みうらじゅんの映画チラシ放談
僕の美大時代の友人は必ず観るだろうと選びました『ベスト・キッド:レジェンズ』
月2回連載
第156回



── 今回の1枚目のチラシは、80年代の大ヒット作『ベスト・キッド』シリーズの最新作『ベスト・キッド:レジェンズ』です。
みうら これはもう、僕の美大時代の友人は必ず観るだろうと選びました。
── この連載でも何度かお話に出てきた方、「トットリ」さんのことですね。最近、みうらさんとトットリさんが記事になっているのも読みましたよ。
みうら 『ほぼ日』のサイトですね。実はトットリ、この間まで渋谷のパルコでやっていた「MOTHERのかたち」で展示されていたフィギュア150体を作った男でしてね。
── 糸井重里さんがディレクターとして手がけたゲーム『MOTHER』シリーズの展示ですよね?
みうら そうです。『MOTHER』は1989年発売のゲームですけど、今はインターネットで世界的に有名になっていますから。当然、そんなことトットリ本人は知りません(笑)。でも、最後までやり終わると「モデリング、トットリ」っていうクレジットが出てきて、当時からファンの間で「トットリっていうのはなんだ?」っていう話になったらしいんですよ。ずっと謎の人物のままだったトットリがついに今回、姿を現したってわけです。
ほぼ日(糸井重里氏の事務所)から電話がかってきてね、「糸井さんから、トットリさんがみうらさんのお友だちだって聞いたんでお伺いしたいんですけど、本当にそんな方おられるんですか?」って(笑)。
── 糸井さんが言ってるのなら実在するでしょう(笑)。
みうら いや実在するも何も、糸井さんがトットリに人形作りを依頼したわけですから。
『MOTHER』のキャラクターをデザインしたのは南伸坊さんで、ゲームの取り扱い説明書を作るにあたって当時のドット絵みたいなのじゃなく、人形で表したいっていうことになったんですよ。
当時、僕は新高円寺のアパートでトットリとふたりで住んでいましたから、その経緯はよく知っています。トットリは美大時代から、今で言うフィギュアを趣味で作っていました。それを見て「トットリに頼みたい」ってことになったんです。
トットリは会社から帰ってきたらほぼ3カ月近く部屋で『MOTHER』の人形を作ってました。だから、単なるカンフー映画好きじゃないってことです(笑)。
── トットリさんはスゴい人だったんですね。
みうら ブルース・リーをもじって“トット・リー”と名付けた僕の責任もありますね、スゴイ男なんです。
『ほぼ日』の対談で久しぶりに会ったんですけど、そのときに「ジャッキー・チェンな、まだ頑張ってんねん、じゅんちゃん絶対観てな」っておすすめされたのが、ジャッキー・チェンさんのちょっと前の主演作『ライド・オン』だったんですよ。
── アクション映画のスタントマンだった人がもう1回復活するみたいな話ですよね?
みうら そうです。勧められて映画館に行ったらすごく面白かったもんで、今回の『ベスト・キッド:レジェンズ』も、ま、トットリのお勧めだろうと(笑)。当然、トットリは劇場の売店でグッズが出てたら全部買うんだろうなと思います。
この映画でジャッキーさんは、『ベスト・キッド』でラルフ・マッチオさんを指導していたパット・モリタさん的な役なんでしょうか?
── 2010年に『ベスト・キッド』のリメイク映画が公開されて、舞台が北京になっていてジャッキーがノリユキ・パット・モリタさんみたいな先生の役をやっていたんですよね。今回はジャッキーはそのときの役を演じていて、オリジナルで主演していたラルフ・マッチオと共演する映画らしいです。
みうら もちろんトットリは知ってますよね(笑)。なるほど。ラルフ・マッチオさんが出てくるなら当然アイコンであるバンダナですけど。
ちょっと待ってくださいよ、このチラシでは隣にいる男の子がバンダナを巻いてますね。ということはこの少年が新ベスト・キッドになるんですかね?
── 確かにこのチラシも3世代が集結していて、今も続いているんだというアピールを感じますね。
みうら キッド順でいくと、チャップリンの『キッド』が最初でしょうか? 次に美空ひばりさんの『東京キッド』、『ベスト・キッド』があって、ビートたけしさんの「浅草キッド」で水道橋博士と玉袋筋太郎のふたりが“浅草キッド”って名前を引き継ぎ……そして一番新しいキッドがこの『ベスト・キッド レジェンズ』になるわけですかね? ま、とにかく観させていただきます。
『子鹿のゾンビ』



── 2枚目のチラシは、バンビとゾンビを融合させたホラー映画『子鹿のバンビ』です。
みうら このチラシのキャッチコピー、「せんべいだけじゃ生きていけない」に引っ掛かりました(笑)。去年の夏、久しぶりに奈良に行って、小学校以来鹿せんべいを買ったことがあったからです。
そのとき、奈良公園は観光客でいっぱいだったんで、ちょっと離れた春日大社まで行って、そこの売店で鹿せんべいを買ったんですけどね、あまり人がいなかったせいなのか、鹿はやたら鹿せんべいに飢えていたんです。買うなり5、6匹が僕のまわりに集まってきて、せんべいのカツアゲされたんです。
きっと、老いるショックで僕の指の油分がなかったんでしょうね。両手を上げてせんべいを包んである紙を必死に剥がそうとしたんですが、なかなか剥がれなくて。その行動にイラついたんでしょう、1頭の鹿が僕の腰の部分を思いっきり嚙んだんです。Tシャツに穴が開くほどね(笑)。
今、気付いたんですけど、この話、かつてしてますよね?
── 『鹿の国』のときにちょっとその話が出ましたね。
みうら やっぱりね(笑)。すいません。アウト老のループオン現象なので許してください。『子鹿のゾンビ』の話をしますね。でも、やっぱり解せないですよ。だって、『子鹿のゾンビ』ってタイトルは『バンビ』のパロディってことは分かりますけど、「せんべい」は奈良でしょ?
── 確かに洋画なのに「せんべい」ってわざわざ言ってるのは、奈良を意識してるからですもんね。
みうら 奈良が映画の舞台であればまだしもですが。
── そんなわけないでしょうしね。
みうら もしですよ、奈良が舞台の『子鹿のゾンビ』があれば、奈良公園より僕がせんべいカツアゲを受けた春日大社あたりをテリトリーにしている鹿が怪しいいと思うんですよね。せんべい以外にも食事を横取りされ、餓死した子鹿がゾンビとなって横取りした悪い鹿はもちろんのこと、バンバン噛みついてゾンビ鹿を増やし、最後には観光客にも襲いかかってくるという展開になりますが、どうでしょう?
── みうらさんの腰を噛んだのもひょっとして、ゾンビ鹿かもですね?
みうら そういや、噛まれた後はやたら鹿のグッズを買うようになりましたし、その年の『みうらじゅん賞』では、鹿が受賞。興福寺の知り合いの坊さんに頼んで、鹿にトロフィーを渡してもらったんです。いつか僕もゾンビ鹿になるのかもしれません(笑)。
『子鹿のゾンビ』
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取材・文:村山章
プロフィール
みうらじゅん
1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『マイ修行映画』(文藝春秋)、『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』『アウト老のすすめ』(ともに文春文庫)など著作も多数。


『アウト老のすすめ』
⽂藝春秋
1540円(税込)