中井美穂 めくるめく演劇チラシの世界
THE ROB CARLTON 19F『ENCOUNTERS with TOO MICHI』
毎月連載
第80回

THE ROB CARLTON 19F『ENCOUNTERS with TOO MICHI』チラシ(表面)
宇宙をバックにした円形のデザインの中には、会見をしている要人らしき人と、その後ろで対立しているように見えるふたり。スーツ姿は要人のサポート、制服姿は防衛的な役割の人でしょうか。そして机の下には必死に何かを計算している学者らしき存在。どこかの国で何かしら非常事態が起きているらしい空気が伝わってきます。映画っぽい空気も感じるTHE ROB CARLTON『ENCOUNTERS with TOO MICHI』のチラシについて、作・演出を務める村角太洋さんとデザイナーのヤマダヒカルさん、フォトグラファーの今西徹さん、公演マネージャーの入江拓郎さんにも同席いただきお話を聞きました。

中井 THE ROB CARLTONはそもそも、珍しい成り立ちの劇団ですよね。村角さんが通われていた高校のラグビー部が母体という。
村角 文化祭で演劇をするのがお決まりの高校だったんですよ。ラグビー部ってやっぱり目立ちたがりで、その演劇にも積極的に取り組んだのがきっかけで。
中井 普通ならラグビーが残りそうなものなのに、その後演劇のほうが残った。

村角 演劇を楽しいと思ってしまったのでしょうね。高校卒業後、OB数人で「洛西オールドボーイズ」という団体を結成して京都の劇場を借り、お客様も身内ばかりの公演を3年ほどやったんですが、就職やら何やらで一度終わって。その熱が冷めやらなかった僕が2010年、26歳のときに当時のメンバー数名に声をかけて新たに立ち上げたのがTHE ROB CARLTONです。
中井 なるほど。では、チラシについて聞かせてください。デザイナーのヤマダさんはいつからTHE ROB CARLTONのチラシを?
村角 旗揚げのときは私がサクッと作りましたが、2作目から今に至るまでヤマダくんにお願い致しております。ヤマダくんは劇団のメンバーでもある弟(村角ダイチ)の同級生なんです。
中井 ヤマダさんはそれまで、演劇に関わりは?
ヤマダ 全く、観たこともありませんでした。ただ、その頃は会社であまり面白くない仕事をしていたので、「自由にできるならやってみよう」と。
中井 実際に作ってみていかがでしたか?

ヤマダ 今までやっていた仕事には「こういうものを宣伝したいです」というとっかかりがありましたけど、演劇ってチラシを作る段階では何も決まっていなかったりするんですよ。タイトルと、キャストと、あらすじ3行くらい。
村角 ええ。長くて5行。
ヤマダ だから「これも自由なのか……?」と思いながら作っています。最初は2案3案と出していましたけど、何回目からか「何も決まってないのにこっちもそんな作られへんで」という気持ちで、1案しか作らなくなりました(笑)。
中井 その1案を生み出すのに、どう発想されるのでしょう?
ヤマダ 公演の約半年前に話し合いを始めて、だいたい1ヶ月くらい悩みます。とくにTHE ROB CARLTONは、以前はキャストの写真を使ってはだめだったんですよ。
村角 自分たちが「誰やねん」という存在なのに、チラシに顔を出したところで観に来てくれるきっかけになるとは思えなくて。それよりはグラフィックで目を惹くものを、とお願いしていました。
中井 これまでのチラシで思い出深いものはありますか?
ヤマダ 『lab.』(2017)かな。実際に辞書を取り寄せて、家で撮影して、文章を抜き取って合成して……。ジーニアス(天才、秀才、英才、俊才、奇才)の研究者というワードから、「馬鹿と天才は紙一重」というコンセプトで絵作りしました。ちょっとひねったチラシですね。

