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中井美穂 めくるめく演劇チラシの世界

ゆうめい『養生』

毎月連載

第64回

ゆうめい『養生』チラシ(表面)

正方形の紙の約半分を占める『養生』の文字。荒れ果てた景色の中を歩く人の後ろ姿。毎回目を引くゆうめいのチラシの中でも、『養生』のビジュアルには重いインパクトがあります。ゆうめいの立ち上げからデザインを担当している映像作家・アートディレクターのりょこさん、脚本・演出・美術の池田亮さん、主宰・俳優の田中祐希さんに話を聞きました。

左から)中井美穂、ゆうめいの池田亮さん、りょこさん、田中祐希さん

中井 りょこさんは第一回公演からゆうめいのデザインを?

りょこ はい。池田くんとは多摩美術大学の演劇サークルで一緒で、その後池田くんが田中くんと出会ってゆうめいを立ち上げたときからデザインを担当しています。

中井 ゆうめいといえばこの正方形のチラシですよね。

りょこ これも最初からです。私自身、大学で上京して初めて演劇のチラシ文化に触れて、分厚いチラシ束にびっくりして。最初の狙いとしては、チラシ束を見ているうちに、このチラシがぱらりと落ちたらいいな、と。

中井 面白いですね!

池田 しかも最初は、裏に印刷した文字も透けるくらい紙が薄くて。そのうえ正方形だから、かなり見たことのないものになっていたんです。2015年の第一回公演のチラシのことをまだ覚えてくれている人もいるくらいで。

中井 それは嬉しいですね。

池田 ビジュアル自体も、今回は写真ですけど、毎回りょこさんの手で作っている感じが強いチラシなんです。チラシがひとつの作品として成り立っているように見えて、それがいいなと思っています。

中井 チラシはチラシとして、ひとつの作品。

池田 はい。そんな気持ちもあって、前回公演『ハートランド』のとき、チラシデザインの小さなアクリルキーホルダーを作ったんですよ。

りょこ 『ハートランド』のチラシを劇場で見せればもらえるという。

『ハートランド』(2023年)上演時に先着限定で無料プレゼントされたアクリルキーホルダー。『ハートランド』+過去公演チラシの表面を裏面をパッケージ

中井 わ、いいですね!

池田 最近俳優さんのアクリルスタンドがあったりしますが、ゆうめいでは作りもののほうにフィーチャーしたいなと思って。りょこさんの作りものが毎回手づくりなので。

りょこ 池田くんは美術も自分でやっていることもあって、クリエーションの中でものへのこだわりや空間に与える影響が強いのかなと思って、私も実際に立体物を作ってチラシにしたり、作中の映像を作ったりしています。外注する劇団も多いと思いますけど、ゆうめいは自分たちの舞台のアート面をぜんぶ自分たちで手づくりしているので。

偶然ぴったりの写真を見つけて

中井 『ハートランド』のチラシは好きでした。かわいいですね。いつもチラシづくりはどこから始まりますか?

りょこ 毎回、プロットや資料が上がる前から池田くんから「だいたいこういうテーマで」という作品の構想を聞いて、そこでチラシのイメージを起こすこともあれば、もう少しできあがってから考えることもあります。

中井 なるほど。

りょこ 『ハートランド』のときは、フィクションではあるけれども、田舎のコミュニティの話だったので、絡まった人間関係を表現したくて編み物を。モチーフになった舞台が私の地元のカフェでもあったので、陶器を焼いて、それを編み込みました。手づくりの器の感じと、人間関係がもつれたり割れたりしながらも離れられないという、物語の抽象的なイメージを自分で形にしていく流れが多いかなと思います。

中井 面白いですね。イラストにしようか、陶器にしようかなど、話を聞いてその手段や方法から考えるわけですね。

『ハートランド』チラシ(表面)。陶器を焼いて編み込み作品の世界観を表現

池田 今回の『養生』は、実は仮チラシでは普通にキャストの写真を出して、メインのチラシは別のビジュアルにしようかと思っていたんです。でも、情報解禁のときに文字と顔写真だけでは味気ないな、作品を表す写真がないかなと探していたら偶然これを見つけて。ゆうめいの、今回はキャストとして出演しない小松大二郎なんですけど、僕と田中くんと彼とで茶臼岳に登ったときの写真で。

中井 このために撮ったわけではなく、プライベートの写真。

池田 はい。『あか』(2018)のとき、稽古合宿をしようと栃木に行って。それこそ小松くんも夜勤明けで来て、稽古の合間に那須で遊ぼうくらいの気持ちだったんだけど、茶臼岳という山があるらしいから登ってみようという流れになって。まわりの人はしっかりした登山の装備の中、普段着で登っていって。

