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中井美穂 めくるめく演劇チラシの世界

ハイバイ『ワレワレのモロモロ2022』

毎月連載

第45回

ハイバイ『ワレワレのモロモロ2022』チラシ(表面)

俳優たちが、自身の体験を芝居にする『ワレワレのモロモロ』シリーズ。長野県上田市で滞在制作を行う『ワレワレのモロモロ2022』のチラシは、色とりどりの作品たちを象徴するかのようなカラフルなもの。そしてなんといっても目に飛び込んで来るのはインパクトある劇場図面。このチラシがどうできあがったのか、ハイバイ主宰の岩井秀人さんとデザイナーの土谷朋子さんに伺いました。

左から)土谷朋子さん、中井美穂、岩井秀人さん

中井 土谷さんはいつからハイバイのチラシを手がけるように?

岩井 確認したら、2008年の「て」の初演からでした。

土谷 当時ハイバイの制作を担当されていた三好佐智子さんから声をかけていただいたのがきっかけです。以前三好さんがやっていた劇団スロウライダーのチラシを何度か手がけたこともあって。最初はたしか御茶ノ水のロッテリアに呼び出されて、「今度こういう才能のある役者さんとやるからチラシをお願いしたい」と。

岩井 朋ちゃんはもともと出る側だったんだよね。

土谷 学生演劇をやっていて。でもデザインのほうが需要がすごくあったので(笑)。

中井 デザインはどこかで学ばれたのですか?

土谷 絵を描くのは好きで、大学で美術学科にはいました。きれいな色のiMacが出てきた頃に、Performaという渋い方のMacを買って、自分のいた劇団のチラシデザインを始めて。すると「あの子、デザインできるらしい」というので声をかけてもらって、やっているうちに今に至ります。

中井 ハイバイは2008年からだからもう14年。他にも、長い間チラシを手がけてらっしゃる劇団はありますか?

土谷 もうだいぶなくなりましたね。小手伸也さんのインナーチャイルドも2作目から10作目くらいまでやってました。

中井 ずっと続けてタッグを組めるのは、幸せなことですよね。どちらもやめていないってすごく貴重だと思います。

劇場図面と役者をボードゲームのように配置して

中井 今回のチラシはどういうところから始まりましたか?

岩井 毎回なんとなくやっているのは、イメージの単語をいくつか渡すことで。今回なら上田に滞在して作ること、あと実際の本人ということ。うち、俳優の写真は今まで出してないんですよ。でもこれは出す必要があるかなと。それと、劇場図面。

土谷 話し合いの段階で、劇場図面がボードゲームの盤面で、出演者の皆さんがプレイヤーのコマとして参加しているのはどうでしょう、という話になって、写真を集めてもらいました。

中井 では写真は撮り下ろしではなく……。

岩井 そう、みんなの過去の写真をいっぱい送ってもらって。子どもの頃のやつとかいろいろな中から選んでもらって。

土谷 撮りおろすと統一感が出てしまうので。

岩井 うん、統一感はなくした方がいい。

土谷 『ワレワレのモロモロ』は出演者それぞれの人生の話なので、写真もある程度ばらけていたほうが、それぞれの気持ちやら味やらが出るかなと。みなさんが送ってくださった膨大な写真からバランスを見てセレクトしていきました。川面千晶さんは妊娠中のお話だったので妊婦姿の写真とか、少し話との関連性をもたせたりもして。

岩井 サントミューゼという劇場を知っている人が見たら一発で「あ、これか!」とわかると思います。この丸いのが庭なんですよ。それを中心にして、放射状にと建物が建っているというすごく面白いデザインの劇場。実際にはそのあちこちを使うわけじゃないけど、この劇場からワレワレが出てくるというイメージですね。

中井 劇場の座席表は見たことがあっても、図面はなかなかないから面白い。そうか、ふたをとったらこうなっているわけですね。サントミューゼには行ったことがないから、最初は丸い部分が劇場だとばかり思っていました。

サントミューゼ 上田市交流文化芸術センター(上空から撮影)

