みうらじゅんの映画チラシ放談
このタイトルからして不倫ものってことなんですかね?『みつけた、みつけた~分別と多感』
月2回連載
第168回
── 今回の1枚目のチラシは、2000年製作のインド映画『みつけた、みつけた~分別と多感』です。
みうら これはもうタイトルがいいなと思いました! 何を見つけたのかはこれから想像しますが、「みつけた、みつけた」って2回言ってるところがいいですよね。言った後にやけに大人っぽく「分別と多感」と、続くってことは不倫ものってことなんですかね?
── 分別を失って不倫に走る話ってことですか?
みうら ま、大概、多感に負けて分別を失くすもんですからね(笑)。
このチラシの写真を見る限り、ホームパーティーに参加したカップルたちが酒に酔い分別を失くすんでしょうがね。でも、みんなが同じサリーのような服を着てるということはですねぇー。
── 正装っぽいですから、結婚式とかですかね。
みうら ですね。きっと結婚式の二次会なんじゃないでしょうか。しかし、この写真の肝というかヒントは、写ってる男女の比が合わないところです。組み合わせが男女じゃない可能性もありますがね。何かそこに分別と多感の意味があるんじゃないですかね?
── この5人、みんなこっち側を見てるのはどうしてですかね?
みうら なるほど、手前にもうひとりいますね。その人がこの写真を撮っている。じゃあ比はあっているのかもしれないです。となると、この映画はカメラマン目線だということですよね。
普通だったらセルフタイマーにしてその人も一緒に撮りますよ。でも寄ってこないということは、結婚式場お抱えのカメラマンの可能性がありますね。となると「みつけた、みつけた」はそのカメラマンの口癖というか、商売柄。ふだんは街の写真館を営んでいて、ダダをこねる子供を正面向かして撮る際、「みつけた、みつけた」ってヌイグルミをカメラの横から出してるんじゃないでしょうか? でも、今回はカメラを覗いていて、自らが理想の恋人を見つけちゃった。
── プロだから本来はお客様に恋をしてはいけないとなると、王道のラブコメのパターンですね。
みうら そこですよね、「分別」の意味は(笑)。と、なりますとね、「多感」というのはカメラの用語で「多感光」の意味ではと? 多く光を当て過ぎて、写真が台無しになってしまうとか。
── なるほど、なんか説得力ありますね。
みうら ま、カメラのこと詳しくないんですけどね(笑)。
たぶん、タイトルの下にアルファベットで「カンドゥコンダイン、カンドゥコンダイン」って二度書いてありますが、これが和訳すると「みつけた、みつけた」ってことになるんでしょうね。カメラマンがカメラを覆っている黒い布の暗がりから覗いていて、「カンドゥコンダイン、カンドゥコンダイン!」ってなるところから話は展開していくんでしょうね。
── つまりこのチラシの場面が映画の冒頭の場面ってことですね。
みうら そうなりますね。一見、このチラシに写ってる人たちが主人公のように見せかけてますけど、実はカメラマンだってお話です。
このカメラマンはこの後、仕事を失くすかもしれません。客との禁断の恋でね。右上にちょっと怖い顔してる人がいますが、「何か変だぞ!このカメラマン」とちょっと気がついたかもしれませんね。
── 左上の人も、怖い顔してますよね。
みうら と、いうことはバレバレじゃないですか(笑)。やっぱり気持ちは黒い布の中だけに納めておくべきでしたね。たぶん、切ないラブストーリーでしょうから、最後には涙のカツアゲが待っているかもしれませんよ。
『みつけた、みつけた~分別と多感』
(C)V Creations / Kalaippuli S.Thanu
『カーンターラ 神の降臨』
── 2枚目のチラシは、インド南部の儀式をモチーフにした映画『カーンターラ 神の降臨』です。
みうら このチラシのインパクト過多に、つい選んでしまいました(笑)。これはこの人に何かが降りてる時の写真なんでしょうね。イタコ状態と言いますか。
何かが乗り移った瞬間だとも言えます。この降臨、チラシを見る限り下から上に変わっていくんでしょうね。
── でも相当姿が変わってませんか?
