田中泰の「クラシック新発見」

ハンガリーのメロディ

隔週連載

第117回

ハンガリー王国初代国王イシュトヴァーン1世

来たる8月20日(水)は、ハンガリーの建国記念日だ。建国の背景には、西暦1000年にハンガリーのキリスト教化に貢献したハンガリー王国初代国王イシュトヴァーン1世の存在がある。その理由は、カトリック教会において聖人とされているイシュトヴァーン1世にちなんで、「聖イシュトヴァーンの日」とされる8月20日が、ハンガリーの建国記念日に定められたからだ。

ドナウ川が国のど真ん中を流れるハンガリーは、西にオーストリア、スロベニア、北にスロバキア、東にウクライナ、ルーマニア、南にセルビア、南西にクロアチアという、なんと7カ国に囲まれた中央ヨーロッパに位置する内陸国だ。周囲を海に囲まれた島国日本とはまさに真逆の環境だけに、その歴史は様々な民族との抗争の系譜に他ならない。中でもオーストリアとの関係は深く、ハプスブルク家が統治していたオーストリア=ハンガリー帝国時代(1867-1918)には、劇場の建設や芸術系の学校の設立によって、文化・学問が振興されたことが画期的だ。中でも音楽・美術においては、オーストリア=ハンガリー帝国下において、ウィーンと共に当時のヨーロッパの中心的存在となっていたことは見逃せない。

ハンガリーを代表する作曲家としては、“ピアノの鬼才”フランツ・リスト(1811-86)を筆頭に、オペレッタで名高いレハール(1870-1948)、“新古典主義の旗手”バルトーク(1881-1945)、そしてバルトークとともにハンガリーの民族音楽を採集したコダーイ(1882-1967)などが並び立つ。指揮者においては、ハンス・リヒター、アルトゥール・ニキシュ、ジョージ・セル、ユージン・オーマンディ、フリッツ・ライナー、フェレンツ・フリッチャイ、ゲオルグ・ショルティなどの巨匠を輩出。ピアニストにおいても、リリー・クラウス、ゲザ・アンダ、ジョルジュ・シフラ、アンドラーシュ・シフ、ゾルタン・コチシュ、デジュ・ラーンキなどの名手を生み出した音楽王国だ。

さらには、ハンガリーの名を関した作品が数多く残されていることにも注目したい。ブラームス(1833−97)の『ハンガリー舞曲』、リストの『ハンガリー狂詩曲』、ドップラーの(1821−83)『ハンガリー田園幻想曲』に、シューベルト(1797-1828)のピアノ小品『ハンガリーのメロディ』などがその筆頭。どの作品も、ハンガリーの民族音楽を活かした親しみやすい名作だ。中でもシューベルトの『ハンガリーのメロディ』は、1824年に、ハンガリーの貴族エステルハージ伯爵の娘たちにピアノを教えるためにウィーンからハンガリーに赴任したシューベルトが、当地で散歩中に聞こえてきた歌を流用した作品だと伝えられる。ハンガリー情趣あふれるこのメロディは、シューベルトの『4手のためのハンガリー風ディヴェルティメント』にも使われていることからも、彼のお気に入りだったことが想像できる。

さて、筆者がナビゲーターを務める「JWAVEモーニングクラシック」では、8月20日(水)のハンガリー建国記念日にちなんで、8月18日(月)から21日(木)までの4日間にわたり、ハンガリーにまつわる作曲家とその作品を特集予定。中央ヨーロッパの国ハンガリーならではの哀愁に満ちた美しいメロディをご堪能あれ。

「J-waveモーニングクラシック」
https://www.j-wave.co.jp/original/tmr/classic/



田中泰

1957年生まれ。1988年ぴあ入社以来、一貫してクラシックジャンルを担当し、2008年スプートニクを設立して独立。J-WAVE『モーニングクラシック』『JAL機内クラシックチャンネル』などの構成を通じてクラシックの普及に努める毎日を送っている。スプートニク代表取締役プロデューサー。