みうらじゅんの映画チラシ放談

なぜコメントの依頼が来なかったんだろう?って不思議に思ったんです『スペルマゲドン 精なる大冒険』

月2回連載

第163回

『スペルマゲドン 精なる大冒険』

── 今回の1枚目のチラシは下ネタアニメ『スペルマゲドン 精なる大冒険』です。

みうら あくまで、この連載の使命はチラシから何かを読み解くってことですからね。

── もしくはチラシのデザインやキャッチコピーにあれこれ言おうっていうコーナー、っていうことですよね。

みうら じゃ、この『スペルマゲドン』は選ばざるを得ないってわけで(笑)。

── 確かにみうらさんにオファーが来てもおかしくないジャンルですよね。

みうら なぜコメントの依頼が来なかったんだろう?って不思議に思ったんですけどね。

こちとら『正しい保健体育』っていう本を出してるもんでね(笑)。どうなんですか、このアニメの方が、ちゃんとした保健体育の映画なんですかね?

── でも、チラシの文言はかなり調子に乗ってませんか?

みうら 「イっきまーす」とか「ガチンコレース」の「チンコ」に傍点振ったりして、かなり昭和センスが入ってますね。なんなら僕が吹替の声優に呼ばれててもいいんじゃないかなと思う、脱力系アニメということですかね(笑)。

たぶん、ストーリーは兵庫県の西宮神社で毎年正月に行われている福男選びと同じだと思いますが。

── 「十日えびす」の日に参道230mを5000人で走るやつですね。

みうら そうです。その参道が僕は産む道(産道)じゃないかと思ってます。競ってたったひとりだけ、今は2番目まで選ばれていますが、お宮という、これも子宮の意味ですね、ぶち当たるってわけです。

── 確かに理に叶ってますね。

みうら だからこの『スペルマゲドン』も、SFチックにしてありますが、西宮神社のお祭りをアニメ化したと考えていいと思いますよ。

SFで思い出したんですが、『スター・ウォーズ』1作目のラスト、デス・スターの中心部に、Xウイングの最後の一機だけがピューって入っていくじゃないですか。あれも西宮の“福男”からヒントを得たんだと、僕は思ってますけどね(笑)。

『スペルマゲドン 精なる大冒険』
2024(C)74 ENTERTAINMENT AS

『ANIMAL』

『ANIMAL』

── 2枚目のチラシは、インドのバイオレンス・アクション『ANIMAL』です。

みうら チラシを見る限り、主人公らしき人物の後ろに、仮面を被った群衆がいますね。 

── なんか特殊部隊みたいにも見えますけど、スーツかタキシードを着てませんか?

みうら パーティのようですね。後ろに酒瓶が並んでいる。で、さらに後ろのカーテンが開きつつあって、太陽らしき光が見えますね。おそらく夜中から朝までの物語であるってことです。

── 『フロム・ダスク・ティル・ドーン』みたいですね。

みうら ということはこの主人公アニマルは、ヴァンパイアものである可能性が高いですね。後ろの人たちは、ウサギとかネズミみたいな仮面を被ってますね。たぶん、仮面舞踏会的なものだと思われます。

── それならタキシードみたいなのを着てるのも説明がつきますね。

みうら みなさん、まあお金持ちなんでしょうね。たぶん秘密の島で、毎回いろんな人にイカゲーム的なことをさせて、余興として金持ちたちに見せてるんでしょうね。実にけしからんです。

そこに乗り込んだこの男が、『太陽にほえろ!』的アダ名の“アニマル”。捜査官です。このチラシでの姿は、潜入するためにコックとして雇われた格好だと思います。

── 確かにちょっとコックっぽいですね。

みうら でもこの長髪はコックには向かないですよね。ロン毛は彼のこだわりなんでしょうが(笑)。

パーティの余興のひとつに、コックがお肉をさばいて見せるショーがあるんですよ。

── インドなので、宗教的に牛は神聖なんじゃないですか?

みうら ですね。これはインドでは珍しい、マグロの解体ショーですから(笑)。ショーをしながらヴァンパイアになるのを待ってるんです、アニマル刑事は。

── このチラシ写真は変身直前ってことですね。

みうら ということになります。

チラシのコピーに「血、血、血、愛」って書いてあるでしょ。最後の“愛”に深い意味がありましてね。捜査のため、この島に乗り込んだ最大の理由があるんです。それは、彼の妹の救出。でも、ヴァンパイアでありますから、助けても血を吸ってしまう。

── なるほど。でもアニマル化しているから、血3、愛1ぐらいの割合になってるんでしょうか?

みうら そうですね。もう見境はついてないですよね。最後の最後にその妹の血まで吸おうとするシーンがあって、兄妹愛でぐっとこらえ……。これから先はネタバレになってしまうから、言えませんけどね(笑)。

── あのー、今気がついたんですが、上映時間が201分あるんです。

みうら さすがインド映画ですね! しかもこの作品は『ANIMAL ~妹よ~』。続編もあると思いますよ(笑)。

── チラシの裏面には「一家の宿命」と書いてあります。

みうら なるほど。ということは次々にファミリーが狙われ、その都度アニマルが救出するといった、いわゆるブロンソンの『デス・ウィッシュ』シリーズってことですね。たぶん何作も出ますよ、この後。

『ANIMAL』
(C)SUPER CASSETTES INDUSTRIES PRIVATE LIMITED & BHADRAKALI PICTURES PRODUCTION 2023

取材・文:村山章

プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『マイ修行映画』(文藝春秋)、『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』『アウト老のすすめ』『見仏記 三十三年後の約束』(ともに文春文庫/『見仏記…』はいとうせいこうと共著)など著作も多数。