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佐藤寛太の偏愛主義でいこう!

出演舞台『鴨川ホルモー、ワンスモア』を振り返る

不定期連載

第44回

この4月から5月にかけて寛太さんが出演した舞台『鴨川ホルモー、ワンスモア』は、直木賞作家・万城目学の原作を人気劇団・ヨーロッパ企画の上田誠が脚本・演出を手掛けて舞台化した作品。中川大輔、八木莉可子、鳥越裕貴、清宮レイ(元乃木坂46)、男性ブランコの浦井のりひろ&平井まさあき、かもめんたるの槙尾ユウスケ&岩崎う大、そしてヨーロッパ企画の役者の面々など、実に多種多様なキャストが集結し、京都大学の学生たちがオニを使役して戦う謎めいた競技「ホルモー」に打ち込む姿が描かれました。寛太さんが演じたのは、京大青竜会1回生で、女たらしな肉体派、芦屋満。初めてのヨーロッパ企画の舞台で、稽古や本番期間を通じて寛太さんが感じたこととは? あらためて振り返っていただきました!

キャストたちが悩みながらたどり着いたものがそのまま出た舞台

『鴨川ホルモー、ワンスモア』、芦屋というすごくいい役をいただいて最後まで楽しく演じさせてもらいました。

この舞台の前にちょうどマシュー・マコノヒーのインタビューを読んで、芝居についていろいろと考えることがあったんです。マコノヒーが若い俳優に「台本はどうやって覚えていますか?」と聞かれるけど、「読んで覚えるっていう感覚はない」と話していて。

例えば“行ってきます”“おかえりなさい”ってひと言があるとしたら、そのセリフの裏でお互いが言いそうなパターンを10個くらい書き出すんですって。それを本番で使うわけじゃないけど、そうやって自分の中で役とかシーンの統一感を作っていくって話していたんですよね。

その話に興味を持ったタイミングで、今回初めてヨーロッパ企画さんの稽古に参加させてもらったのですが、まずはプレ稽古というものがありました。そこで台本のひとつのシーンを膨らませて、10分くらいエチュードをしてみましょう、みたいな稽古がすごく面白かったんです。シーンの解釈も深まるし、「俺の役ってこういう可能性があるんだ!」って、いろんな発見もあるんですよね。セリフをどう言おうかを考えるより、その役を俯瞰しながらシーンのバリエーションを考えていくこのやり方は、今後、映像の仕事のときにも取り入れてみたいなと思いました。

僕は白井晃さんに鍛えてもらって舞台の基礎を学んだのですが、(ヨーロッパ企画の)上田誠さんは技術面のことを役者にあまり言わない演出家だったと思います。キャストもバリエーション豊かで、幅が広かったんです。でも上田さんは、こういう風に見えた方がいいよみたいなディレクションくらいはある程度するけど、細かいことはあまり伝えてくれませんでした。

だから稽古が始まって最初の頃は、「こういう風にしてほしいってことがあったらもっと言ってください!」って僕の方からぶつけていたんです。でも振り返ってみると、最後まで言わなかったし、教えてくれなかった。当人たちが立ち方や発声について悩んで、たどり着いたものがそのまま出た舞台だったと思います。勤勉さや実力が丸ごと見えるってある意味では残酷だけど、全員が自ずと学んでいく環境を上田さんが作ってくれたのだと思っています。

あとは何より、上田さんの台本が面白かった! 活字の段階ですごくリズム感があったし、上田さんは自分が書くものに自信を持っていると思います。「自分が作るものが面白いと思っている人と一緒に仕事をするって、こんなにも充実感があるものなのか!」って実感しました。

上田さんの舞台は、演劇として培ってきたものと関西的なお笑いのノリのバランスがすごくいいんですよね。ヨーロッパ企画の公演は、これから絶対に見にいきたいなと思っています。

最後には半泣きになりながらハグをする仲に

舞台を見てくれた人がみんな役にハマっていたと言ってくれたのですが、全員ほぼ当て書きみたいな感じがする舞台だったと思います。僕が演じたのは、言ってることは間違ってないけど態度がデカくて鼻につく、文武両道の自信過剰な芦屋っていう役なんですけど、キャスティングに頷けるというか……(笑)。

ひどいことをしているように見えるところもあるのですが、自分は全然悪いと思っていない。そこを大前提にして演じていたので、僕自身は芦屋のことを悪いやつだとは思っていませんでした。言っていることの中に嘘も本当もあるけど、愛着を持って演じられるキャラクターだったと思います。原作は途中で読んだのですが、読むことによってそれぞれのキャラにより愛着が湧いたので、あらためて、原作があるものに関しては読むべきだなと思いました。

自分がLDH枠で呼ばれているだろうなって思っていたので、謎の競技「ホルモー」に関しては僕のフィジカルで納得させられるといいなと、自分に任されているところとして、最初から全力でやっていきました。

振り付けみたいなものが決まっているんですけど、自分はめちゃくちゃ腰を低くしてダイナミックにやってやろう、みたいな(笑)。そこが勝負だと思っていたし、オニ語も一番早く覚えていました。本番でも一度も間違えてないんじゃないかな。間違えても誰も分からないと思いますけど(笑)。

(かもめんたるの)岩﨑う大さんは大事なセリフを間違えた日もありましたけど、うまかった。すごかった。笑いの波が起こる舞台に初めて出たので、そういう意味での難しさもありました。笑いにかぶるとセリフが聞こえなかったり、丁寧に言いすぎてもくどいかなと思ったり……。やっと最後の方に、今回の舞台の笑いのテンポはこれくらいがいいんだなって、ちょっとだけつかめたような気がします。その日によって違うこともいろいろとあるし、 やっぱり芸人さんはすごいですね。

