佐藤寛太の偏愛主義でいこう!

『海が走るエンドロール』のたらちねジョン先生にインタビューしました!【後編】

不定期連載

第24回

寛太さんのたっての希望で実現した、漫画『海が走るエンドロール』の作者、たらちねジョン先生へのインタビュー。今回は、前回から続く後編をお届けします。

「このマンガがすごい!2022」(宝島社)オンナ編第1位ランクイン、第12回ananマンガ大賞準大賞など、多方面で高く評価されている本作は、夫と死別した65歳の主人公・うみ子が、あるきっかけから映画作りに目覚めるという物語。「大変な題材を選んじゃった」とホンネを語る先生と、映画に“出る側”の俳優である寛太さんとの対話はどこへ向かうのか!?

第1話試し読みはこちら

佐藤 ところで、ぜひ俳優の友達にも会って話してほしいんですけど、会いたい人っていますか?

たらちね 誰だろう……。すぐには出てこないです。

佐藤 伊藤沙莉さんは知り合いじゃないしなぁ。すみません。

たらちね いえいえ、お気持ちがありがたいです。

『海を走るエンドロール』は取材が大変な題材を選んじゃったな、とは思っていて。出身校に取材に行ったり、監督をしている友達に話を聞いたりはしているんですけどね。

佐藤 出る側の話が足りない場合は、僕ができることだったらなんでも大丈夫ですよ! どういうことが一番知りたいですか?

たらちね どんな気持ちで演技をしているのか、ということですかね。自己表現に重きを置きながら、仕事としてやっているわけじゃないですか。素人がやっていることとは段階が違うので、プロとしてどう向き合っているのかということをお聞きしたいです。

佐藤 めちゃくちゃ難しいですよね。

たらちね 難しいですよね。趣味とはまた違うと思いますから。

佐藤 僕は最初から仕事としてお芝居をしているから、答えようと思うとすごく難しいかもしれない。答えになっているかどうは分からないのですが、最近、ご一緒した助監督さんが言っていたことがあって。

僕らの現場ってほとんど、長くても3カ月から半年くらい、短ければ1週間か2週間なんですよ。そこで人間関係が1回全部終わって、どれだけ仲が良くても悪くても、完全に同じクルーが集まることは二度とない。

再会してみると仲が良かった人とあまりウマが合わなくなっていたり、前は合わなかった人ともすごく楽しく仕事ができたり。そこが特殊だと思います。

たらちね スタッフもキャストも、まったく同じチームというのはありえないことですもんね。

佐藤 そうなんです。メディアも世間の人も色眼鏡で見ているかもしれないのですが、あとはぶっちゃけ肉体労働だと思います。夢を持ってほしいから、アピールしたい事実ではないですけど。

たらちね ものを作るのはすごく現実的なことだっていうのは、描きたいと思っています。

佐藤 僕は衝突を恐れずに自分の意見を結構はっきり言ってしまう方なんですけど、自分みたいな人間だけではないじゃないですか。ひとつの作品をつくるときに話し合いをして、これが今のベストだと思えるときもあるし、時間に負けて妥協したなと思うときもあるだろうし……。

たらちね そういう現場の空気を見てみたいなと思いますね。どういうことで現場がピリついて、監督がどういう風に場を和ませなきゃいけないんだろう、とか。

監督をしている友達に、「なにを大事にしているの?」って聞いたら、「監督は味方だと思ってもらうように振る舞う」と言っていて。「中間管理職的なことができなきゃ今は厳しいと思う」みたいなことを言っていたのが印象的でした。

佐藤 確かに、スタッフに対しても役者に対しても、そういう振る舞いは必要かもしれない。ひとりひとりに合わせてかける言葉もタイミングも選んでいると思うし、監督って本当に難しい仕事だと思います。

たらちね 漫画はキャラクターたちがすぐに自分の言うことを聞いてくれるので、もしも自分が監督だったら、と想像するのがすごく難しくて。

担当の編集さんはいらっしゃいますけど、読者の方に面白かったと言ってもらえたときに、私は結構ダイレクトに自分がうれしいと思うんです。で、次に出版社ありがとう、編集部ありがとう、みたいな。監督ってきっとそうじゃないんだろうなと思います。

