みうらじゅんの映画チラシ放談

チラシの少女は先祖代々落下音が聞こえてるファミリーのひとりです『落下音』

月2回連載

第166回

『落下音』

── 今日の1枚目のチラシは、第78回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞したドイツ映画『落下音』です。

みうら そうなんですか。でも、この連載は、チラシからどう想像膨らますかって話ですからね。当然、「ラッカ」って言ったらもう落花生しかないんじゃないかと選んだだけです。

── もうちょっとあるでしょう?

みうら ありましたっけ? あと、落下傘ぐらいじゃないですか(笑)。でも、そもそも落下音ってタイトル、ヘンだと思いません? 「今、落下音がした!」とは口頭では言わないでしょ。

── 言わないですね。

みうら 言うのは「落花生食べた」の方ですから。ま、それもピーナツ食べたでしょうがね。

── それは言いますね。

みうら 「落下音がした」って、文章ではあるにしても、あまり使わない言葉。それをあえて持ってきてるということは、ビックリするほど大きな落下音だったってことになんでしょうね。

たぶん、このチラシを見る限り、その大きな音が聞こえるのはこの少女だけだと思います。この少女だけが振り向いてるポーズでしょ? きっと他の人には聞こえない、しかも大きな落下音が分かる才能の持ち主なんでしょう。

それをいろんな人に言うんだけど、「いや聞こえてないよ」って言われて、気のせいだとかずっと言われてきたんだと思います。だけど、この少女にだけ聞こえていた大きな落下音は世界各地に突如起こった爆音で、それはいずれ世界が破滅するような爆音だということが分かってくるんです。予知夢ならぬ、予知音が彼女には聞こえていたわけで、その才能がようやく知れ、科学者が少女を研究しながら、世間に警鐘を鳴らす映画だと思います。

── 「天変地異とか酷い戦争が起きます」みたいなことですか?

みうら そうですね。チラシにも、100年にわたる、とか、4つの時代の4人の少女って書いてありますから、実はその才能の持ち主は世代を越えて存在してきたということでしょうね。この写真の少女はそのひとりで、最終的には超能力研究のチームに入って、敵と戦うんじゃないかと思います。

── 何と戦うんですか?

みうら そこを言っちゃネタバレになりますけどね(笑)。超能力少年少女を集めて地球を救うなんて映画、よくあるでしょ?

── 『X-MEN』みたいなものですか?

みうら ですね。彼女は落下音専門エスパーですけどね。4つの時代に4人の少女がいた。たぶん後半で明かされるんでしょうけど、この少女は落下音ファミリーなんですよ。

── 落下音ファミリー?

みうら いや、その血筋と言いますか。先祖代々落下音が聞こえてるファミリーのひとりです。オープニングシーンは教会に集まったときに、急に「落下音が聞こえるよ!」と言いますよ。当然、学校でのあだ名は「落下音」ですよね。

── 「落下音」ってあだ名、いやですねぇ(笑)。ちなみに上映時間は155分。結構な大作ですね。

みうら そりゃ小学生時代から描いてますからねぇ(笑)。「落下音」とあだ名つけられイヤな思いをしたときの思い出シーンもありますでしょ? こんな才能いらないなんて友人に打ち明けたりしますが、信じてもらえないでしょうしね。それで初恋の相手にもフラれちゃって、とんだ災難、とんだ才能でしたよね、落下音少女。

── でも、それが地球を救うことになる。

みうら だから、人は自分の理解できないことに対し、「ヘン」と決めつけちゃいけない。そういう警鐘映画でもあると思うんですよね。

『落下音』
(C)2025 ZDF / Studio Zentral / Network Movie

『海辺の恋』

『海辺の恋』

── 2枚目のチラシは、ギィ・ジル監督の『海辺の恋』……って、チラシに日本語のタイトルが書いてないですね。

みうら でしょ。それが気になって選んでみました。本当に想像することしかできないんです。久しぶりにすごいチラシに出会いました(笑)。裏面にはこれ、「ラムール」って書いてあるんですかね?

