みうらじゅんの映画チラシ放談

このチラシのデザイン、「みうら観に来いよ」って書いてあるのと同じです(笑)『DROP/ドロップ』『エレベーション 絶滅ライン』

月2回連載

第151回

『DROP/ドロップ』

── 今回の1枚目のチラシは、「初デートの相手を殺せ!」と何者かに強要されてしまうスリラー映画『DROP/ドロップ』です。

みうら これを選んだのは、当然、アレです。チラシに「ミーガン」って書いてあったからです(笑)。

── 確かに『M3GAN/ミーガン』のブラムハウス製作って書いてありますね。

みうら それも、よく分かるように、一番上の1行目から書いてあるじゃないですか。それをまず読んでからようやくタイトルに至るというチラシ。普通ならもっとタイトルを強調しますよね。

── 確かにそうですね。

みうら 『ミーガン』にハマった人に「分かるでしょう? そんな感じの映画です」って言ってるようなチラシに見えます(笑)。あとこのデザイン、アラン・ドロンが大活躍してた頃のフランス映画みたいな雰囲気があるじゃないですか。ということは、その時代、青春ノイローゼを患って、今もまだ完治してない僕のようなアウト老向け映画でしょうね。もう、「みうら観に来いよ」って書いてあるのと同じなんですよ(笑)。

── 「ミーガン」とノスタルジーの合せ技でイチコロですね。

みうら だから若者には「こんなチラシ1枚見ただけじゃ内容ちっとも分かんねえよ!」って作りにわざとしてあるんです。

── 裏面もあんまり説明がないですね。

みうら でしょ? でもね、「マッチングアプリ」とかって今風なワードはちゃんと書いてあるんです。これが言わんとしていることは、「聞いたことない? マッチングアプリ、まあ、お前らの世代だったらお見合いみたいなもんだよ」です。わざと、大きい字で書いてますから、マッチングアプリ。

もうすぐ続編の『M3GAN/ミーガン 2.0』も公開されますから、この映画の『ドロップ』というタイトルも何かヒントを匂わせてるんじゃないでしょうか?

── そういえば今、ガチャポンで「ミーガン」のオモチャがありますね。

みうら もちろん、全部そろえましたよ(笑)。でも、ちょっと大人の顔になってるじゃないですか。公開に合わせ、ちょっと大人のミーガンのガチャポンも出すんでしょうね。当然、やりに行きますが(笑)。

── つまり10月公開の『M3GAN/ミーガン 2.0』まで、この『DROP/ドロップ』を観たり、1のガチャポン集めしたりして待っててくれよなっていうことなんですね。

みうら きっと、そうだと思います。

── 僕、実はこの映画のパンフレットに原稿を書いてるんです。

みうら え? これも書いてるんですか。ひとつだけお聞きしていいですか? 『ドロップ』にはミーガンは出てきますか?

── ネタバレだって怒られるのか分からないですけど、ミーガンは出てこなかったですね。

みうら 劇中で、意味もなくミーガン人形が置いてあるシーンも?

── それに気づかず原稿を書いてたらすごく恥ずかしいですけど、可能性はありますよね。

みうら 可能性がある! あのね、この映画も『ミーガン』と同じ主人公がシングルマザーの設定ですよね?

── 確かに。あっちは叔母と姪でしたけど、結果的にシングルマザーになる話ですよね。

みうら だから「シングルマザー」って単語もチラシにわざわざ白抜きで入れてあるんじゃないでしょうか?

── ちなみに『DROP/ドロップ』の主演の人はメーガン(・フェイヒー)さんですね。

みうら メーガンとミーガン! 偶然なわけありませんよね(笑)。 

ハハーン、このメーガン、ミーガンが食べるとちょっと大人に成長するドロップを開発するんでしょう? そのドロップの機密漏洩が映画の鍵になることは間違いありません。ラスト、巨大化し過ぎて街を大暴れするモンスターロボットが出てきますね?