八木莉可子ちゃんも初舞台だと思えないくらい声が出ていて、上田さんの人を選ぶセンスが素晴らしいなと思いました。コロナ禍も明けて、稽古の後に残っている人たちでごはんに行けたことも楽しかったです。平井まさあきさんとはサシメシをしたり、鳥越裕貴くんの誕生会をしたり、年齢に関係なくみんなで楽しく過ごして。

ヨーロッパ企画はヘンな人ばかりでしたけど、最後には半泣きになりながらハグをする仲になったんです(笑)。途中で喉を潰しちゃったり、反省することも悔しさもあったけど、千秋楽を迎えてその足で実家に帰省したとき、本当に終わっちゃったんだ、寂しいなっていう気持ちになりました。

舞台には年に一度は立ちたいと思っていたけど、今はそれ以上でもいいなと

『不死身ラヴァーズ』でご一緒した松居大悟監督がゲストで来てくれたトークショーも楽しかったです。上田さんを尊敬している松居さんのいつもと違う一面を目の前で見られたことも面白かった(笑)。トークショーでも話に出たのですが、あの土手のセットもすごく好きだったんですよね。あそこで青春したんだな……って感じがして。舞台の上だけじゃなくて、稽古やプライベートの時間も青春だったと思います。

それぞれ自分の仕事や芝居に信念とプライドを持っているからぶつかることもあるし、僕は引けないタイプだし。そういうときに、特に平井さんとか鳥ちゃん(鳥越裕貴)にすごく助けてもらいました。公演の合間に芝居の意見を伝えてもみんな話し合いに乗ってくれて、言いたい言葉を伝えたから、きれいなことばかりじゃなかったけど、ぶつかって良かったと思えた舞台でした。

……でも、もうちょっと伝え方を考えられるような大人になりたいな、って反省もしたんですけどね。まぁ反省してもこういう自分を変えるのは難しい、成長は少しずつですね(笑)。

今回、これまでに仕事で親しくなった人たちがたくさん見にきてくれたんです。『サンソン−ルイ16世の首を刎ねた男−』で一緒だった清水葉月ちゃんが、「最初と最後の土手のシーンで感じ方が全然違う。表情や声色でその間の時間を感じさせたのは、カンパニーの底力だと思うよ」って言ってくれて、思い入れのある場面だったのですごく嬉しい感想でした。大鶴佐助くんもアドバイスをくれたし、崎山つばさくんも来てくれて。信頼している人たちが舞台を見てくれるって、こんなにも嬉しいものなんだなとあらためて思いました。

今までは舞台は年に一度は立ちたいと思っていたのですが、今はそれ以上でもいいなと思っています。いわゆる戯曲と呼ばれるものとエンタメ性のあるものの両方ができるような役者になっていきたいし、それこそシェイクスピアにも挑戦してみたい。この人をナマで見てみたいと思ってもらうためにも、映像の仕事も大事にしていきたいです。

取材・文:細谷美香
撮影:稲澤朝博
メイク(佐藤寛太):KOHEY(HAKU)

プロフィール

佐藤寛太(劇団EXILE)

1996年、福岡県生まれ。2015年に劇団EXILEのメンバーとなり俳優活動を開始。主な出演作に『恋と嘘』『わたしに××しなさい!』『DTC-湯けむり純情篇-from HiGH&LOW』『家族のはなし』『走れ! T校バスケット部』『jam』『今日も嫌がらせ弁当』『いのちスケッチ』『花束みたいな恋をした』『軍艦少年』『Blind Mind』『正欲』(以上映画)、『探偵が早すぎる』『駐在刑事』『僕の初恋をキミに捧ぐ』『おやすみ王子』『ラッパーに噛まれたらラッパーになるドラマ』『ハゲしわしわときどき恋』『美食探偵 明智五郎』『ヒミツのアイちゃん』『シェフは名探偵』『TOKYO MER 走る緊急救命室』『JAM -the drama-』『あせとせっけん』『テッパチ!』『結婚するって、本当ですか』(以上TV)、「音楽劇『銀河鉄道の夜2020』」『怖い絵』『サンソン ―ルイ16世の首を刎ねた男―』(舞台)など。Web版『PEAKS』にて「旅する寛太」連載中。2024年4月には舞台『鴨川ホルモー、ワンスモア』に出演。4月には舞台『鴨川ホルモー、ワンスモア』に出演、5月公開の映画『不死身ラヴァーズ』にも出演した。

ニッポン放送開局70周年記念公演『鴨川ホルモー、ワンスモア』
2024年9月 Blu-ray&DVD発売予定
https://event.1242.com/events/kh_oncemore/

■大阪千秋楽アーカイブ映像全収録 付属DVD付き限定版
(限定版は2024年7月31日受付終了)
Blu-ray 9020円(税込)
本編+特典映像+付属DVD

DVD 7370円(税込)
本編+特典映像+付属DVD

※特典映像
・キャストによるオーディオコメンタリー
・ホルモービジュアル撮影秘蔵映像
・稽古&本番 舞台裏潜入レポート

※付属DVD
「大阪千穐楽公演」ライブ配信アーカイブ映像
(上田誠×藤谷理子 副音声裏トーク入)

■通常版
Blu-ray 7700円(税込)
本編+特典映像

DVD 6050円(税込)
本編+特典映像