佐藤寛太の偏愛主義でいこう!
『正欲』で共演した東野絢香さんにインタビューしました!
不定期連載
第38回
いよいよ寛太さんが出演した『正欲』が本日11月10日(金)から全国公開! 今回は本作で共演した東野絢香さんが登場してくれました! 寛太さんが本作で演じたのは、ダンスサークルに所属して準ミスターに選ばれるほどの容姿を持つ大学生・諸橋大也。東野さんは、ダイバーシティをテーマにした学園祭のイベントで大也の所属するサークルの出演を企画する神戸八重子を演じています。本連載でも『正欲』の話題になる度に「東野さんがやばかった!」と連呼していた寛太さん。演技に対するアプローチなど、興味津々でたくさんインタビューしてくれました!
原作のページをめくるごとに息ができなくなる感じがした
佐藤 今日は本当にありがとうございます!
東野 こちらこそありがとうございます!
佐藤 いきなりだけど、朝井リョウさんの原作はどの段階で読んでた?
東野 お話をいただいて、すぐその後に本屋さんに行ったかな。
佐藤 オーディションじゃなかったんだね。読んでみてどうだった?
東野 ページをめくるごとに、息ができなくなる感じがした。でも全く知らない世界を見させられている感じではなかったんだよね。現実に生きている人たちが抱えている、えぐみみたいなものをすごく言語化している本だなっていう衝撃があった。
佐藤 俺も朝井さんの本ってそういうところがすごいと思う。東野さんはいつもこんなにキャラクターをがっつり深掘りして演じているの?
東野 自分である程度のところまでは深堀りすることもあるけれど、 今回はキャラクターの経歴みたいなものをもらったよね。
佐藤 あった! 家族構成とかが書かれている経歴書。
東野 そうそう。そのシーンに至るまでの歴史みたいなものを教えてもらったから、考えやすかった。
佐藤 小学校のときは、こういうふうなことがあって、みたいな、
東野 そういう経歴を書いたものがほぼ全員分あったから、どんどん深くまで掘り下げられた気がする。
佐藤 映画には八重子が自分のトラウマについて語っているシーンがないのに、東野さんは全てが伝わる芝居をしていてものすごいなと思った。
東野 いやいやいや。
佐藤 インする前は別の作品に入ってた? それとも時間があった?
東野 1カ月くらいは時間があったと思う。
佐藤 じゃあずっと八重子のことばっかり考えてたでしょ?
東野 台本をもらってから、ずっと考えてた。
佐藤 キツかったよね。
東野 結構キツかった。でも私はインする前の準備段階の方がもっとキツかったかもしれない。読み合わせをしてお芝居が始まってからの方が、楽になった感じがする。
佐藤 分かる。インする前、俺もだんだん自分が落ちていっているのが分かったから。
東野 誰かに引き上げてもらうこともできないしね。
佐藤 準備をしながら1回沈んで、いざ現場に入った初日は緊張した?
東野 最初は緊張したけど、思ったよりもすんなり感情が出てきたかな。
佐藤 緊張している場合じゃなかったのかも。
(東野さんの)芝居がすごすぎて、思わず笑っちゃった
東野 このふたりの最初のシーン、ホットドッグだったよね。
佐藤 そっか、ホットドッグか! 八重子が大也のバイト先に来て、ホットドッグを落としちゃうシーンが最初っていうのもなかなかすごい。そこから1カ月ぐらい空いたのもキツくなかった?
東野 東野としての日常生活を全然楽しめなかった。
佐藤 俺も一緒だわ。そっかー。う〜ん…………。
東野 ……どうしたの(笑)。
佐藤 いやなんだろう。とにかく芝居がやばいからさ、何を聞いたらいいのか分かんなくなってる(笑)。どんなことをしたらあんな芝居ができるのか……、同じこと、やってるのかな?
東野 たぶんそうだと思うよ。寛太くんがどうやっているのか分からないけど。
佐藤 今聞いている感じだと、同じような気がするんだけどね。インする前に深く役について考えて、1回落ちて、っていう。台本を読んでキャラクターをつかんでからは、その視点で世の中を見始めたりしなかった? 今みたいに言われたら大也だったらムカつくなって俺が考えていたみたいに、八重子の思想に染まっていく感覚というか。
東野 確かに、自分と八重子の境目がどんどんなくなっていく感覚はあった。
佐藤 人生においてあの時間ってさ、普通の個人の幸せからはかけ離れたものだなって思うよね。……同じような過程があるのに、あの芝居なんだもんなぁ。これ、言ったっけ? どこかのシーンで俺、笑っちゃったんだよね。芝居がすごすぎて。
東野 え〜、笑ってたの!?