岩井 「これ、どうも劇場だな。丸いところでやるのか」と思う人がいても全然いい。チラシってそういうイメージのな広がりやつながりが持てるのが大事な気がします。

中井 このチラシを見ると、サントミューゼに行ってみたくなりますね。よくよく見ると人から線が出ていて図面上を走っている。

土谷 劇場で作品を作るというのもあったので、なんとなくそれぞれの方の持ち場を作って、こう歩いていますというような導線を勝手に決めました。

岩井 ハイバイのチラシはだいたいザラザラの薄々なんですけど、今回はツルツルでしっかりしてる。

土谷 今回は公共ホールで、チラシをラックに縦にさすから。ホールで他のチラシに負けないで立っていてほしいから。図面にもこっちのほうが合うなと思って選びました。

岩井 発色も違うもんね。

土谷 こっちのほうが発色がいいですね。

ケーキ、刺繍、マトリョーシカ。必要なものは何でも作る

中井 ご自身も演劇をやられていた土谷さんが考える、演劇チラシデザインの特殊性はどこにありますか?

土谷 私、裏面の情報部分も大切だと思っていて。表で目を惹くのは大前提で、チラシを見れば何をやっているかはわかる、というのは心がけています。わからなく作ることはけっこうできちゃいますけど、ふざけていてもちゃんとわかるものにしたいと。

中井 裏面、たしかに見やすいです。

土谷 いつどこにどうやって行けばいいのかくらいは最低限わかりたいしわからせたい。でも、岩井さんが書いてくださる文章の要素も好きなので、ちゃんと立たせたい。このパズルをうまく組み立てるのが楽しいんですよね。

ハイバイ『ワレワレのモロモロ2022』チラシ(裏面)

中井 岩井さんは、チラシに関してはどう考えていますか?

岩井 作品のテーマから外れないようにというのと、見終わった後に「これのことだったのか」と思ってもらえたら、とは思いますね。

中井 こうして過去のチラシを見ると、バラエティに富んでいますね。

岩井 僕のやりたいことが毎回違うのもあります。あと、朋ちゃんの家に遊びに行ったときに、すごい量のマスキングテープとか、布のかけらとかがあって。たぶんテクスチャーオタクなんですよ。それを見たとき、「ここを活かしてもらったほうがいいな」と思って。『ハイバイ オムニ出す』とかは、いい創作ができたなと思ったチラシでしたね。コラージュが面白いんです。

中井 本当ですね、面白い!

岩井 『ある女』の時はケーキを実際に作ってくれたし、

土谷 はい。それをうちの玄関で撮りました。

岩井 ただ、『ある女』のチラシには、実は作品のモチーフ以外のものがすごくたくさん写っていて。これ、元々二本立てをやる予定だったんですよ。それでチラシを作り終わったあとに「すいません、もう1本やれないです!」と。

土谷 もうタイトルも入って、これで決定となった頃に岩井さんから半笑いでお電話いただいて(笑)。

岩井 『夫婦』のときは刺繍をしてくれたし。

中井 このチラシは私も印象に残っています。これ、土谷さんが刺繍を?

土谷 はい。自分で図案を考えて刺繍しました。

岩井 ヒンズー教の神様のカーリー神とか、の絵が好きだという話をして、そういうイラストにする?と言ったら「タペストリーにしたい」って。

左から)『ハイバイ オムニ出す』(2008年)、『ある女』(2012年)、『夫婦』(2016年)チラシ

土谷 美術史とかもやっていたので、神様を祀るのにタペストリー的なものってけっこうあるんですよね。しかも作品の中に教会が出てきたりするので、ちょっと宗教っぽくしたいなと「刺繍にしましょうか」と。

岩井 他にもゴルフのパター練習マットにいろいろ飾り付けてもらったやつとか、マトリョーシカに絵を描いてもらったやつとか、いろいろやったよね。

中井 すごい。毎回楽しみながら作ってらっしゃる感じがしますね。

土谷 はい、それはそのとおりです。

中井 パターンになっていないですよね。よく「この人に頼みました」というのが一発でわかるチラシもありますが、そうじゃなくて毎回一緒に一からチラシという作品を作っている。

土谷 ハイバイらしさというのも必要かなとは思いつつ、毎回「ここでこういう感じのものをやる」「誰が出る」という話を伺っていくと、やはり印象としては同じものにはならないですね。

入り口から見える部分で最大限のものを

中井 14年の長きにわたってハイバイをご覧になってきた土谷さんの考える、ハイバイ作品の面白さは?

土谷 「私はさっきまでゲラゲラ笑ってたのにな」と思うところです。笑っていた次の瞬間に胸がいっぱいになったり、時には涙ぐんだりする。それと、少しみじめな人が出てくるところ。でもその人たちが自分のどこかにリンクして、わかってしまう瞬間があって、それでぐっときたりするんですよね。

中井 たしかに。でも、岩井さんはもう新作を書く気がないとおっしゃっていますが。

岩井 まだないですねえ。

土谷 そのうちまた?