中井 これまでのチラシを見ると、ある種の世界観はありつつも毎回方向性が違いますね。
ヤマダ 村角さんからの要求はそれほどないんですが、毎回「舞台の中身とリンクさせたい」とは言われるんですよ。まだ中身が全然わからへんのに。でもわからないなりに、いつの時代のどこの国という設定を聞いてなんとなく反映させています。
中井 実際に公演を観てみて、チラシと内容はうまくリンクできているものですか?
ヤマダ いや、たぶんできていないです(笑)。それで少し悩んでいる時期に、事務所の先輩が巨匠デザイナーから「演劇のチラシは外に向けて作ってないよ」と言われた話を聞いて、チラシを観たメンバーが「よしやるぞ」と思えるような劇団のカンフル剤みたいなものになればいいかなと思いながらやっているところがありますね。
デザイン、写真、作・演出の
やりとりで生み出されるチラシ
中井 今回『ENCOUNTERS with TOO MICHI』のチラシはどのように?
ヤマダ THE ROB CARLTONの芝居って、UFOが出ようが宇宙人が出ようが、結局はそれそのものじゃなく、影響を受けた人側のやりとりが主なんです。だから役者それぞれのキャラクターが見えれば作品の雰囲気も伝わるかなと。あとは周りのデザインでSF感が出ればと思って作りました。
中井 写真の今西さんとはよくご一緒に?
今西 もう10年くらいですかね。
村角 チラシに自分たちの顔を出す前から、舞台写真やパンフレット「LOBBY」用に僕らの写真をずっと撮ってもらっておりまして。元々は私がアルバイト先で出会ったのをきっかけとして、劇団の創作の現場にも参加していただくようになりました。
中井 今西さんはこれまで、演劇との関わりは?

今西 僕、小学校のときに両親から突然「バイオリンをやるか剣道をやるか選べ」と言われ、音楽の心得がなかったので、剣道と答えたんです。でもステージに上がる人への羨望の気持ちはずっとあって……。学生時代に写真に出会った頃からステージに上がる友人たちを撮っていましたし、表現者を撮るということは続けてきました。
ヤマダ チラシでは僕が大まかなラフを描いて立ち位置を決めて、撮影現場で村角さんにキャラクターの確認をして、いざ撮影となったら今西さんがうまいことやってくれます。
中井 表情の演出はどなたが?
村角 撮影の時点で台本はまだ存在しませんが、関係性はざっくりできています。このふたりは対立するはずだとか、この人は間に挟まれて困っているはずだとか。それをヒントに配置していただく感じです。
今西 僕は実際にセッティングをしてこの人物をこう配置するとこういう印象になると思うよ、というのをヒカルさんとディスカッションします。キャラクターについては村角さんと話して、それを反映させていく。想像のものを具体化していくというのが写真の仕事なので、僕はその架け橋として間に入りながら、ふたりとやりとりしていきます。
中井 いろんな情報が1枚に詰まったチラシですよね。同心円の線がいくつも引かれているのも印象的です。

ヤマダ 最初はもっと抜けた感じにしようとしていたんですが、写真ができあがったときに円形にして配置したら、円盤=UFOからの視点みたいに見えるかなと思って。映画『月に囚われた男』のビジュアルをオマージュしました。彼らはいつも何かに囚われているので(笑)
中井 この円に沿って文字が配置されているのもいいですね。
ヤマダ THE ROB CARLTONって、タイトルが毎回英語で。『lab.』にしても『SINGER-SONGWRITERS』にしても、英語のままでも、カタカナにしても何のことかわからない。和訳してもわからない。劇団名もよくわからないし(笑)。だからタイトルや劇団名は毎回控えめに、さらっと入れます。それよりもビジュアルを強く出すようにしていますね。
中井 裏面のコラージュも面白いですね。
ヤマダ 裏面は表面と切り離して考えていて、情報が整理されたうえで、なんとなく内容の雰囲気が伝わればいいかなと思って遊んでいます。UFOにさらわれた人のシルエットは、公演マネージャーの入江さんを撮影したものです。


