みうらじゅんの映画チラシ放談

『免許がない!』との2部作であるということは、間違いありません『免許返納!?』

月2回連載

第169回

『免許返納!?』

── 今回の1枚目のチラシは舘ひろしさん主演のコメディ『免許返納!?』です。

みうら 僕、かつて1度、舘ひろしさんにお世話になったことがあるんですよ。

── 何があったんですか? イメージがつながりませんが。

みうら ですよね(笑)。どう考えてもつながらないでしょうが、しかもステージで同じマイクのところで『泣かないで』を歌わせてもらったことがありまして。

── ええ? 人生、何をやったらそんなことが起きるんですか?

みうら 不思議でしょう(笑)。ずいぶん昔のことですが、癌になっちゃった池田貴族を少しでも元気付けようと、彼の地元、名古屋でイベントをやったとき、「高校の先輩に舘ひろしさんがおられまして、呼んでほしい」と言ったんですよ。時代も違うし、一度もお会いしたことないのに。

知り合いのミュージシャンは呼べても、それはさすがにムリだよって言ったんですけど、貴族が在籍してたプロダクションの方が電話してくれたのかな? そうしたら引き受けてくれたんですよ。

── 舘ひろしさんが出てくれるって?

みうら そうなんです! 優しい方ですよね。ま、それでみんな大慌てしちゃったんですけどね(笑)。本来、ゲストは大槻ケンヂくんや人間椅子の和嶋くんとか、バンドブーム時代からの友人たちばかりでね。それが突然、舘さんも一緒にリハするってことになったわけで。東京で1度リハやったんですけど、スタジオの通路のところに座ってたら、急に大槻くんが立ち上がったんで何かと思ったら舘さんが来られて。

僕らはもう最敬礼でした。バンドのメンバーは舘さんの「泣かないで」をちゃんと練習してきていて、歌ってもらってというリハだったんです。スタジオの丸いガラス窓から僕らは中を覗いていたんですが、ドラマーの人が緊張のあまり、しばらく立ったままドラムを叩いてたのが印象的で(笑)。

── そりゃ緊張しますよね。

みうら 当日、名古屋の会場に入ったら、舘さんが「俺ひとりだとあれだから、サビはみんなで歌ってよ」っておっしゃったんです。舘さんのマイクの横でギターを弾いて、サビになると顔を近づけ、「泣かないで」のところを歌いました。

でも、舘さん、本番になったら、「泣かない」でのところをすごくお溜めになるんですよ。「泣か」のところで溜め、それに合わせて演奏もパッと止めるんですけど、舘さんはマイクを持ったまま会場に下りていって、下にいた池田貴族の奥さんにマイクを向けて、「泣かなーいで」って歌われたんですよ。いやぁ、カッコイイ演出でした。ま、僕たちはその間ずっと「泣か」の状態でずっと待ったまんまでしたけど(笑)。

その後に、舘さんが「泣いていいよ」という歌をお出しになっていたことを知ったんです。

で、長い前振りでしたが、今回のこの映画『免許返納!?』の話に繋がるんです。その前に『免許がない!』っていう映画がありましたよね?

── はい、確か森田芳光監督が脚本でしたよね。

みうら 「泣かないで」と「泣いていいよ」、『免許がない!』と『免許返納!?』。これは舘さんのマイルールかと。

── なるほど。

みうら 「免許がない!」つって免許を取りに行って、ほぼ30年後に返納するっていう、前作との2部作であるということは、間違いありません。

あと、このチラシは007のパロディ味を感じます。となると、免許返納する車はアストンマーチンかと?

