みうらじゅんの映画チラシ放談

このチラシでギャーと言ってるやつらは、全員元カレです『サッパルー!街を騒がす幽霊が元カノだった件』

月2回連載

第158回

『サッパルー!街を騒がす幽霊が元カノだった件』

── 今回の1枚目のチラシは、タイのホラーコメディ『サッパルー!街を騒がす幽霊が元カノだった件』です。

みうら もう、この映画はタイトルで全てを物語っていますね(笑)。分からないのは“サッパルー!”ってとこだけです。

── タイ語が読めないですけど、これが原題なんですかね?

みうら ここだけはサッパルー意味が分からないですけど(笑)。

まあこのチラシ写真からして、目から血を出している人はサッパルーにやられたんだと思いますね。長いタイトルの隙間に、わざとらしく顔がハメてありますでしょ。元カノですよ。

問題は「サッパルー!」にビックリマークがあるところです。サッパルーはタイで有名な幽霊なのでしょう。付き合っていたときには気付かなかったけど、別れてから「え⁉ あの元カノ、サッパルーだったのかよ!」と、元カレは驚くって話ですね。

── なるほど。サッパルー、幽霊、元カノとキーワードが大きい文字なのも、分かりやすいようにですね。

みうら 何年か前、タイに仏像を見に行ったとき、首だけ妖怪の映画が公開されていて、現地ガイドに聞いたら「タイの人は誰でも知ってますよ。首だけ幽霊はとても有名です」と言ってました。どうやら首だけ妖怪モノは他にもあって、ビデオ屋で数本買って帰りました。たぶんサッパルーもそれと同様、有名な幽霊なんでしょう。

でも日本公開するときに、やっぱりサッパルーじゃサッパルー意味が分からない。仕方なくがっつりタイトルで説明するしかないと、日本の配給会社も思ったんでしょう。

── やはり原題はシンプルに「サッパルー」みたいです。

みうら このタイトルの文字が、釘文字みたいになってるところもミソですよね。きっと、サッパルーは憎い相手に対し、背後から釘を打つんですよ。ほら、日本にも「大黒さん」って呼ばれている神さまがいるじゃないですか。笑顔で打ち出の小槌を手に持っておられる。

でもね、もともとインドでは暗黒神だったんですよね。

── 破壊の神さまですよね。

みうら そうです。だから、あの大黒さんの持ってる打ち出にはいろいろと説があって、あれを打つといっぱい財宝が出てくる説の他に、最近では後ろからね、あの小槌で釘を打つなんて説もあるんですって。そういう怖い神様だとね。

このサッパルーもね、釘のような文字で書いてあるし、チラシでは岩みたいなところに座っている後ろ姿が写っているでしょう? きっと後ろから釘を打ちに行くんですよ。

きっと元カノは殺されて幽霊になったんでしょう。この男、すぐに次の女と付き合ってるような冷血な奴です。サッパルーは、この元カレに復讐するため背後から釘を打ちに行くんでしょうね。

── つまり、サッパルーの武器は釘であるということですね。

みうら そうです。当然釘を打つ以上、ハンマーのようなものを持っているはずです。ひょっとすると打ち出の小槌の可能性がありますね。サッパルーはどんどん増殖して、次々と恨みのある元カレを襲い出すんです。

それで町が大パニックになる。そんな映画だと思うんですよね。だからこのチラシでギャーと言ってるやつらは、全員元カレですよ。

── じゃあ全員、後ろから釘を打たれるんですね。

みうら ただ、このチラシのヘアネットつけた婆さんまで釘を打たれてるのかが解せないでしょうが、実はこの婆さんは霊媒師なんですよ。サッパルーと戦うエクソシストと言えますね。生霊であれば退治するんだと思います。

チラシの右下のところで棺桶を運んでるでしょう。いろんなことがあって、ようやく事態は収まるんですが、ラスト、なんとラストでね、この霊媒師の婆さんが昔、付き合ってた元カレがサッパルーとして現れ、背後から釘を……。

── 裏面では霊媒師のお婆さんが叫んでますね。

みうら でしょ。元カノだけじゃない、元カレだってサッパルーとなって後ろから釘打ちに来るかもしれないという教訓映画ですね。

チラシの裏面に「あなたに会いタイ」って書かれてありますね。でも、ひどい別れ方をしている人はそうはならない。このラブのマークが怖いんですよね。これが一番不吉な文字と言えます。「愛って本当は、一番怖いってよ」っていう、そういう映画だと思いますね。

『サッパルー!街を騒がす幽霊が元カノだった件』
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『死霊館 最後の儀式』

『死霊館 最後の儀式』

── 2枚目のチラシは、人気ホラーシリーズの完結編『死霊館 最後の儀式』です。

みうら 「これで最後」っていう副題は、ホラー映画によくある煽りですよね。騙されませんよ(笑)。

「これが最後のお願いだから」って口癖の方もおられるでしょ? 次に頼むときは「これが本当に最後だから」と、強調してきます。だから、『死霊館』シリーズも次は『これが本当の最後の儀式』と副題が付くんでしょう。

「これで最後」っていう人って、基本的に信じられませんからね(笑)。ま、観る側からしたら、本当でも嘘でもどっちでもいいんですけどね。重要なのは面白いか面白くないかでしょ? 