── うーん、これ以上は言えません(笑)。

『DROP/ドロップ』
上映中
(C)2025 Universal Studios

『エレベーション 絶滅ライン』

『エレベーション 絶滅ライン』

── 2枚目のチラシは、雪山が舞台のサバイバルホラー『エレベーション 絶滅ライン』です。

みうら 僕、意外に山モノ好きなんですよね。『エベレスト3D』も劇場に観に行ってるんです。

そもそもは大の山嫌い。小学生のとき、京都の愛宕山に登って以来、登山なんてしませんから。

── 京都に住んでいたら比叡山とか行ってないですか?

みうら バスや車では何度か行ってますよ。

── ちゃんと自分の足で登ったのは愛宕山だけ。

みうら ですね。そこにあるお寺「月輪寺」に行くにはそれしか方法がなかったからです。

「なぜ、あんな高い山に登るんですか?」って登山家に聞いたときの名ゼリフがあるじゃないですか。「そこに山があるから」って。僕には一番わけの分からないセリフでしてね(笑)。そんな僕みたいな根性なしのために山モノの映画ってあるんだと思うんですよ。

そういえば『エベレスト3D』を映画館に観に行ったとき、上映までちょっと時間があってそのフロアーでぼーっと立ってたら、何と登山家の三浦雄一郎さんの姿を見つけたんですよ。平日の朝イチ上映だったから客は少なかったんですけど、三浦雄一郎さんと一緒に観たことは根性なしの僕はちょっとした自慢でしてね。

── 『エベレスト3D』って結構怖い映画でしたよね? どんどん登山客が遭難して死んでいくみたいな。

みうら そうです。そんな山に雄一郎さんは何回も登頂されてるでしょう? 僕の少し前の方の席に座っておられたんですけど、映画の中盤あたりで帰られました。

── ええっ?

みうら はじめはトイレに行かれたのかな?と、思ってたんですが、とうとう戻って来られませんでした。

現地に本当に行ってる方はきっと映画の見方が違うんでしょうね? でもその点、僕は最後まで観ていられたわけで、やっぱり根性なしのために作られた映画かと思ったもんです。

それにこの『エレベーション 絶滅ライン』は完全にホラー映画でしょ? 「標高2500メートル以下に降りたら即死」なんてキャッチコピーは、今までの山モノの常識を覆してると思いません?

── 普通は標高が高すぎると危険って言いますよね。

みうら たぶん、ひねってきてるんですよ。それに、このチラシの下にわちゃわちゃいる連中はきっとエイリアンでしょ。山の麓に不時着した宇宙人が、秘密裏に基地を作ったものだと思われます。

── 宇宙人も標高2500メートル以上は辛いってことですかね。

みうら 僕のような根性なしかもしれませんね(笑)。

宇宙人は基地がバレると人間からの攻撃を受けたりする可能性がありますから、必死ですよね。山の麓でバレないようにやってきたんですけど、このチラシに写った主人公ふたりに見つけられてしまいます。でも当然、携帯の電波は通ってません。

── 宇宙人に遭遇したのに、どこにも連絡しようがないってことですか?

みうら 映画の都合上、そうでなくては困りますからね(笑)。で、もう降りることができなくなる。まさに行きはよいよい帰りは怖い映画です。でも、宇宙人はそもそも侵略を目的に地球にやってきたのではありません。不時着しただけですからね。

そこでこのふたりに言うわけです。「命は奪わないから、今後この山に登ってくる者に警告を発してくれ」と。

── ちゃんとメッセージのある映画ってことですね。

みうら だから、この絶滅ラインっていうのは宇宙人から提示したラインなんですよ。危ないぞ、登ると絶滅するぞって。今までの山モノ映画と大きく違うところは、登山者ではなく宇宙人目線で描かれていることです。

── だいぶ激しく脅してますね。

みうら そこまで言わないと、根性ある人間はホイホイ登ってきますからね。

── 確かにチラシのふたり、だいぶ厳しい表情してますから、怒ってるのかもしれないですね。

みうら だって、ひとりでも登ってきたら、今度こそはふたりの命が危ないからですよ。

『エレベーション 絶滅ライン』
7月25日(金)公開
(C)2024 6000 Feet, LLC. All Rights Reserved.

取材・文:村山章

プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『マイ修行映画』(文藝春秋)、『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』『アウト老のすすめ』(ともに文春文庫)など著作も多数。

『アウト老のすすめ』
⽂藝春秋
1540円(税込)