佐藤 それくらい素晴らしかったです、マジで。
東野 いえいえ、寛太くんも素晴らしかったです、マジで。
佐藤 この連載で最初に『正欲』の話をしたときから、「東野さんがやばい」しか言ってない(笑)。でも自分たちが出ていないシーンが結構多いから、初めて完成した映画を観たとき、いつもよりは客観的に受け止められた気がする。どうだった?
東野 試写で初めて観たとき、本当にすごい映画だなと思った。
佐藤 もちろん小説の方は言葉だけで語られていてストーリーも整っているけど、もっと言葉に悪意みたいなものがこもっている気がしたんだよね。映画は演じている人間の体温があって、観やすくなっているっていうか。
東野 確かに、映画はいろんな受け取り方ができるよね。小説はそのときにどう思っているのかが全部書いてあるけど、映画は表情から受け取るものが観る人によって違うから。小説だと大也が「この女、殺してやりたい」とか書いているけど、それを寛太くんが表現したときに違う受け取り方をする人もいると思うし、その余白があることがいいなって。
「あの人は華がある」の“華”ってなんだろう?
佐藤 役者としての質問なんだけど、ひとつの作品を撮影している間に次の作品の準備をしなきゃいけないときにはどうしてる?
東野 基本的には今の作品を優先してる。次の作品の台本は楽しみとして読んでいる感じかな。
佐藤 映像と舞台では、何か変えていることはある?
東野 根本はまったく一緒だけど、舞台のときは目の前にお客さんがいるから、その空間でどうするかをめっちゃ考える。そこで脳味噌を動かしたり、身体の動きや声の抑揚の面白さを感じたり。
佐藤 テンポの違いとかね。
東野 そうそう。だからリアルというよりもある意味ではファンタジー的なところがあるのかも。
佐藤 その場でエンターテイメントとしての面白さを追求する感じがあるんだね。じゃあドラマと映画の違いは?
東野 映画は『正欲』しかやったことないけど、あまり違いはなかった。
佐藤 ドラマでもああいう感じでやってるのか、すごいな。じゃあさ、舞台でも映像でも「あの人は華がある」ってよく言うじゃん。“華”ってなんだと思う?
東野 めちゃくちゃシンプルに言ったら存在感だと思っていたけど、あの人ずっと無表情だけど目がいく、ってこともあるよね。
佐藤 実はこれについては、自分の中で最近ちょっとだけ答えが出ていて。
東野 教えてほしい(笑)。
佐藤 説明するのは難しいんだけど、頑張って言葉にしてみる(笑)。昔観たときにもう全身に電気ショックが走るぐらい衝撃を受けた舞台俳優さんがいたのね。その人の舞台を最近観たときに技術的な身体表現はすごいと思ったんだけど、華はないなと感じてしまって。新人でも撮る側がうまく切り取ってくれる映像とは違って、舞台って絶対的に技術が必要なものなんだけど、「すごい」じゃなくて「やばい」って感じることが、俺にとっては華なのかもしれないなと思った。見せ方じゃなくて、その人が本気で思い続けなきゃ出ないものっていうか。
東野 うんうん。
佐藤 この角度でこう見せるのが正解です、って出されるものは華じゃないよなって。それは映像にも通じることで、ゴジラを見たときの反応でもなんでもいいんだけど、本気で思っている人だけが出せるものが華なんだと思う。ストリートスナップに写っている人に華を感じるのは、本気で生きている人の瞬間を切り取ったものだからだと思うし。……どう思いますか!?
東野 急に丸投げ(笑)。でも本当にそれはひとつの正解だと思う。昔うちの社長が「個性は縦軸だ」っていう話をして。うちに所属しているある人が、普段は結構無口なのにみんなの前でパフォーマンスをするときに振り切って踊り始めて、そのときにすごく魅力があふれていたんだって。だから個性って、普段の生活からもうひとつ振り切ったり外れたりしたときに光るものなんじゃないか、って言っていたんだよね。それこそ技術は一段ずつ階段を上っていくものだけど、突発的な魅力って普段のルーティンから外れたときに出るものなのかな、って。今の寛太くんの話と似ているような気がするんだけど、どう?