中井 表も裏もSFっぽさがあっていいですね。写真から、それぞれのキャラクターもなんとなく伝わりますし。
村角 今回は登場人物が世界の命運を握るというかなり大きな話になっております。スケールが広がっているからこそ、彼らの人間らしさがギャップとなって楽しんでいただけるのかなと。これまでとはちょっと違うTHE ROB CARLTONのコメディがご覧いただけると思います。
力の入った公演パンフレットも
THE ROB CARLTONの醍醐味
中井 公演パンフレット「LOBBY」にも力が入っていますね。タブロイド紙の形で、細かい遊びもあちこちにある。
入江 2018年から始めて、次で7回目です。村角の希望でこの形にして、海外で新聞を買うときの感覚で茶封筒に入れて販売しています。
村角 皆さんにお手間をかけております。
入江 これもヤマダさんと今西さんにお願いしています。チラシより先にこの表紙にメンバーの顔が出ていました。今西さんはもう、ゲリラ的に稽古場に来てくださって、何も言わずにバシャバシャッと撮って去っていくんです。


今西 彼らは毎日稽古しているので、僕もたとえ30分でもできるだけ毎日行くようにしています。すると俳優たちがだんだん役に馴染んでいったり、キャスト同士のグルーヴが生まれていったりするプロセスが見えてくるんです。「LOBBY」ではそうやって作品ができあがっていく工程が、キャストの文章からも伝わるんですよ。文章やデザインによって写真の世界が広がっていくのは、僕の喜びでもあります。
村角 そんなふうに携わってもらえて、本当にありがたい限りです。
中井 チラシさえ作らないところが増えている中で、こうして毎回パンフレットも続けているのはなにか理由が?

入江 毎回ヤマダさんや今西さんのお力添えもありつつ、自分たちが楽しんでる面もあって。芝居以外の部分でもこだわれる場所があるというのは僕たちの団体の醍醐味にもなってきているのかなと思うんです。力を入れて作ると皆さんも喜んで読んでくださるので、今回から僕たちを知った方にも集めていただけるよう、公演のときにはバックナンバーも並べるようにしています。
中井 すごくいいですね。ところで、写真を載せない主義だったTHE ROB CARLTONのチラシが、ここ数作キャストの写真主体になったのはなぜですか?
村角 初めてキャストの写真を使った本公演のチラシは『Meilleure Soirée』(2023)ですが、コロナ禍もあって(本公演は)前作から5年ほど間が空いてしまったんです。これはもう再スタートだと。それならば失うものはなにもない、こういう人間がこういうコメディをしますというのが伝わるものにしようと思いました。我々は元々、実年齢よりもやや上の世代のビジネスマンだとかを演じるような、ちょっと背伸びした芝居をしていまして、若い頃は写真に説得力がないと思って顔を出していないところもあったんです。でも最近ようやくスーツに着られないような年齢になってきたのもあって、ここ数作は写真主体にしております。

今西 「顔を出したほうが届くものってあるよね」とヤマダさんともかねがね話していたので、とうとう覚悟を決めたんだなと思いました。
ヤマダ 毎回「今回もだめですか」と聞いていたくらいで、写真が使えるようになったのはすごくよかったです。ただ、突然平安貴族の話なんかを平気でやるので(平安時代を舞台にした二人芝居「テアトロコントspecial/THE ROB CARLTON’S『ENKYOKU』」を2025年2~3月に上演)、それはそれで新たな難しさが生まれています(笑)。

取材・文:釣木文恵
公演情報
THE ROB CARLTON 19F
『ENCOUNTERS with TOO MICHI』
作・演出:村角太洋
出演:
ボブ・マーサム(THE ROB CARLTON)
高阪勝之(男肉 du Soleil)/森下亮(クロムモリブデン)
声の出演
村角ダイチ(THE ROB CARLTON)
【東京公演】
日程:2025年6月11日(水)~6月15日(日)
会場:赤坂RED/THEATER
【大阪公演】
日程:2025年6月20日(金)~6月22日(日)
会場:ABCホール
THE ROB CARLTON公式サイト
http://www.rob-carlton.jp/index.html
プロフィール

