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佐藤寛太の偏愛主義でいこう!

パーマカルチャーデザイナー四井真治さんのお宅を訪ねました!

不定期連載

第45回

今回は久しぶりとなる寛太さん自身による“書き下ろし”エッセイ回。「“パーマカルチャー”デザイナーの四井真治さんにお会いしてみたい!」という寛太さんたっての希望で、ひとりだけで山梨県北杜市の四井さんのお宅を訪問していただきました。パーマカルチャーとは、持続可能な環境を生み出していくためのライフスタイルのデザインのこと。寛太さんはなぜ四井さんに興味をもち、四井さんのお宅で何を見て何を感じたのか。寛太さんのいまの心の中を覗いてみてください。

『地球再生型生活記 土を作り、命を巡らす、パーマカルチャーライフデザイン』
アノニマ・スタジオ 2090円
https://www.anonima-studio.com/books/lifestyle/permaculture-life-design/

“夢はありますか?”
職業柄尋ねられることが多い。
俳優業を始めて10年目になるが、
キャリア上の目標は昔よりも、だんだん朧げになって来ている気がする。
しかし、歳を重ねていくなかで、こんなふうに暮らせたらいいな。
という理想のような生活像は少しずつできてきた。

作物を育てて、食べて、出たものを土に還す。
土をベースに生活がまわり続け、
自然が循環する過程に人の手を加えることで、
回復速度を促し、暮らしながら周囲の生態系を回復させる。
自分たちが消費する目安で作物を作り、現金収入は外から。
今の自分にとって、実現可能な理想の暮らし。
そんな暮らしのかたちを実際にこの目でみてみたくて、
連載を通じて、本の著者である、
四井真治さんのお宅に会いに行った。

田畑が広がり、綺麗な川が流れ、温泉が湧き出し、水がおいしい。
遠くには南アルプスがどかーんと鎮座し、八ヶ岳が丸々視界に収まる。
日本で一番日照時間が長い街、山梨県北杜市。

お招きしていただいたお家は、
夏の青々とした葉が、枝いっぱいに広がる林のなかにあり、
家のすぐ隣には、鶏たちが闊歩する堆肥小屋と、道具小屋。
真向かいに様々な植物が植えられた畑が広がっていた。
出迎えてくださった奥様の千里さんと、甲斐犬のすみれちゃん。
初めてお会いした四井さんは、
想像よりがっしりした体格に、とても穏やかな表情で、
『初めまして』と優しく迎え入れてくださった。

家のリビングには大きなガラスの扉があって、
木々が部屋の中にまで広がっているように見えた。
外には石造りの調理場と、ダイニングスペースが広がっており、
扉は開け放たれ、室内で千里さんが綺麗なキッチンで作業をし、
外で四井さんが直火に鉄鍋を振るってお昼をつくってくださった。

居間の可動式のテーブルを庭先に出し、
その上を、隣の畑で採れた新鮮な季節野菜と、直火で炊いたお米と味噌汁が並び、
木漏れ日がちろちろとゆれている。
机といくつかの器はお手製らしい。
あたたかくて、美味しいご飯を食べながら、
3人で暮らしのあれこれから、家族、職業、お金の話をした。

食後に、息子の高校生の木水土くんが切ってくれたスイカと、
千里さんが淹れてくれた野草茶を飲んで一息つくと、
四井さんは畑を見せてくれた。

家を出てすぐ向かいにある畑は一見すると、
色んな種類の葉っぱが生い茂っていて、
何がどこに植えてあるのか分からなかった。
四井さんに先導され一番高い場所から、
畑を見下ろすと、等高線に沿って、畝が掘ってあり、
背の高い草を掻きわけて中に入っていくと、
雑草を刈りすぎず、単一ではなく、複数の植物を育てることによって、
生物多様性を作り出し、結果、病気や害虫の大量発生を防ぐ、
自然農法に近い畑が広がっていた。

そこに木箱や、石を重ねた
“バグホテル”まで用意され、四井さんの畑は、
野菜が育つ小さな森のようになっていた。

巣箱を出入りするミツバチを、
刺激しないように観察した後、
実っていたべりー類を手摘みでいただき、
ちょうど収穫時期を迎えていた、
じゃがいもの掘り出しを手伝わせてもらった。

