みうらじゅんの映画チラシ放談

『入国審査』の続編として僕の話を聞いてもらえますか? 『入国審査』『THE MONKEY/ザ・モンキー』

月2回連載

第153回

『入国審査』

── 今回の1枚目のチラシは、ベネズエラ出身の監督がアメリカを舞台に撮ったスペイン産スリラー『入国審査』です。

みうら 選んだ理由はこのタイトル、僕、昔っから入国審査にはよく引っかかるんですよね(笑)。たぶんこれはそんな人たちに向けた映画だと思ったもので。

そしてチラシのコピーには「その答えがあなたの人生を左右する」とまで書いてある。検査員に「何の目的でこんなものを買ったんですか?」と聞かれ、本当のことを言っても信じてもらえず、没収された人の恨みがスリラーとなるんです。

── みうらさんにはそういう実体験があるわけですね。

みうら スリラーにはなりませんでしたが(笑)。中国で大量にゴムヘビを買ったことがありましてね。

── ゴムでできたヘビのおもちゃですか?

みうら そうです。僕が小学生の頃、日本でも大量に出回っていたものですが、今はほとんど見かけません。

つまりゴムヘビは絶滅危惧種。中国に行けばまだあるんじゃないかと土産物屋を探し回ったんです。

でも、帰国するときに、段ボール箱いっぱいに入れたゴムヘビが引っ掛かりましてね。

── それは入国審査じゃなく、出国審査ってことでいいですか?

みうら あ、確かに(笑)。間違えました。じゃ、『入国審査』の続編として僕の話を聞いてもらえますか? 

── いいですよ(笑)。

みうら 今思えば預ける荷物にしておけばよかったんだけど、普通に手荷物としてひとつ、段ボールを持っていっちゃったんです。そうしたらベルトコンベアを通過するときに中身がシルエットで映るじゃないですか。

── 大量のヘビの影が映ってるわけですよね?

みうら そうなりますよね(笑)。昔、サミュエル・L・ジャクソン主演の『スネーク・フライト』っていう映画あったじゃないですか。暗殺目的で持ち込まれた毒蛇が旅客機の機内に放たれるっていう。あれだと思われたんじゃないですかね?

こっちはまさか箱を開けていいかって聞かれるとは思ってもいなくて。仕方なくOKと答えると、検査員はビクビクしながら開けました。僕は何度も「ラバースネイク」って言ったんですが、「ラバー? ラバー?」と聞き返してきてね。発音が悪く、恋人の方のラバー(Lover)と聞き間違えたのかもしれません。

ようやく1匹つまんでゴムヘビだってことを分かってくれたんですけど、今度は「こんなものなんで大量に買うんだ?」って聞かれたんです。そのときは現地の通訳の人が見送りに来てくれていたので助かりましたが。「いやいや、ゴムヘビっていうのはね、日本では絶滅危惧種なんですよ」って頑張って説明したんだけど、それを通訳してもらったのがまた悪かったんでしょうね。結果、没収されちゃったんです。

── それはもう、本当に映画『出国審査』でしたね。

みうら 審査落ちでしたけどね(笑)。

── この映画、「監督の実体験に基づく」って書かれてますね。

みうら 本当ですね。でも、まさか持ち込んだのはゴムヘビではないでしょうね。当然チラシに載っているこの男女はもっとスリラーなものを持ち込もうとしたんでしょうね。

しかし、審査は通ったけど、乗客の中に金田一耕助的な人がいたんじゃないでしょうか?

── みうらさん、もうこのカップルは怪しいって決め込んでますね。

みうら いや、僕のような怪しい風貌の者はせいぜいゴムヘビです。本当に怪しいのは、怪しくなさそうなこのカップルに違いありません。でも、このまともを装った夫婦の最大の不幸は、機内にチューリップハットみたいなのをかぶって外套を着た変なヤツ、金田一が乗ってたこと。

── でも、スペイン映画ですよ(笑)。

みうら ひょっとして日本の配給はKADOKAWAなんじゃないですか? 一見、地味そうな映画ですが、わりと大きいところで上映してませんか?

── 確かに新宿ピカデリーとか大きいシネコンでもやりますね。

みうら たぶん、このチラシに載ってるキャストの中のアルベルト・アンマンって方が金田一役だと思います。で、ブルーナ・クッシって方は、加藤武さんがやってた警部役です。このふたりが名コンビってことで間違いないと思います。

── それにしても77分っていう上映時間はコンパクトですね。

みうら ですね。テレビ版の方でしょう。意外と当たってたりしませんか?