岩井 そのうちあるかもしれない。

中井 でも、再演を繰り返すのは、私たち見る側にとっては面白いことですよ。やるたびに社会情勢も変わっているし、自分も歳を重ねていくし。劇作家の方はとにかく新作をと追われてつらそうだなと思うことも、正直ありますし。

岩井 無理してるな、ってありますよね。あと、再演を繰り返さないと伸びない俳優の部分、演出の部分って絶対にある。それは感じていますね。

中井 では最後に、チラシはこの先どうなると思いますか?

土谷 今は配れないから刷らないほうが圧倒的に多いです。自分も実際観に行くときはwebを頼るし……。でも地方だと「紙じゃなきゃ」と言われたりもするんですよ。だから、紙とweb両輪でいけたらいいなと思いますが。

岩井 僕、2年前くらいに「もうチラシ刷らない」って言ったことがあります。公演がなくなるかもしれない、そのために何十万円とかかかって、紙も全部無駄になる……。だから宣伝をwebに特化すればいい、そしたら動かせるじゃん!って映像を作ったりしました。

土谷 コマ送りの映像、作りましたね。

岩井 webなら見るたびにちょっとずつ情報が進んでるとか、そういうことができるから。でも、それをやれるようになって、逆にチラシが、まだどういうものかわからない段階ですごいことをFIXして世に出さなきゃいけないものだったんだと改めてわかりましたね。

中井 たしかにすごく危険度の高い情報ですよね。何も脚本ができていないのにタイトルだけでチラシを作る演劇も多くて。

土谷 昔からそこの部分は変わらないですね。それを、どれだけ掬えるかが私の仕事で。全体が見えず、入り口から覗いたところで拾ってきたものでチラシを作る。最終的には違うかもしれないけれど、その時点で最大限のキーとなるビジュアルを作る、という気持ちで毎回やっています。

構成・文:釣木文恵 撮影:源賀津己

公演情報

ハイバイ『ワレワレのモロモロ2022』
【長野公演】
日程:2022年7月2日(土)・3日(日)
会場:サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター)大スタジオ

【東京公演】
日程:2022年7月7日(木)~7月10日(日)
会場:シアタートラム

プロフィール

土谷朋子(つちや・ともこ)

神奈川県横浜市出身。共立女子大学文芸学部芸術学専攻造形芸術コース卒業。大学在学中より始めた演劇活動からステージアートワークを開始。フライヤー作成からノベルティグッズ、衣裳、舞台装置まで手がける。「毎日にプレゼントを」という気持ちをコンセプトにシトローネとしてママゴトと2人でものづくりユニットpre*preを結成。2006年「消しゴムはんこの本」出版。「現代演劇ポスター展」(2015年・2017年)参加。2021年2月より、「緊急舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業」(EPAD=Emergency Performing arts Archive + Digital theatre)ポータルサイト内にて“作品から妄想した料理をごっこ遊びのように作って食べる企画”「ごっこめし」掲載中。

岩井秀人(いわい・ひでと)

1974年、東京都出身。作家・演出家・俳優。2003年に劇団ハイバイを結成。2012年NHK BSドラマ『生むと生まれるそれからのこと』で第30回向田邦子賞、2013年舞台『ある女』で第57回岸田國士戯曲賞受賞。近年はパルコ・プロデュース『世界は一人』の作・演出、フランスジュヌビリエ国立劇場「ワレワレのモロモロ ジュヌビリエ編」構成・演出、NHK Eテレ「オドモTV」内『オドモのがたり』構成・出演を務める。俳優として舞台、テレビ2020年から「いきなり本読み!」などプロデュース企画も積極的に行っている。

中井美穂(なかい・みほ)

1965年、東京都出身(ロサンゼルス生まれ)。日大芸術学部卒業後、1987~1995年、フジテレビのアナウンサーとして活躍。1997年から「世界陸上」(TBS)のメインキャスターを務めるほか、「鶴瓶のスジナシ」(TBS)、「タカラヅカ・カフェブレイク」(TOKYO MX)、「華麗なる宝塚歌劇の世界」(時代劇専門チャンネル)にレギュラー出演。舞台への造詣が深く、2013年より読売演劇大賞選考委員を務めている。