佐藤 やっぱり伝えたいことを一番分かっているのは監督だと思うから、お芝居のことでも、映像のことでも作品に関するどんな褒め言葉も監督はうれしいかもしれない。

僕は『海が走るエンドロール』を読ませていただいたときに、日常の中にドンっと入ってくるような感動や驚きを感じて、「自分もこういうことができる人になりたいと思って役者を目指したんだよな」と思ったんです。

第1話より、うみ子の日常の中に“海が走った”瞬間

昔は作品の中で役者が占める割合は8割くらいかと思っていたんですけど、実際に周りが見えるようになってくると監督や脚本の力が大きくて、自分たちは2割くらいだな、と。そう感じたときにこの漫画に出会って、たとえ2割の存在だとしても、自分がなにか感動を与えたいと思いました。

僕はこの仕事を7年くらいやっていて、去年、主演映画『軍艦少年』が公開されたときに、初めて地元の友達に「この作品は刺さると思うから観てよ」って言えたんです。でも作り手側の人間って、受け手側にどう刺さったのかは分からないですよね。

たらちね そうですね。

佐藤 それは理解しているんだけど、自分がなにかを感じたときと同じぐらい自分が作ったものでなにかを感じてもらえたらいいな、って。

『海が走るエンドロール』を読んであらためてそう思ったので、おこがましいんですけど、もしも必要な取材があったらギャラでもなんでも話します。……という気持ちです(笑)。

たらちね ギャラまで……!(驚) 。

佐藤 知らなくていいことはないと思っているし、隠すのがあまり好きじゃないんです。うみ子さんは商業映画を撮りたいと思っている人なので、物語が進んで業界の話になっていくときにお役に立てることがあるんじゃないかと思っています。

たらちね 今の段階でちょっと質問があるんですけど、完成した作品を観て満足したときに、俳優の方たちは「自分の仕事が良くできた」と思うのか、「みんなのお陰だ」と思うのか、どちらの感覚に近いですか?

佐藤 作品がめっちゃ良かったときですか? どうだろう……、そもそも相手がいないとお芝居ができないから、自分だけが良くできたとは思わないかな。

例えば泣くシーンのときに、自分の母親が死んだと想像して泣くみたいなことは絶対にしないと僕は決めていて。そのシーンや相手に沿った涙じゃなければ嘘だと思っているので、やっぱり相手との関係が大事です。

たらちね 俳優という仕事は、自分の引き出しにないものを求められることもありますよね?

佐藤 自分の場合は、無理に引き出したことはないような気がします。よくペルソナって言いますけど、誰しも親、彼女、友達に見せる顔はそれぞれ違ったりすると思うんですよ。なにかを特別に頑張っているわけじゃなくて、自然と見せる顔が違っているだけなのかな、って。

……こういう話がもっと必要だと思うので、誰に会いたいのか思いついたら教えてください(笑)。

たらちね ありがとうございます(笑)。

佐藤 映画館で自分の監督作を上映したいと思っているうみ子さんの物語がどう進んでいくのか、これからの展開も読者としてすごく楽しみです。

たらちね その道のりはしっかり描いていきたいと思っています。

第3巻ではうみ子が作品を映画祭に出品する展開に。なんと“PFF”も登場!?

佐藤 商業映画とアングラの違いとか、年齢を重ねたうみ子さんの方が純粋に受け止めているのが面白いですよね。僕らの世代の方が小難しく区分けして考えているところがあったりして。作り手側がいろいろと思っているだけで、観る人からすると映画は映画だし、勝手に枠を作っているのは僕らかもしれない。

たらちね あとはキャラが動き始めることで生まれる物語もあって、最初に出てきたモブキャラみたいな子が、今ここで出てくるんだ……!っていう回もあると思います。

佐藤 へぇ〜! キャラが動き始めるって、いいですね。

役者ってロケハンをすることがほぼないから、撮影の初日に自分の部屋のセットに入ったりするんですよ。本当は“キャラが動き始める”ってことを初日からやれたらいいのですが、撮影の後半にならないとその感覚をつかめなかったりして。このキャラはこういうことを言わないだろうな、みたいな線引きを早い段階でするのが難しいんです。

