みうらじゅんの映画チラシ放談

今年は本気の人魚ブームがくることは間違いありません『オラン・イカン』

月2回連載

第167回

『オラン・イカン』

── 今日の1枚目のチラシは、ディーン・フジオカさんが出演した東南アジア産ホラー映画『オラン・イカン』です。

みうら これはさすがにチラシの表だけ見てもよく分からなかったので、裏面を見たら、半魚人の話だっていうことが書いてあった。今、僕は人魚がマイブームなこともあって、「人類vs半魚人」の文字が「類人人魚半」と読めたんですね(笑)。類人人魚半の映画だったら、これは絶対に観なきゃならないなと選びました。

── 何なんですか? 類人人魚半っていうのは?

みうら いや、だから人間と魚がミックスされた生き物だと思うんですね。現地ではそれのことを“オラン・イカン”って呼んでいるんでしょうね。人魚半についてなら、言いたいこともたくさんあるわけでね。

── ハイ、聞かせてください。

みうら 人魚のモデルとされているジュゴンは、沖縄では“ザン”と呼ばれてるんですよ。人魚とひと口に言っても、いろんな場所で呼び方も違ってますから、この映画の舞台となる島ではオランイカンと呼んでいてもおかしくないわけです。

この1年、人魚に関する本をたくさん読んだんですがね、人魚像の一番古いものは女性ではなかったっていうんですよ。

その人魚像は男の神様で、ヒゲが生えているんです。それがいつの間にか、各国で人魚伝説が増えるにあたり、上半身が長い髪の女性で、下半身が魚の一部ということになったらしいんですけどね。

西洋ではセイレーンと呼ばれているんですが、それ、警報を鳴らすサイレンの語源になったらしいです。セイレーンが見たければスタバに行くといいですよ。スタバのロゴマークは人魚のセイレーンですからね。

── ああ、確かに。

みうら この映画に出ているオラン・イカンは、だから雌の人魚だとは限らないなと思うんです。チラシの裏に載ってるこの顔を見てくださいよ。

── 確かに、顔だけでは性別は分からないですね。

みうら チラシにも「史実に残るUMA目撃情報から生まれた」って書いてあるので、やっぱり現地の人魚伝説が元になった映画だと思いますよ。

それにね、今年は単なるマイブームじゃなくて、本気の人魚ブームがくることは間違いありません。なんとこの7月に公開予定の『ちいかわ』の映画のタイトルが、まさに!

── 『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』ですね。

みうら こりゃ、くるでしょ人魚ブーム。

── どうしてみうらさんは人魚に注目したんですか?

みうら 渋谷西武のA館脇にいる“ヌー銅”(※街中や駅などに置かれたヌード銅像のこと。みうらさんが命名)がね、人魚だったからです。見る機会があったら、よくよく見てください。尾ヒレがついてますから。

── おお!

みうら たぶん、かつて渋谷川に棲んでた人魚かと。人魚って海だけじゃなくて、川にもいるんですよ。多摩川に迷い込んだタマちゃんみたいにね(笑)。 

でも、この映画に出てくる類人人魚半はジュゴンではないと思います。顔がむしろ魚類ですからね。この歯がギザギザな感じもジュゴンではありません。

── そうですね。

みうら このチラシ写真を見る限り、ルーツはリュウグウノツカイの変化と判断しますがどうでしょう?

── 類人人魚半のルーツが気になるんですね。

みうら 映画を観れば、たぶんそれが分かるでしょう。ハマー・フィルムの半魚人とも違いますよね。

── はい、違いますね。

みうら 『ちいかわ』に出てくる人魚のルーツも大変気になりますし、『オラン・イカン』を観た人はきっと、映画『ちいかわ 人魚の島のひみつ』も観たくなると思うんですけどね(笑)。

『オラン・イカン』
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『シャオ・メイ/ローマ大決戦』

『シャオ・メイ/ローマ大決戦』

── 2枚目のチラシは、イタリアのカンフーアクション『シャオ・メイ/ローマ大決戦』です。

みうら これはかつての『アンジェラ・マオの女活殺拳』とか、日本では志穂美悦子さんの『女必殺拳』シリーズを彷彿させるチラシですね。

この映画はもちろん、『燃えよドラゴン』世代の者に刺さるように作られていることは確かです。それに、舞台はローマでしょ。

── 「ローマ大決戦」って書いてますからね。後ろにもコロッセオが映ってますね。

みうら コロッセオっていうことは当然、『ドラゴンへの道』のオマージュでしょうね。ブルース・リーとチャック・ノリスが闘った舞台ですから。

僕、昔、取材でゴールデン・ハーベストに行ったことがあるんですけど、そのとき、「ブルース・リーとチャック・ノリスの格闘シーンを撮ったのはこのスタジオです」って言われて。格闘シーンはコロッセオじゃなく、当然香港のスタジオだったんですよ。

あと、チラシの端っこでベスパに乗ってるふたりが写ってるじゃないですか。これはモロ『ローマの休日』のパロディですよね(笑)。

── 明らかにそうですね。

みうら だからこれは、『ドラゴンへの道』と『ローマの休日』を合体させたストーリーなんでしょうね。ということは、シャオ・メイがどこかの国の王女だっていうことになっちゃいますが。

── 『ローマの休日』ですからね。

みうら 安直に考えると、宮殿から抜け出した王女がローマのアチコチで大立ち回りされることになりますよね。となると、ラストシーンは記者会見のシーンでしょう。

── アクション映画じゃなかったでしたっけ?

みうら ですがね(笑)。安直に考えると、王女が闘ったことを知っているのは、新聞記者と友人のカメラマンだけってことになり、カメラマンは王女が戦っているカットを何枚も撮ってるんだけど、「これはやっぱり新聞には載せられない、王女との友情だから」ということになって、記者会見の席で王女に写真のフィルムをこっそり渡して、にんまりするシーンがあるでしょうね。

そして記者団から「どこか思い出深い街はありますか?」って言われたときに、シャオ・メイは毅然と「ローマ」って言うんでしょうね。

── マジで『ローマの休日』に「シャオ・メイ」って足しただけじゃないですか。

みうら いや、安直に考えると、ですよ(笑)。そうそう、途中でシャオ・メイは美容室に入って、すっごいショートになるはずなんですけどね。

── チラシにはロングヘアしか写ってないですけど。

みうら いや、それはわざと載せてないんだと思いますけど。

── 監督は以前、日本のアニメ『鋼鉄ジーグ』や『ルパン三世』、『タイガーマスク』をモチーフにしていた人なので、筋金入りのオタクなんでしょうね。

みうら そうなんですか。じゃ、僕もひと言、言っておきますね。『ローマの休日』のオマージュは、かつてのゴジラ映画『三大怪獣 地球最大の決戦』でやってますからね。若林映子さん演じるサルノ王国の女王がそれで……。

もう、こんな話いいですよね(笑)。『シャオ・メイ/ローマ大決戦』は必ず観に行こうと思ってます。

『シャオ・メイ/ローマ大決戦』
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取材・文:村山章

プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『マイ修行映画』(文藝春秋)、『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』『アウト老のすすめ』『見仏記 三十三年後の約束』(ともに文春文庫/『見仏記…』はいとうせいこうと共著)など著作も多数。