『猿の惑星』だって『最後の猿の惑星』から後もずいぶん撮られてますからね。『13日の金曜日』シリーズも然りです。

ほら、寅さんだって『おかえり、寅さん』で一応、おかえりになりましたし(笑)。そもそも最後って言わなければそんな言い訳しなくて済むと思うんですけど、どうでしょう?

── 閉店セールみたいなものなんですかね。

みうら それですね。年中閉店セールしてる服屋さんも近所にありますしね(笑)。

そこも最近では「ファイナルセール」と貼り紙を変えましたよ。『ロッキー』シリーズの影響でしょうか(笑)?

── 確かに一時は「ファイナル」が多かったですね。『ロッキー・ザ・ファイナル』とか、『踊る大捜査線 THE FINAL』とか。

みうら と、なると本当に最後だったのは“最後の晩餐”しかないんじゃないでしょうか? 最後の晩餐に続きがあったっていうのは、聞いたことないですから。

── 紀元30年ぐらいの大昔の話ですから確認しようがないですけど、聖書だとキリストは復活しますよね。

みうら じゃ、次の『死霊館』は『復活!死霊館』になる可能性もありますね。

── しかしこれ、ティザーのチラシだからかもしれないですけど、ほとんど情報量がないですね。

みうら 恐ろしく情報量がありませんよね。

── 「これで最後」という文言と、この夫婦がビックリした顔をすること以外、何も分からないですね。

みうら この夫婦が最後ってことでしょうか? 思うに夫の方は「これで最後だから!」って言ってますが、奥さんの方は、「まだいけるんじゃないの?」って止めているような気がするんですけど(笑)。

── 確かにそれぞれの表情のテンションが違いますもんね。

みうら たぶん夫は終活ブームに乗ろうとしてるんじゃないでしょうか? よくある夫婦とは逆で、それを妻が止めてるという死霊館の内情が考えられますよ。 

だったら、絶対に面白い映画だと思います。今の終活ブームにも一石投じるんじゃないですかね。

── 物集めで怒られるのは男の人って、だいたい相場が決まってますもんね。

みうら でもこの夫婦は事情が大きく違いましたね。ふたりで心霊研究をやってきましたからね。

── 夫の手が開いてる感じになっているのも、数字の「5」みたいに見えてきました。

みうら コレクションを売ろうとして「5で、5でどうだ?って生前整理屋に言われたんだけど‥‥」と夫が妻に告げたんでしょうね。当然、妻は「それは安すぎだよ!」って言いますよ。値段はよく分かりませんが(笑)。引き継ぐ者がいない場合、やっぱ考えますよね。

── 確かに維持費もかかりますもんね。

みうら どうやらこの夫婦には娘がいるみたいですね。娘は引き継ぐ気はないんでしょう。

── 霊が出る館だから『死霊館』だと思ってましたけど、「資料館」の話でもあったんですね。

みうら 本当、運営は大変ですからね。ひょっとしてこの「最後の儀式」っていうのは、売り払うためのオークションのことなのかもしれませんね。

実はオークションやっちゃった後の話かもしれませんよ。売れちゃったのはいいけど、惜しくなって買い戻すという。

── 自分が出品したのに、自分で買い取ってる(笑)。

みうら この夫の迫力ある手の開きは、「5でどうだ!」って買い戻してるときのものかと(笑)。

── なんか夫を応援したくなってきました。

みうら 僕もです(笑)。「心霊研究家のウォーレン夫妻が挑む」って書いてあるのは、そういう意味かもしれません。「最愛の娘を救えるのか」っていうのも、やっぱり娘は継がないって言った証拠でしょうね。

── 最強の悪魔って書いてあるのも、安く買い取った業者が逆にふっかけてくるのかもしれないですね。

みうら 本当、悪魔のような業者ですよ(笑)。

やはり問題なのは“私設”っていうところですよね。これが公共の資料館であれば悩むこともないのにと思います。

これは資料館きっての最大の事件で、かつホラーです。同じ境遇のコレクターの方は、ただただこの夫婦を応援するしかありませんね。

『死霊館 最後の儀式』
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取材・文:村山章

プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『マイ修行映画』(文藝春秋)、『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』『アウト老のすすめ』『見仏記 三十三年後の約束』(ともに文春文庫/『見仏記…』はいとうせいこうと共著)など著作も多数。

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