── ただ、ここでみうらさんが当ててしまったら、もう予測不能じゃなくなりますけどね。それに配給はKADOKAWAでなく松竹なんですが。

みうら 松竹となると『八つ墓村』ですね。渥美清さんが金田一を演じた。すいません。僕、何言ってるんですかね(笑)?

『入国審査』
上映中
(C)2022 ZABRISKIE FILMS SL, BASQUE FILM SERVICES SL, SYGNATIA SL, UPON ENTRY AIE

『THE MONKEY/ザ・モンキー』

『THE MONKEY/ザ・モンキー』

── 2枚目のチラシは、死を招くサルのおもちゃの恐怖を描いた『THE MONKEY/ザ・モンキー』です。

みうら このチラシに僕が引っかかったのは、当然このサルのおもちゃのビジュアルです。

昔、横浜の中華街でパンダのおもちゃを買ったことがあるんです。そのパンダ、機械音で作った、イラッとするぐらい大音量でランバダの音楽を流しながら可動するんです。ピーピピピピーピピピピピピピピピーって哀愁のメロディをね。

次に買ったのが、トンピーって言うクマのおもちゃで。それは新宿の量販店のおもちゃコーナーで買いました。クマが笛をピーピーと吹きながら太鼓をトントントントンって叩くおもちゃなんです。

── 「リズムでともだち こぐまのトンピー」って商品ですね。

みうら それです。それです。

トントンピーピーと音を出すこぐまとランバダの音楽を奏でるパンダが揃ったときに、もう1匹くらい楽器ができるやつを入れてバンドを組ませられないかと思ったんです。それが、このチラシみたいなシンバルを叩くサルのおもちゃだったんですよ。

そのサルは、頭を叩くと歯をキーキーとむき出してシンバルを叩くんです。でも、7000円ぐらいしたんで買うのはやめたんです。

── それなりのお値段ですね。

みうら でしょ? だから、このチラシのサルの出来を見て、1万円以上はきっとするなと思って。

── じゃあ、このチラシが背中を押してくれそうですか?

みうら 7000円は安いんじゃないかとね(笑)。

チラシをよく見てみたら、原作スティーヴン・キング、製作はジェームズ・ワンって書かれてあるじゃないですか。まんざら僕が言った「恐怖のバンドを組まそう」っていう映画の可能性もなくもないんじゃないかって。

それにね、タイトルは『ザ・モンキー』。ハハァーン、あの懐かしのザ・モンキーズのコピーバンドではないかってね。

── おお! なるほどです。

みうら 最近のサルのおもちゃには当然、ミーガンしかりAIを搭載してますから、そりゃいろんなことができますよね。「バンドでモテたい」なんて感情もあるでしょう。

── バンドを組んでモテたい、ストレートな動機ですね(笑)。

みうら ま、大概オスの考えはそんなもんです(笑)。かつての『ブルース・ブラザース』みたいに、バンドメンバーをリーダーのモンキーが探しにいく物語だと思いますね。

── オモテ面には「死が訪れる」とは書いてますけど、ホラーとは書いてないですね。

みうら バンド残酷物語と言いましょうか、メンバーの中には、ジミヘンしかりジム・モリソンしかり、ドラッグに手を出して死ぬ者もいます。

── AIなのに。

みうら 逆に言うと、AIがそこまで進化したと言えますね。

── 今ちょっとチラシの裏面を見てしまったんですけど……。

みうら どうです? 違ってますか?

── いや、「ハンパなくイカれたファニーなファンキー・モンキー・ホラー」って書いてあるんです。

みうら 合ってますね! 違ってたのはザ・モンキーズじゃなく、キャロルのコピーバンドだったってことですね(笑)。君はファンキー・モンキーベイビー♪ いや、ベイビーじゃなくホラーってとこがスティーヴン・キングですね。

── 確かにありそうな気がしてきました。

みうら ということは、そのヒット曲を聴いた人間が狂い死にするって映画で間違いないでしょう。

『THE MONKEY/ザ・モンキー』
9月19日(金)公開
(C)2025 C2 MOTION PICTURE GROUP, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

取材・文:村山章

プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『マイ修行映画』(文藝春秋)、『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』『アウト老のすすめ』(ともに文春文庫)など著作も多数。

『アウト老のすすめ』
⽂藝春秋
1540円(税込)