たらちね そこは漫画のいいところですよね。

佐藤 あと1話を読んだときから素敵だなと思っていたのは、日常のシーンを丁寧に描いているところ。どういう暮らしをしているのかがしっかり描かれているから、登場人物に寄り添えるというか。

たらちね 確かに1話の冒頭部分はうみ子さんのキャラクター説明をするために、日常の場面を入れました。夫が亡くなったから初めてレトルトに手を出したということは、これまで丁寧な生活してきたんだろうな、とか。いかに言葉を使わずにキャラクター説明をするかということは意識していましたね。

第1話冒頭でうみ子がレトルトに手を出すシーン

佐藤 そういう描写の積み重ねが、読者の心に届いているのだと思います。

たらちね 最初はそういったことを感じ取ってくれる方がこの世にそんなにいるのかな、と思いながら描いていたんです。でもツイッターで1話がバズっていろいろな感想をいただいたときに、読者を信頼して作ることは大事だとあらためて思いましたし、ちゃんと伝わるんだなとすごく勇気づけられましたね。

佐藤 漫画を描いていて、どういうときに行き詰まりますか?

たらちね 毎週、毎月行き詰まっています(笑)。

ネームという物語を考える段階が、私は一番苦しくて。毎月よく言っているんですけど、ストレスで頭皮がズタボロになるんですよ。血がタラ〜、みたいな。

佐藤 どうやってリフレッシュしていますか?

たらちね 散歩ですね。最近は1日1万歩くらい歩いています。夜、ベッドの中で考えたら眠れなくなることを散歩しながら考えて、夜はもうなにも考えないっていう。

佐藤 僕もあのシーンはもっとうまくやりたかったな、って後悔すると頭に残っちゃって、夜になると考えちゃいます。「ああ〜!」って。

たらちね そういうときは、散歩した方がいいかもしれません。

佐藤 ですね。これからは散歩したいと思います(笑)。

取材・文:細谷美香
撮影:稲澤朝博
ヘアメイク(佐藤寛太):Kohey

『海が走るエンドロール』
公式サイト

『海が走るエンドロール』コミックス第3巻
発売中
https://www.akitashoten.co.jp/comics/4253265235

プロフィール

佐藤寛太(劇団EXILE)

1996年、福岡県生まれ。2015年に劇団EXILEのメンバーとなり俳優活動を開始。主な出演作に『恋と嘘』『わたしに××しなさい!』『DTC-湯けむり純情篇-from HiGH&LOW』『家族のはなし』『走れ! T校バスケット部』『jam』『今日も嫌がらせ弁当』『いのちスケッチ』(以上映画)、『探偵が早すぎる』『駐在刑事』『僕の初恋をキミに捧ぐ』『おやすみ王子』『ラッパーに噛まれたらラッパーになるドラマ』『ハゲしわしわときどき恋』『美食探偵 明智五郎』(以上TV)、「音楽劇『銀河鉄道の夜2020』」(舞台)など。
2021年は、『ヒミツのアイちゃん』(FODで配信中)、『劇団EXILEがゴルフを始めて100日間で100切り目指すTV』(テレビ東京系)、『シェフは名探偵』(テレビ東京系)、TBS日曜劇場『TOKYO MER 走る緊急救命室』『JAM -the drama-』などに出演。12月公開の映画『軍艦少年』では主演を務めた。
2022年は、『駐在刑事 Season3』にレギュラー出演したほか、『あせとせっけん』(MBSほか)で大原優乃とダブル主演。3月には舞台『怖い絵』に出演、4月からはWeb版『PEAKS』にて連載「旅する寛太」がスタートしている。7月6日(水)から放送中の『テッパチ!』(CX系)にも出演中。

本連載の前身、佐藤大樹さん&佐藤寛太さんの連載はコチラ!