── ただ、チラシだと「愛車」のところにルビで「フェラーリ」って書いてますね。「ついにフェラーリを手放すのか?」って。

みうら あ、そうですか(笑)。免許がない僕には無理な推測でした。すいません。

── 聞いた話によると、映画の中でも「泣かないで」を歌うシーンがあるらしいです。

みうら え⁉ そうなんですね! じゃあ僕はサビの部分、いっしょに歌わなくっちゃですね。

── 映画館ではやめてくださいよ。

みうら はい(笑)。

『免許返納!?』
(C)2026「免許返納!?」製作委員会

『GOOD BOY/グッド・ボーイ』

『GOOD BOY/グッド・ボーイ』

── 2枚目のチラシは、全編犬視点のホラー映画という触れ込みの『GOOD BOY/グッド・ボーイ』です。

みうら 「ついに犬視点!」ってチラシに書いてありますよね。ということは全編がローアングルからってことでしょうね。このチラシのアングルは俯瞰ですから、こういう映像は出てこないってことになりますよ

昔から“邪鬼目線”で仏像を見てきた僕にはグッとくる作品だと思いますね。

── よこしまな鬼、の邪鬼のことですか?

みうら そうです。四天王像に踏み付けられてるのが邪鬼です。ちなみに四天王は、持国天・増長天・広目天・多聞天のことですからね。

僕は小学校の頃から、仏像の中でもとりわけ踏み付けられてる邪鬼に興味がありましてね、四天王以外の像も邪鬼目線、すなわちローアングルから見てきたんです。人間はしょせんは煩悩の邪鬼ですから、その目線が当然だろうと。

まあ、この映画と邪鬼は全然例えになってないんですけど、犬の視点になってものを見るってことは、犬からしたら人間のことはこう見える、ってことですよね。よりリアルに、人間の醜さが見えるんじゃないでしょうか。

── チラシには「悪が見える」って書いてますけど、これは犬には悪が見えるってことですか?

みうら 悪、すなわち人間のことでしょうね。僕は思うんです。人間が犬の前で手を出して「お手!」ってやるのは、犬にとってパワハラであり、ホラー行為なんじゃないかと。僕、小学校のときにちょっとだけ飼ったことがあるだけで、あんまり犬には詳しくないんですけどね。

── 以前も親戚の家の犬に嫌われたって仰ってましたね。

みうら そうなんです。親戚が飼ってるものすごく賢い犬が、唯一噛んだのが僕。よほど僕が悪に見えたのでしょうね(笑)。でも、犬でなくても、かわいい孫にジイサンがやりがちなことで、いきなりアタマを撫ぜて「大きくなったな!」と言ってはぐちゃぐちゃにするじゃないですか。孫は何も言えないけども、それ、確実にトラウマになりますよね。

人間って、頭を撫でるっていう行為に対して、良かれと思ってますけど、撫でられてる側からしたらすごく迷惑なことだったりするわけで。これの犬バージョンと考えていいんじゃないかと思いますよ、この映画。

── なるほど。学ぶべきことがありそうですね。

みうら 『グッド・ボーイ』ってタイトルも、おじいちゃんに頭をぐちゃぐちゃに撫ぜられ「グッドボーイ、グッドボーイ」、つまりいい子だいい子だとかつて呼ばれた少年が、犬に生まれ変わったわけですから。

── せっかくグッド・ボーイだったのに犬になるなんて災難ですね。

みうら ま、カルマってやつでしょうか(笑)。来世で犬になった子どもが、犬の気持ちを学んで、もう一度、本物のグッド・ボーイに生まれ変わる物語じゃないでしょうか?

── いい話そうですね。

みうら いい話だと思います。でも、ただいい話だけじゃ「新感覚ホラー」とは呼べません。犬目線で見るとこの世の中はホラーそのものと、映画は言いたいわけです。 

── それはちょっとチラシには書いてないですね(笑)。あ、犬が「最優秀犬演技賞」とか獲っているみたいです。

みうら でも、それは映画『わさお』の方が早いです。かつて、みうらじゅん賞をわさお殿、おとりになってますから。

『GOOD BOY/グッド・ボーイ』
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取材・文:村山章

プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『マイ修行映画』(文藝春秋)、『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』『アウト老のすすめ』『見仏記 三十三年後の約束』(ともに文春文庫/『見仏記…』はいとうせいこうと共著)など著作も多数。