田中 すれ違う人がみんな、ちらっと見るんですよ。リュックさえ持ってないから。

中井 そんなときの写真が。ターバンのようなものを巻いているのもなんだかいいですね。

田中 これも、日差しをよけるためにパーカーをかぶっているだけで(笑)。ストックももちろん持っていないから、拾った木の枝をストック代わりにして歩いて。

池田 ぴったりなんじゃないかとこの写真を選んで、それに合わせてりょこさんにタイトルロゴを作ってもらい、デザインしてもらいました。

中井 こんなに大きくタイトルを配置するチラシ、なかなかないですよね。

りょこ 重さを表現できたらと思って。スタッフさんにも「プロレタリア文学のよう」と言われましたが、古い新聞の見出しのようなイメージも出せたらと思って作りました。どっしりしてはいるけど頼りがいのない感じもあるような字。

中井 表だけでなく裏にも使われている波線も印象的ですね。

『養生』チラシ(裏面)

りょこ 最初は紙が破れる面で試したり、それこそ養生テープで仕切ってみたりもしましたが、「この先どうなっちゃうんだろう」「これで合っているのかな」という不安、背負っているもの、そういう心の内が表現できたらと。黒と白というキーカラーと、キーとなる波形のイメージを作っていきました。

『テラヤマキャバレー』が『養生』に与えた影響

中井 池田さん、この『養生』と、脚本を担当された『テラヤマキャバレー』の公演期間が重なっているんですね。

池田 脚本はもちろん完成していますが、『テラヤマキャバレー』の稽古場にもついているんですよ。寺山修司の世界はずっと夢の中のようで、『養生』はずっと現実。ふたつの作品が全く違うので切り替えも大変ですし、『テラヤマキャバレー』の現場にいると「ゆうめいでも面白い作品を作らなくては!」とプレッシャーを感じます。

中井 『養生』はいまどんな状況ですか?

池田 みんなにはまだ脚本を渡してないです。

田中 でも、一応「だいたいこんな感じ」というのは聞いています。

中井 脚本ができあがる前からまわりに相談しているわけですね?

池田 はい。他にやりたいことがあるのに夜勤労働を続けてしまう、という状況が自分にも、ゆうめいのメンバーにもあって。作家活動をしたいのに、どうしても日銭を稼ぐために、そういうことをしてしまう。田中くんもそういう経験があって、バイトでひどい目に遭ったりしてるから、俳優活動に専念した方がいいんじゃないかと話したりするんだけど、どうしてもやっぱやめられなかったりする。

中井 何を選択するのか、それによって何を諦めるのかは、どんな人にとってもありますよね。

池田 そうですね。ストレートに「深夜労働でつらい」というのではなくて、本当はそうではないのに「俺、好きな仕事やってるな、面白いな」と言い続ける人を描きたいなと。それを続けているうちに、何にウソをついているかがわからなくなる。僕は元々彫刻をやっていたんですが、彫刻家として活動できている人と、そうしたかったけど別の仕事をやっている人とがいて。「好きな仕事をやれてる」と言っているけど、話すほどにコンプレックスが出てきたりする。自分も「好きじゃないけど好きだと思い込む」みたいなところは当てはまるから、それを軸として、その「諦められなさ」を肯定的に描ければ。

中井 自分で自分を騙すのは、幸せかもしれないし、不幸かもしれない。 そのわからなさを進んでいくところはありますよね。それを今回は3人で表現するわけですね。

池田 3人芝居にした理由のひとつに、『テラヤマキャバレー』が頭にあって。キャストも『テラヤマキャバレー』は豪華で盛りだくさんだし、自分で書いていても面白い作品だなと思うし、エンターテインメントで。何より寺山修司という強い存在のもとに成り立っている。でも『養生』は強い存在がなくても成り立たせたいと思って。

りょこ その表現として、こんなチラシも作りました。(クッションペーパーに印刷したものを取り出す)これを使って、写真の山を自由に作ってもらえたらと思って。

中井 わあ、すごい!

田中 面白い。

りょこ 自宅でしか印刷できないので、かなり限られた枚数しか作れないんですが。

中井 出会えたらラッキーですね。絶対みんな広げたくなりますよね。

クッションペーパーに印刷された特別版チラシ。出会えたらラッキー!?

池田 これは、1回引っ張ったら元に戻らないみたいなのがすごく演劇的だなと思っています。こういう試みは自分たちの劇団だからこそできることだなと思いますね。

中井 たしかに、プロデュース公演ではできないこと、極端なことを進められるという面白さがありますね。

手づくりのモノと舞台作品とのつながり

中井 ゆうめいのロゴもりょこさんが?

りょこ はい。

池田 最初は夕方の暗くなることから明るくなること=「夕明」と漢字で考えていたんです。でも漢字だと少し堅いかなと思ってひらがなにしました。ひらがなだといろんな意味を含むけどそれもいいかと。

りょこ その地平線に日が落ちたり、地平線から日が昇ったりするイメージで、手書きで書き起こしました。手触りがあるもののほうが似合うんじゃないかと。

りょこさんが手書きで書き起こしたという「ゆうめい」のロゴ

田中 ロゴをどうやって作ったのかは初めて聞いた。

中井 「フカイジュンコのプロデュース『キムユス氏』」のチラシもりょこさんが作られていましたよね?

