田中泰の「クラシック新発見」

「ドレミの日」の由来とは

隔週連載

第113回

「グレゴリオ聖歌」のネウマ譜

来る6月27日(金)は「ドレミの日」だ。普段何気なく使っているドレミ音階や五線譜の起源や如何に。というわけで、今回は、「ドレミの日」の背景に迫ってみたい。

楽譜における記譜法の原型を考案したのは、中世イタリアの音楽教師、グイド・ダレッツォ(991年?-1050年?)だと言われている。彼の生没年や出身地は不明確ながら、イタリア・ベネディクト会修道士として、イタリア・トスカーナ州のアレッツォに住んでいたと伝えられる。その彼が、聖ヨハネの誕生日を祝う1024年の祭典のために『聖ヨハネ賛歌』の歌唱を指導していた折に、曲を構成する音には一定の規則があることを発見したのだ。

1オクターブを7つに分割する音階の概念自体は、古代ギリシアの哲学者ピタゴラス(紀元前582-496年)によってすでに確立されていたのだが、それぞれの音階を表す呼び名を定めたのはグイドの功績に違いない。彼が、『聖ヨハネ賛歌』の各小節の最初の音に相当する歌詞「ウト・レ・ミ・ファ・ソル・ラ」を用いて発声練習をさせたことが、ドレミ音階の始まりとされたのだ。その後、ウトがドになり、シが新たに加えられて現在のような「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ」の形になったとされている。この画期的な方法によって、それまで修道士たちが口伝えで歌い継いできた『グレゴリオ聖歌(グレゴリアン・チャント)』を、より早く効率的に覚えられるようになったのだ。さらには、このアイデアを元に、四線の上に四角い音符を書く記譜法「ネウマ譜」が考案され、音楽を後世に伝える重要な手段である「楽譜」の誕生に繋がったのだから素晴らしい。

「楽譜」は、音楽家にとってなくてはならない存在だ。J.S.バッハやモーツァルトにベートーヴェンなどが手掛けた古の名作を楽しめるのは、楽譜が遺されていたからこそ。その原点とも言える「ドレミの日」が6月24日とされているのは、今から約千年前の1024年6月24日。聖ヨハネの誕生日であるこの日に、今に至る「ドレミファソラシ」という音階の呼び方をグイドが定めたからだと言われている。さらにグイドは、「グイドの手」と呼ばれる音階の教育法も考案している。これは音を手の各所で示す方法で、かつて音楽教師が生徒に音階を教える際に広く使用されていた方法だ。グイドの慧眼が音楽史に与えた影響は計り知れない。

「グイドの手」の図

ちなみにグイドが心血を注いだ『グレゴリオ聖歌』とは、カトリック教会のローマ典礼聖歌として、中世以来受け継がれてきた単旋律無伴奏の聖歌だ。名前の由来は、ローマ典礼の概要を決定した教皇グレゴリウス1世(604年没)にちなんでいるが、この聖歌を集大成したのがグレゴリウス1世であるか否かは定かでないが、かつて、「グレゴリアン・チャント」の愛称によって大ブームとなったこの音楽は、まさに極上のヒーリング音楽と言えそうだ。

グイドのことを更に詳しく知りたい方は、彼の著書『ミクロログス(音楽小論)』をぜひ御覧いただきたい。

さて、筆者がナビゲーターを務める「JWAVEモーニングクラシック」では、6月23日(月)から26日(木)までの4日間、ドレミ音階と楽譜の起源に思いを馳せつつ、グイドが千年前に取り組んでいた『グレゴリオ聖歌』を特集予定。“究極のヒーリング音楽”をぜひご堪能あれ。

「J-waveモーニングクラシック」
https://www.j-wave.co.jp/original/tmr/classic/



田中泰

1957年生まれ。1988年ぴあ入社以来、一貫してクラシックジャンルを担当し、2008年スプートニクを設立して独立。J-WAVE『モーニングクラシック』『JAL機内クラシックチャンネル』などの構成を通じてクラシックの普及に努める毎日を送っている。スプートニク代表取締役プロデューサー。