みうら 確かにメイクすら変わってますもんね。元あったヒゲもなくなってますよ。
そういや昔、テレビの深夜番組をやったときに、イタコを呼ぼうっていう企画が出たんです。たぶんテリー伊藤さんがその企画を出したんだと思うんですけど、「みうらさんの事務所にイタコを呼ぶから、みうらさんが呼んでほしい人をリクエストしてほしい」って言われたんです。
結構、お歳のおじさんがひとりで来られたんですが、僕が「じゃ、ジョン・レノンさんをお願いします」と頼んだらその方、突然、「熱いんじゃ、熱いんじゃ」って言って、苦しそうに降臨させたもので「もしや、ジョンさん、地獄におられるんですか?」と聞いたら、「地獄設定はまずい」と思われたのか、「いや、久しぶりに降りてきて、身体が熱いんじゃ」と言うんです。もちろん英語じゃないですよ(笑)。
ジョン・レノンさんには聞きたいことがいろいろあったんですけど、何を聞いても「熱いんじゃ、熱いんじゃ」ですから。ごまかしてるのは丸わかりで企画の意図どおり、大爆笑になりました。
収録終わってその方「すいません、よく知らないもんで」と謝っておられたのがとても印象的で。
── この映画『カーンターラ』の人はちゃんと降ろせてるんですかね?
みうら いや、この方は変身までしておられるんで、降りてるんじゃないですか?「熱いんじゃ、熱いんじゃ」でごまかすとは思えないです。しかもチラシには「またたき厳禁、ラスト10分の衝撃」って書いてありますから、確実に降りてくるんでしょう。しかも主演、監督、脚本が同じ人なんですよね。ということは、本人が「よし、降りた!」って言ってOKを出してることになりますよ。
── 確かに(笑)。監督が「用意スタート!」って言って、自分に神様を降ろして、その後に「はい、カット!」って言うんですかね?
みうら そうしないといつまで経っても収録は終わりませんらかねぇ。でも「ラスト10分の衝撃」って書いてありますから、ラストまでは降りてこないはずです。
── 上映時間は148分なんで、ずいぶんと待たされますね。
みうら ある意味、ドキュメンタリーですね。本当に降りたかどうかは本人しか分からないけど、監督だからちゃんと「降りた!」って言ってくれるはずです。待ちましょう。このチラシの写真も「降りた!」って言ってる口じゃないですか?
── 確かに「タ」の口をしてるように見えますね。
みうら この方の背中にピカピカと放物線状のものが写ってますけど、これはおそらく仏像で言うところの光輪の部分でしょうね。降りたら光がバーンと出る感じになるんでしょう。
── 「降りたら光が出ますよ」って示すために、あらかじめ飾りをつけてるんですか?
みうら スイッチはどこかにあるのかもしれませんけどね。
チラシに書いてある「驚天動地」も要注意ですね。ビックリすることは間違いありません。
── 「脳裏に焼きつく」とも書いてあります。
みうら 「熱いんじゃ、熱いんじゃ」おじさんもしっかり脳裏に焼き付いてますからね(笑)。
── ちなみにこの『カーンターラ』なんですけど、今年もう1本公開されます。
みうら マジですか? 続編ですか?
── 前日譚みたいですね。時代を4世紀にまでさかのぼる序章らしいです。
みうら 前日譚ということは、ずっと降りないってことですよね? いや、数百年前に一度、誰かが降ろしたことがあるってことですか? もしかして、それもリシャブ・シェッティさんが監督、主演、脚本なんですか?
── そのようです。
みうら もはやライフワークですね。インドの丹波哲郎さんくらいと思って、前日譚と合わせて観るのがいいかもですね。
『カーンターラ 神の降臨』
(C)2022 Hombale Films. All rights reserved.
取材・文:村山章
プロフィール
みうらじゅん
1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『マイ修行映画』(文藝春秋)、『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』『アウト老のすすめ』『見仏記 三十三年後の約束』(ともに文春文庫/『見仏記…』はいとうせいこうと共著)など著作も多数。