── フランス語で「愛」ですかね? 「メール」っていうのは「海」ですかね。フランス語はよく分かりませんけど、『海辺の恋』に合致しますね。

みうら なるほど。でも、それだけではどんな映画なのかさっぱり分かりません。ただ、このチラシ写真に電話ボックスが写っている。これがヒントだと思うんですが、どうです? 予想するにこのふたりの女性はふたりとも携帯をなくして、仕方なく電話ボックスを探していて、ばったり出会うんでしょうね。でも、ふたりとも電話ボックスのドアの開け方が分からない。「どうする?」って、ことです。

── 『ブラック・フォン2』のときもそんなお話されてましたね。

みうら いや、若い人は開け方を知らないでしょうし(笑)。ようやく開け方が分かったにしても、次の問題はコインを先に入れるのか受話器を取るのかが分からなくて、かけることができない。

で、 結局ふたりは電話をかけられず、どちらかの方から「それより僕と踊りませんか」的な会話が出て、「カフェでも行きましょう」って、流れになるんでしょう。そこでふたりは初めていろいろ話すんだと思うんです。

どちらかが既婚者で、どちらかが独身で、どこに勤めてるとかいう話もいろいろあって、それをきっかけに「今からウチに遊びに来ない?」なんてことに。フランスの人だから、当然ホームパーティーとかするんでしょう? で、そのときに、既婚者の方の旦那と、バルコニーあたりで酔っ払った勢いでいい調子になって、恋が芽生える。80年代、日本でも流行ったじゃないですか。「何ちゃら何人恋物語」ってドラマ。

── はい。ありましたね。

みうら ま、僕、観たことないんですけどね(笑)。

というか、このチラシで読み取れるのはそれくらいしかないです。いや、このチラシ写真にある「SYDA」て書いてある車を運転してる人が既婚者の方の旦那で、「おいおい、どうしたの?」「今ね、電話かけられなくてふたりで笑ってたとこなのよ」「それは困ったね、せっかくだからウチに寄ってくださいよ」なんて言って連れて行くのかもしれないですけど。

観客もしょうがねえなこいつらって思う映画なことは間違いありません。僕が今まで観てきたフランスの恋愛映画ってそんな感じでしたから。

── みうらさんの中のフランス映画感味が出てますね(笑)。

みうら いやぁ、僕だって中学生の頃にはいろいろフランス映画観たもんでね。ほら、シャバダバダって音楽がかかるの、何て映画でしたっけ? 

── シャバダバダは『男と女』。作曲者はフランシス・レイですね。

みうら そう! フランシス・レイでした。当時、曲が好きでサントラレコードを買ったんですけど、映画の内容の方はちっとも分からなくてね(笑)。そっちよりオシャレ感は大事ですから。

── このチラシ、裏も大して書いてないですね。

みうら やっぱりオシャレなフランス映画なんでしょうね。

── 「失われたものの美しさを静かに映し出す」とも書いてありますね。

みうら 「失われた」っていうのは夫婦関係のことですよね、きっと。有名な監督さんなんですかね?

── チラシの最後に「その名はギィ・ジル」って書いてありますよ。

みうら その名はギィ・ジル? 1964年の映画みたいですけど、全く知りませんよ。

── でも「私たちはなぜその名を知らなかったのだろう」って書いてあるんで、あまり知られてない人みたいですよ。

みうら それ、フランス映画の中でも隠れた存在っていう意味ですかね? ということは、フランシス・レイのサントラではないってことですね。

── 音楽担当はジャン=ピエール・サロさんだそうです。

みうら ジャンときたら、僕の世代はジャン・ポール・ベルモンドが有名ですが(笑)。

でも、今見るとチラシの写真もいいし、当時のザ・フランス映画な匂いがして、とても惹かれるものがあることは確かです。まあギィ・ジルさんの映画にはアラン・ドロン的な大スターは出ておられないんでしょうけどね。

── え?

みうら どうしました?

── 今、出演者名を見てるんですが、アラン・ドロンって書いてますよ。

みうら 漫才の横山アラン・ドロンじゃなくて、本物(笑)?

── アラン・ドロン、ジャン=クロード・ブリアリ、ジャン=ピエール・レオが出てるそうです。みんな有名人ですよね。

みうら ギィ・ジル監督のことがますます気になってきましたよ(笑)。

『海辺の恋』
(C)1965 Films Galilee

取材・文:村山章

プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『マイ修行映画』(文藝春秋)、『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』『アウト老のすすめ』『見仏記 三十三年後の約束』(ともに文春文庫/『見仏記…』はいとうせいこうと共著)など著作も多数。