佐藤 理解はできるんだけど、振り切れるって難しくない?
東野 難しいね。
佐藤 ときには振り切ることも必要だと分かったところでできるかどうかは別だけど、本気で思い続けることはできるじゃん。そういう意味でも『正欲』みたいな作品にまた出会えたら、こんなに幸せなことはないなと思う。でも1年に3本こういう作品をやっていたら次の年は休まないとダメになっちゃうだろうから、ほどほどのペースで(笑)。
東野 そうだね(笑)。でも本当に『正欲』は奇跡だと思う。視界に嘘がなくて、 カメラで撮られているのに気づかないレベルだったもん。
佐藤 めっちゃカメラが寄ってるのに(笑)。作品をつくるために集まっているスタッフさんばかりだから、だらける人も時間に追われる人もいない現場だったね。
東野 うん。本当のプロ集団だった。
佐藤 監督もスタッフさんも、声を荒らげる人は誰もいなくて。怒ることってある程度必要なのかなと思ってたけど、あれだけ整っていたら必要ないんだなと思った。
東野 たぶん現場で一番しゃべってたのは寛太くんだよ(笑)。
佐藤 ふたりでは全然しゃべってないけど(笑)。
東野 しゃべったのは撮影が終わってからだよね。今日も楽しかった。お邪魔しました。
佐藤 こちらこそありがとうございます。またゆっくり話しましょう!
取材・文:細谷美香
撮影:源賀津己
メイク:KOHEY(HAKU)(佐藤寛太)、長縄真弓(東野絢香)
スタイリング:平松正啓(佐藤寛太)、浦田聡美(東野絢香)
東野衣装:ベスト・ワンピースAOIWANAKA、リング FLYNK
プロフィール
東野絢香
1997年11月9日、大阪府出身。俳優養成・演技研究所のトライストーン・アクティングラボで学び、2018年に映像産業振興機構(VIPO)主催のアクターズセミナー賞優秀賞を受賞。NHK連続テレビ小説『おちょやん』(20-21)で主要キャストのひとりである芝居茶屋「岡安」の一人娘みつえ役を演じて注目を浴びる。主な出演作は、テレビドラマ『じゃない方の彼女』(21/TX)、『メンタル強め美女白川さん』(22/TX)、『六本木クラス』(22/EX)、『CODE-願いの代償-』(23/YTV/NTV)、舞台では、『獣の柱』(19/作・演出:前川知大)、『掬う』(19/作・演出:山田佳奈)、『リボルバー~誰が【ゴッホ】を撃ち抜いたんだ?~』(21/演出:行定勲)、『温暖化の秋-hotautumn-』(22/作・演出:山内ケンジ)、『メルセデス・アイス MERCEDES ICE』(23/演出:白井晃)など。『正欲』が満を持しての映画初出演作品となる。
プロフィール
佐藤寛太(劇団EXILE)
1996年、福岡県生まれ。2015年に劇団EXILEのメンバーとなり俳優活動を開始。主な出演作に『恋と嘘』『わたしに××しなさい!』『DTC-湯けむり純情篇-from HiGH&LOW』『家族のはなし』『走れ! T校バスケット部』『jam』『今日も嫌がらせ弁当』『いのちスケッチ』『花束みたいな恋をした』『軍艦少年』『Blind Mind』(以上映画)、『探偵が早すぎる』『駐在刑事』『僕の初恋をキミに捧ぐ』『おやすみ王子』『ラッパーに噛まれたらラッパーになるドラマ』『ハゲしわしわときどき恋』『美食探偵 明智五郎』『ヒミツのアイちゃん』『シェフは名探偵』『TOKYO MER 走る緊急救命室』『JAM -the drama-』『あせとせっけん』『テッパチ!』『結婚するって、本当ですか』(以上TV)、「音楽劇『銀河鉄道の夜2020』」『怖い絵』『サンソン ―ルイ16世の首を刎ねた男―』(舞台)など。Web版『PEAKS』にて「旅する寛太」連載中。11月10日(金)に公開された映画『正欲』にも出演。
本連載の前身、佐藤大樹さん&佐藤寛太さんの連載はコチラ!