みうらじゅんの映画チラシ放談
ステロイドを過剰摂取することで合体モンスターに変身すると思います 『愛はステロイド』『ホステル』
月2回連載
第154回



── 今回の1枚目のチラシは、女性ふたりの奇想天外なラブストーリー、『愛はステロイド』です。
みうら まずタイトルにグッときますよね。このタイトルで思い出したのは、昔レコードのジャケ買いをしていた時代があって、確か高円寺の中古レコード屋の前に出されたワゴンの中に、沖田浩之さんの『愛はマラリア』とかいうレコードを見つけたんです。“愛”じゃなかったかな? ちょっと調べてもらえますか?
── 『お前にマラリア』ですね。
みうら ごめんなさい、愛じゃなかった。『お前にマラリア』(笑)。それにしてもスゴイ、タイトルでしょ! これは買うべきだと思いましたよ。
さて、『愛はステロイド』なんですけどね、ステロイドって何でしたっけ? 皮膚科で処方される塗り薬のことじゃなかったですか? とても強い薬のイメージがありますが。
僕も7年ほど前、頚椎を痛めたときにステロイドの薬をもらってたんですけど、使用上の注意が厳しくて、まあ強烈なヤツだなって。だからこの映画も、強い薬を摂取して愛を高めていく人たちの話に違いありません。チラシにも「その想い、過剰摂取につき」って書いてありますからね。
このふたりは、ステロイドを過剰摂取することで合体モンスターに変身するんですよ。そして、たぶん巨大になるんじゃないかなあ。巨大化して宇宙からの侵略者と戦う。違いますか? だって、コレってあそこが作ってる映画ですよね?
── みうらさんのお好きな『ミッドサマー』のA24ですね。
みうら だったらこのチラシのオモテ面の写真、火祭りのシーンも必ず出てくると思いますよ(笑)。
── 必ず、でしたっけ?(笑)
みうら いや、“とんまつり”がお好きなA24ですからねぇ。
── みうらさんはこの連載で何度も「きっと巨大化するはず」って予想してきましたけど、今度こそは巨大化する?
みうら いや、早く巨大化してほしいです(笑)。もう、こっちも気が収まらないですからね。あと「愛は」っていうのは「愛は地球を救う」って意味ですよね。「ステロイドは地球を救う」ってタイトルだと分かりやすいんですけどね。
── 実はこの映画もう観たんですけど、あながち間違ってないです。というか半分以上合ってる気がします。
みうら やはりね。さすがにネタバレになるからチラシに「巨大化」とは書いてないだけですよね。そこは違ってます?
── きっとご満足いただけるんじゃないかと思います(笑)。
みうら 確かめたいんで、ぜひとも観させていただきます(笑)。
『愛はステロイド』
上映中
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『ホステル』



── 2枚目のチラシは、観光客を捕まえて金持ちのための殺人サービスに提供する闇ビジネスを描いた『ホステル』です。
みうら 『ホステル』は今までのシリーズ、確か「3」まであったと思うんですけど。監督がイーライ・ロスと聞けば当然、観ますよ。なにせ食人族が出てくる映画(『グリーン・インフェルノ』)まで撮ってくれた監督ですからね。
ちなみに僕は高校生の頃、ユースホステラーだったので、よく知ってるんですよ。「ホステル」って呼び名ももう若い人には意味が分からないというか、この映画シリーズでホラーのイメージが刷り込まれちゃってる人もいると思うんです。
でも、そもそもホステルっていうのは若者向けの安宿ですから。別にホラーなことは一度も起こりませんでしたよ、僕の場合。そうそう、そのユースホステルを舞台にした小説が『色即ぜねれいしょん』なんです。映画化もされましたので、ホラーじゃないことを確かめてくださいね。作者からのお願いです(笑)。
で、これは1作目のリメイクってことですか?
── いや、リメイクじゃなくてリバイバルですね。あの1作目を20年ぶりに2週間限定で再上映するみたいです。
みうら そうなんですか。タランティーノが「もう1回映画館で観たい」って言ったんですかね?
── いえ、タランティーノはそもそも1作目の製作総指揮だったので、このチラシはそのときのクレジットをそのまま載せてるんだと思います。
みうら ママですか。ま、タランティーノとイーライ・ロスのコンビですから1作目はめちゃ面白かったです。
── すでに『ホステル』はホラー界隈でちょっとしたアイコンみたいになっている感じありますね。
みうら 『ホステル』は「2」もイーライ・ロスでしょ。さらにえげつなくなってましたよね。確か「2」ではチンコを切られるシーンありましたよね。『ピラニア3D』もそうですけど、やっぱりチンコが出てくるホラーが面白くないわけがないです(笑)。
でも、今の時代、そういうことがやりにくくなっていることは確かですよね。だから『ホステル』も再上映っていう形なのかもしれないですね。
── 確かにリメイクすると、グロさを抑えた見やすいものになる可能性はありますよね。
みうら だから、このチラシにもほとんど情報がないわけですね。このチラシの「このドリルを見ればお分かりでしょう? アレですよ」って、分かる人だけにこっそり伝えてますし。
当時見た皆さんはきっと、チンコを押さえながら劇場にいくんでしょうね(笑)。
── チンコを切られるのは「2」ですけどね(笑)。
みうら そうでした。じゃあぜひ「2」も再上映してほしいものですね!
『ホステル』
9月19日(金)よりシネマート新宿にて2週間限定上映
取材・文:村山章
プロフィール
みうらじゅん
1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『マイ修行映画』(文藝春秋)、『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』『アウト老のすすめ』(ともに文春文庫)など著作も多数。


『アウト老のすすめ』
⽂藝春秋
1540円(税込)