手で触れていた粒状に柔らかく、
程よく湿った“団粒構造”と呼ばれる状態の土の中に、
微生物が多く宿ることや、
その土を作るためには、人の手をかけた方がいいこともあること。
じゃがいもはナス科の植物で白い花が咲き、
ナス科の植物は、収穫するごとに場所を変えなければいけないこと。
野菜と共生する木と、成長の妨げになる雑草があり、
ミツバチの蜜源には限りがあるから、
これ以上巣箱を増やせそうにないことを聞いた。

土に触れ、汗をかいて歩くと、
知識が体験となり、経験として身体に蓄積されていく。
四井さんの元にお邪魔できて本当によかった。

畑仕事が終わった後は、
暮らしに使う日用品を修理したり、つくったりしている小屋で、
器を作る過程を見せてもらったり、
子供心がくすぐられる、屋根裏の書斎に案内してもらい、
本棚を物色し、年代物のアイロンをみて、
暮らしに使われるあらゆる物は、人の手で作られていたことに思いを馳せたりした。

友人を紹介するよ、と四井さんが車で連れて行ってくれたのは、
HOME MADE VILLAGEという宿泊施設のオーナーである竹内友一さんのもとで、
完成ほやほやのタイニーハウスを間近で拝ませてもらった。
移動できる家として紹介されることの多いタイニーハウス。
昨年、1カ月間リュックサックで旅をしているときは、
本当に自分が必要なものは背負える範囲のもので充分かもしれないと思った。
実はこの日、友一さんのご好意で、
完成したばかりのタイニーハウスに一泊させてもらったのだが、
ヘンリー・D・ソローの『森の生活』に思いを馳せながら眠る夜は最高だった。

四井家には、結局晩御飯までお世話になってしまった。
友一さんの元から帰る時、
「何時ごろになるの?」と
千里さんから電話で聞かれ、
少し申し訳なさそうに言葉に詰まっている
四井さんをみて、実家に帰りたくなった。

今回、どんなふうに原稿をまとめようか色々考えた。
インタビュー形式にして、
四井さんにパーマカルチャーについてお聞きすることも考えたが、
どんなに話を聞いても、本書に勝る原稿は書けないと思い、
僕の視点で自然と土でつながる暮らしを紹介することで、
本書『地球再生型生活記 土を作り、命を巡らす、パーマカルチャーライフデザイン』に
興味を持っていただければと思って、書き進めてみた。

「地球における人間の存在意義はあるのだろうか?」
人生の意義を聞かれたときに、いったいどんな人が即答できるんだろう。
資本主義、経済、エコロジー、漠然とした大きなものを知ろうと、
色々な本を読んでいくなかで、
僕個人でできることは無いのだろうか、とさまよっていた時、
この一文から始まる本書に出会い、そして希望を持った。

今回の連載を通して、この本に出会う人が一人でも増えれば幸いだ。

最後に、僕を一人で送り出してくださった、
ぴあの縣さんありがとうございます。
拙い文章をおわりまで読んでくださり、ありがとうございました。

写真・文:佐藤寛太

四井真治さんインスタグラム https://www.instagram.com/yotsuishinji_permaculture/

プロフィール

佐藤寛太(劇団EXILE)

1996年、福岡県生まれ。2015年に劇団EXILEのメンバーとなり俳優活動を開始。主な出演作に『恋と嘘』『わたしに××しなさい!』『DTC-湯けむり純情篇-from HiGH&LOW』『家族のはなし』『走れ! T校バスケット部』『jam』『今日も嫌がらせ弁当』『いのちスケッチ』『花束みたいな恋をした』『軍艦少年』『Blind Mind』『正欲』(以上映画)、『探偵が早すぎる』『駐在刑事』『僕の初恋をキミに捧ぐ』『おやすみ王子』『ラッパーに噛まれたらラッパーになるドラマ』『ハゲしわしわときどき恋』『美食探偵 明智五郎』『ヒミツのアイちゃん』『シェフは名探偵』『TOKYO MER 走る緊急救命室』『JAM -the drama-』『あせとせっけん』『テッパチ!』『結婚するって、本当ですか』(以上TV)、「音楽劇『銀河鉄道の夜2020』」『怖い絵』『サンソン ―ルイ16世の首を刎ねた男―』(舞台)など。Web版『PEAKS』にて「旅する寛太」連載中。2024年4月には舞台『鴨川ホルモー、ワンスモア』に出演。4月には舞台『鴨川ホルモー、ワンスモア』に出演、5月公開の映画『不死身ラヴァーズ』にも出演した。

本連載の前身、佐藤大樹さん&佐藤寛太さんの連載はコチラ!