笑)

みうら ざっくり過ぎですか(笑)? ほら、楳図かずおさんの『笑い仮面』っていう怖い漫画もあったでしょ? 仮面を付けたら、それが取れなくなるっていう。

── 伊豆には源頼家ゆかりの「病相の面」というのもあるみたいですね。確かに顔が変形したりする病気もありますよね。

みうら それ、もっと怖いでしょ。ま、そういう面を作っている人の話から映画は始まるんだと思います。

なかなかうまく彫れなくて、これじゃ祭りに間に合わない。そんな夜、悪魔が現れてね、「お前の命と引き換えにすごい面を彫らせてやる」って言うんですよ。主人公はそのおかげで面を彫り上げて、ものすごく話題になって若くして人間国宝の匠になるんですが、悪魔とちょっといざこざがあって……。

── 悪魔とケンカするんですか?

みうら ケンカというか(笑)。命を取られるのをどうにか来年の祭りまで待ってくれないかとね。その間、主人公はその悪魔から逃げるためにエクソシストを呼んで除霊をするんだけど、悪魔はその仮面が顔にくっついたまま、取れなくなってしまい……。

その仮面と皮膚が同化するCGがまた、すごくてねぇー(笑)。

── 白状すると、僕、この映画のパンフレットに原稿書いてるんです。

みうら マジですか? でも、もう後の祭りですよ(笑)。本当のことは言わないでくださいね。

── スミマセン。でも本質的にはかなり合っていることをみうらさんがおっしゃっていて……。

みうら やっぱり仮面が出てくるんですね。修繕寺のこの仮面が(笑)?

── それは違いますけどね(笑)。

『顔を捨てた男』
7月11日(金)公開
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取材・文:村山章

プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『マイ修行映画』(文藝春秋)、『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』『アウト老のすすめ』(ともに文春文庫)など著作も多数。

『アウト老のすすめ』
⽂藝春秋
1540円(税込)