佐藤寛太の偏愛主義でいこう!
2023年夏、インド旅行記<帰国後編>
不定期連載
第37回
前回お届けしたインドひとり旅直前のインタビューに続き、今回は1カ月の渡航を追えて帰国してからのインタビューをお届け。「呼ばれているのかもしれない」と語っていたインドではどんな出逢いや体験があったのか。それらを経て寛太さんが感じたこととは? ぜひ前回の渡航前インタビューと合わせてお楽しみください!
前回お話ししたとおり、インドに1カ月、ひとり旅をしてきました! ホテルは予約せず、泊まったのはほとんど350円から700円くらいの宿。一度だけ2万円くらいのホテルに泊まったから、バックパッカーと言えるのかな? 自称、バックパッカーです(笑)。
行った土地は予定していたバラナシとラダック、あとはリシケシ。旅先で出会った人とコミュニケーションを取って、次の日に行く場所を決めていました。インド国内を回っているフランス人、ドイツ人、スイス人、いろいろな人と話したけど、ひとりで旅している日本人同士で話す機会はあまりなかったかな。英語しか通じない環境で、たくさんのことを話しました。
経済や教育の格差、身分によって生活水準が変わるような社会の仕組み、自然との共存についても考えさせられました。街中に牛や猿がいるのに、みんなが普通に携帯をいじっていて、車も走っていれば露店もあり、そういう意味では“現代”なんです。そんな風景を見ながら、これも一種の自然との共存と言えるのかな、と。
『もののけ姫』でサンとアシタカが別れたとき、「森と人、双方生きられる道はないのか」という問いが投げかけられますよね。その答えのひとつの形があるようにも思いました。デリーとかの中心街に行くとコンクリートジャングルに近いところもあるだろうから、国土の広いインドの中の一部分を見ただけではあるのですが、あの人と自然との共存の仕方はいいものだなと感じました。
『正欲』の撮影を通して仲良くなった演出部の友だちが半年間インドを旅したことがあって、「日本で暮らしていたら人生に1回起きるか起きないか分からないようなことが、インドでは1日に2回起きる」みたいなことを言っていたんです。その例えが面白くて、じゃあ俺、行くわ!ってことになったんですけど、本当にそのとおりでした(笑)。とりあえず最初のうちはほぼ毎日キレるというかケンカというか、防衛本能が働くんですよね。
嘘をつかれたり、物を売りつけられそうになるとムキになって「いらないって言ってるじゃん!」って感じだったけど、後半になると慣れてきて「いらないよ〜」みたいな(笑)。自分でもなんであんなに怒ってたんだろう?って思いました。
その経験を通して、仕事に対しての取り組み方も変わった部分があります。自分の意思を曲げたくないから怒っちゃっていたけど、結局ぶつかってしまうとそこで止まってしまうから、波風立てずに流す方法を考えたり、自分の意思を通したいんだったら言い方をちょっと変えたりすれば、もっとうまくいくことって、今までもいっぱいあったんじゃないかな、って。
あとはすごく基本的なことですけど、自分が仕事をしてお金を稼いでいるから、こうして旅をしてたくさんの経験をしたり、いろいろな人たちに優しくしてもらえるんだなと思うと、仕事があるってすごくありがたいことだから、もっと大事にしようと思いました。向こうではSNSにもほとんど触れずにいたので、自分の心にとってもすごく良かったと思うし、1年に1回はこういう時間が欲しいなとあらためて感じました。
現地で出会った人たちと話しながら感じたのは、時代が変わっても変わらない宗教を通して、生き方を学んでいる部分がすごく多いなということ。 家族3世代の共通言語が宗教だから、人生に対する熟練度を学びやすいというか、おじいちゃんやおばあちゃんが活躍できる場所があるように感じました。巫女さんやシャーマンではないけれど、毎日祈りながら長い年月を送ってきた人たちに対する信頼や尊敬があるような気がして。宗教観が生き方に繋がっているから、人生とは?と考える瞬間が多いように感じたし、それはとても美しいことだと思ったんです。
みんな当たり前のように、最後はガンジス川に戻りたいって言ったりするんですよね。俺たちにとってここは、神聖な川だからって。そういうことに触れる旅だったから、何かを見て楽しいというよりも、毎日自分自身もいろいろな人と話して、考え続けていました。
だから少しは英語が上手くなったかもしれないですね。最初の2、3日は英語を話すことがほぼ数年ぶりだったし、そもそも自分のボキャブラリーに自信がなかったので、話すのはきついなという感じでした。宗教や価値観の話をするとなると鼻血が出そうになって、もう寝ていい?みたいな(笑)。知らない単語もいっぱい出てきて、3人ぐらいの会話になるとたぶん30%くらいしか分からない。でもガンジス川のほとりに座っているときや、ごはんを食べているときに話しかけられたり、話しかけたり。本当にいい経験ができたと思います。
英語がちゃんと話せなくて一番寂しい思いをしたのは、お寺の修繕作業をして文化保持をする仕事に就きたいと言っている大学院のインターのドイツ人の子と、昔は山岳ガイドをしていてアメリカに渡り、また帰ってきてビジネスを始めようとしているインド人の人と3人で飲んだとき。宿はお酒禁止だから近くの公園で飲んだのですが、ふたりの英語がうますぎて言っていることが途中から全然分からないんです。
哲学的なことやヨーロッパの歴史、戦争のことや植民地について、資本主義や共産主義……、あらゆることについて勉強不足だから、たぶん日本語でも議論するのは無理だったと思います。英語力以前に、何も知らない自分のことが恥ずかしくなった旅でした。またいつか語り合うことがあったら、自分の中に答えを持っている人間でいられるように勉強を続けていきたい。帰国してからはそういう知識が得られる本も読むようになったし、いろいろな価値観に触れるという目標は達成できたかもしれないですね。
そして分かったのは、インドは広い!ってこと(笑)。5時間の移動も全然平気だったから、九州にも新幹線で帰省してます。そういう意味でも、インドに行った意味がありました(笑)。
取材・文:細谷美香
撮影:mitograph
ヘアメイク:KOHEY
プロフィール
佐藤寛太(劇団EXILE)
1996年、福岡県生まれ。2015年に劇団EXILEのメンバーとなり俳優活動を開始。主な出演作に『恋と嘘』『わたしに××しなさい!』『DTC-湯けむり純情篇-from HiGH&LOW』『家族のはなし』『走れ! T校バスケット部』『jam』『今日も嫌がらせ弁当』『いのちスケッチ』『花束みたいな恋をした』『軍艦少年』『Blind Mind』(以上映画)、『探偵が早すぎる』『駐在刑事』『僕の初恋をキミに捧ぐ』『おやすみ王子』『ラッパーに噛まれたらラッパーになるドラマ』『ハゲしわしわときどき恋』『美食探偵 明智五郎』『ヒミツのアイちゃん』『シェフは名探偵』『TOKYO MER 走る緊急救命室』『JAM -the drama-』『あせとせっけん』『テッパチ!』『結婚するって、本当ですか』(以上TV)、「音楽劇『銀河鉄道の夜2020』」『怖い絵』『サンソン ―ルイ16世の首を刎ねた男―』(舞台)など。Web版『PEAKS』にて「旅する寛太」連載中。11月10日(金)公開の映画『正欲』にも出演する。
本連載の前身、佐藤大樹さん&佐藤寛太さんの連載はコチラ!