今西徹(maktub photography)(いまにし・とおる)
フォトグラファー。京都を拠点に造形作品/ポートレイト/家族写真などを撮影。自身の作品制作においてはフランス・アイスランド・モロッコ・日本にて制作、発表を行う。学生時代の音楽家/演劇家の友人たちとの出会いを経て演奏会や舞台撮影を継続していく中、THE ROB CARLTON村角太洋氏とデザイナー ヤマダヒカル氏に出会い、脚本家・俳優・舞台監督・照明・音響・演出助手・制作・グラフィックデザイナーなど分野こそ違えど、創作に懸ける情熱は同じだということを知ることに。
web : www.maktub.cc
Instagram : maktub_toruimanishi

ヤマダヒカル(grahikal design)
デザイナー。1985年、京都出身。宝塚造形芸術大学卒業。在学中に藤脇慎吾氏に遭遇し、勉強させてもらう。いろいろあって、オガワヨウヘイデザインに居候させてもらう。美術館のグラフィック、サンガスタジアムのサインデザイン、日本タイポグラフィ年鑑2025など経験する。THE ROB CARLTONの村角ダイチと高校で遭遇し、2Fからデザインを手伝い、とりあえずなんかいろいろ作る。楽しい。村角ダイチ・入江拓郎による不定期ラジオ「SOMETHING ON THE HEAD」では演出助手のチェケローで遊ぶ。楽しい。
https://suzuri.jp/SOTH
Instagram : grahikal_design

村角太洋(むらすみ・たいよう/ボブ・マーサム)
京都を拠点に活動するTHE ROB CARLTONのキャプテン。全公演の作・演出を担当。『Meilleure Soirée』(23)にて令和5年度大阪文化祭奨励賞、第2回関西えんげき大賞 優秀作品賞を受賞。俳優として、NHK Eテレ「TAROMAN 岡本太郎式特撮活劇」高津博士役の他、男肉 du Soleil、玉造小劇店、大田王、「12人のおかしな大阪人」(21,23)などの舞台公演にも出演。脚本、演出では松竹新喜劇や関西ジュニアの公演のほか、外部への書下ろしや演出も多く、精力的に活動している。2024年11月には西日本の作家たちが集結する演劇公演、なにげに文士劇「放課後」の脚本・演出を担当。

入江拓郎(いりえ・たくろう/チェケロー)
1989年生まれ。THE ROB CARLTONの旗揚げから参加。以後、フィクサー・演出助手・公演マネージャーとしてTHE ROB CARLTONの全公演に関わる。公式ブログや公演パンフレット「LOBBY」の執筆も担当。 外部では演出助手として活動中。2020〜2023年まで朝日放送テレビ Aぇ!group「THE GREATEST SHOW-NEN」に携わり、ヨーロッパ企画、サファリ・P、幻灯劇場など京都を拠点に活動する劇団にも演出助手として関わる。2024年より京都芸術大学の松尾スズキ・リアルワークプロジェクトにも関わっている。
中井美穂(なかい・みほ)
1965年、東京都出身(ロサンゼルス生まれ)。日大芸術学部卒業後、1987~1995年、フジテレビのアナウンサーとして活躍。1997年から2022年まで「世界陸上」(TBS)のメインキャスターを務めたほか、「鶴瓶のスジナシ」(TBS)、「タカラヅカ・カフェブレイク」(TOKYO MX)、「華麗なる宝塚歌劇の世界」(時代劇専門チャンネル)にレギュラー出演。舞台への造詣が深く、2013年より2023年度まで読売演劇大賞選考委員を務めた。