りょこ はい。このときは刺繍で表現しました。

「フカイジュンコのプロデュース vol.ZERO『キムユス氏』」(2023年)チラシ。スラッシュキルトという技法を用いた独特な風合いで作品世界を表現

中井 これ、刺繍の実物がロビーに飾られていて、印象的でした! このチラシも、ゆうめいのさまざまな立体作品のチラシも、たとえばイラストでも成立はしますよね。立体作品として独立させようとすると手間がかかりますが、わざわざそれをやったほうがいいということですね?

りょこ はい。撮影するときの、空気も素材のひとつだと思っています。自宅にコマ撮り用の台がありまして。ガラスの台が層になっていて、カメラを上に設置して写しているんです。カメラがあって、空気があって、モノがあって、それを撮影すると、空間の広がりがありますよね。そこに時間も感じられる気がしていて。それが、舞台にも近いと思っているんです。空間含めて作品、ビジュアルになるという。立体作品になるとよけいに空間と時間のつながりを意識できる。それが、池田くんの作風にも合うのかなと思っています。

チケット代についてすごく悩んだ

中井 今回はアクリルキーホルダーのようなグッズは作らないのですか?

池田 ステッカーを作ります。

田中 今回、チケット代をすごく悩みまして。池田くんが「アンダー39」を導入することにして。

池田 現代彫刻家のアニッシュ・カプーアが関わった新国立劇場のオペラ公演(『シモン・ボッカネグラ』)で、アンダー39の料金設定があって。「アンダー29」ってよくあるけど、実際はアンダー29よりアンダー39なんじゃないかって思ったんです。

田中 僕も33歳なんですけど、4,000円とか5,000円超えるとちょっと足踏みしてしまう気持ちがわかるので。でももうアンダー29には当てはまらないし。そこで値段を下げた分、ステッカーつきの応援チケットを用意することにしました。ステッカーは販売もしますけど、応援してくれる方への気持ちとしてお渡しできればと。

応援チケット(5,000円)の特典として作られたステッカー。観劇後に絵柄の意味を想像してみるのも一興

中井 そういう話を、池田さんと田中さんで話されるわけですね。

田中 はい。この話し合いにはけっこうかかったよね。

池田 「いま、どの世代がチケットを買ってくれるんだろう」と、何度も相談しました。

田中 コロナ禍以降、すごく変わったので。

中井 確かに、コロナ禍によって変わったことはたくさんありますよね。

池田 実際、コロナの時期はチラシが撒けなかったので、紙で刷れなかったりもしましたし。

中井 それでも再び紙のチラシを刷るようになった理由は?

池田 キャストからも、「自分がやる作品のチラシが折り込まれていないのは悲しいよね」という意見を聞いて、そうだなと。 お客さんにも、チラシをモノとして欲しい人は絶対にいるなと思ったんです。キーホルダーもそうですけど、モノを持ち帰ることも観劇体験のひとつだと思って。

中井 劇世界は観終えたらなくなってしまって、記憶にしか残らない。でも、チラシは手で触れられるし、観た時の第一印象も残るから、特別な存在になりますよね。

取材・文:釣木文恵 撮影:源賀津己

公演情報

ゆうめい『養生』

日程:2024年2月17日(土)〜2月20日(火)
会場:東京・下北沢 ザ・スズナリ

作・演出・美術:池田亮

出演:
本橋龍(ウンゲツィーファ)
黒澤多生(青年団)
田中祐希

プロフィール

ゆうめい

2015年設立。田中祐希(主宰・俳優)、池田亮(脚本家・劇作家・演出家・俳優・造形作家)、小松大二郎(俳優・ダンサー)、りょこ/田中涼子(映像作家・アートディレクター)から成り、舞台作品・美術・映像を制作する団体として活動する。自身の体験や周囲の人々からの「自分のことを話したい」という声を出発点として、生々しくも多種多様に変化していく環境と可能性を描き、その後、表現によってどのように現実が変化したかを「発表する」までを行う。『ハートランド』が第68回岸田國士戯曲賞の最終候補作にノミネート。池田氏は2月上演の『テラヤマキャバレー』の脚本を手掛けている。 https://www.yu-mei.com/

中井美穂(なかい・みほ)

1965年、東京都出身(ロサンゼルス生まれ)。日大芸術学部卒業後、1987~1995年、フジテレビのアナウンサーとして活躍。1997年から2022年まで「世界陸上」(TBS)のメインキャスターを務めたほか、「鶴瓶のスジナシ」(TBS)、「タカラヅカ・カフェブレイク」(TOKYO MX)、「華麗なる宝塚歌劇の世界」(時代劇専門チャンネル)にレギュラー出演。舞台への造詣が深く、2013年より読売演劇大賞選考委員を務めている。