佐藤寛太の偏愛主義でいこう!
2024年に観た映画で抜群に面白かった『悪は存在しない』
不定期連載
第48回

春の映画界はさまざまな映画賞が発表される賞レースの季節。そこで今回は、寛太さんに2024年に観た映画で特に印象に残った作品をお聞きしてみました! 寛太さんから挙がったのは、第80回ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞(審査員グランプリ)を受賞したことでも話題となった、濱口竜介監督の『悪は存在しない』(2024年4月日本公開)。濱口監督といえば、『ドライブ・マイ・カー』(21)でアカデミー賞国際長編映画賞を受賞したことでも知られていますが、その最新作を観終わった寛太さんは立ち上がれないほどの衝撃を受けたとか。同作を観て考えたことを、たっぷり語っていただきました。
今日は、昨年観た映画の中で抜群に面白かった映画『悪は存在しない』の話をしたいと思います。青木柚と一緒に映画館で観たのですが、終わった瞬間、ふたりとも立ち上がれなかったんです。最後の展開について「これは一体、何なんだ!?」って話し始めたら止まらなくなって、気づいたら1時間くらい経っていました。
でもふたりで話しているだけではどうしても納得できなくて、結局はnoteにあがっているとんでもない映画ファンの人が書いた考察を読んでみたんです。柚と「これはこういうことだったんだ!」「これは俺たちも気づかなかった。役者なのに恥ずかしいね」と話したりしました。

『悪は存在する』に漂っている、登場人物が何を考えているのかよく分からないがゆえの緊張感は、濱口竜介監督が師事していた黒沢清監督の作品との共通点のような気がします。「だるまさんがころんだ」のシーンでは子どもたちがストップしていて、周りの日常は普通に動いている。そんなすごいカットばかりが連発されて、本当に考察しがいのある映画であることは間違いないと思います。
主人公を演じているのは役者ではなく、当初はスタッフとして参加していて、濱口監督に抜擢された方なんですよね。自分がものすごく面白いと思った映画に、プロの役者ではない人が出演しているという事実を目の当たりにしたとき、役者の存在意義って何なんだろうということも考えました。
それはキャストに演技未経験の素人を起用したアルフォンソ・キュアロン監督の『ROMA/ローマ』を観たときにも、感じたことです。あんなに素晴らしい映画で素晴らしいお芝居をしている人たちがプロじゃないって、どういうこと?と。

ヒントを求めて、濱口監督が書いた映画論『他なる映画と』を読んでみました。もしかして濱口監督は役者に興味がないのかなと思っていたのですが、映画における偶然性と芝居について書いている文章を読んで、どうやらそういうわけでもないことが分かってきたんです。
僕の経験で言えば、『正欲』で東野絢香さんとお芝居をしたとき、この世界には今僕らふたりが確かに存在しているという感覚がありました。台本を読んだときに感じたものを超えて繋がっていて、それを記録するカメラがあり、見てくれる監督がいる。濱口監督もそういう瞬間がある作品を例に出していて、その感覚はすごくよく分かりました。

濱口監督の思っていることを理解したうえで、“でも”と思ったこともあります。台本を読み込んで自分なりに演じたいと考えることは役者のエゴで、もしかすると作品にとってのフェイントになることもあるかもしれない。だけどやっぱり役者は監督と言語を共有したいから作品を観て現場に入るし、撮りたいものは何なのかを考えて動く生き物だと思っています。だから濱口監督には、「役者ってもっと信じられる生き物なんじゃないですか?」ってことを伝えたいんです。
そのためにも、濱口監督の作品に出演してみたいと思っています。たまたま濱口さんとよくご一緒しているプロデューサーの作品のオーディションを受けたので、今話したような内容を自己PRとして書いて提出しました。

今年の2月は、NHKの土曜ドラマ『リラの花咲くけものみち』に出演しました。獣医師を目指す主人公が奮闘する物語で、僕が演じたのは彼女が思いを寄せる大学の上級生。お話をいただいたときにはまだキャストが決まっていなかったのですが、北海道に行けるならやりたいです!と言ってお引き受けしたんです(笑)。その後、すごいキャストの方たちの出演が決まって、さらに楽しみになりました。
プロデューサーさんが『鴨川ホルモー、ワンスモア』や『正欲』『不死身ラヴァーズ』も観てくださっていて、撮影に入る前から大事にされていることを感じました。山田杏奈さん、萩原利久さん、石橋静河さんと若手の素敵な役者さんと一緒に過ごす時間がとても充実していたので、それが感じられるドラマになったと思います。
※フォトギャラリーにアザーカットを掲載中!
取材・文:細谷美香
撮影:稲澤朝博

プロフィール
佐藤寛太(劇団EXILE)
1996年、福岡県生まれ。2015年に劇団EXILEのメンバーとなり俳優活動を開始。主な出演作に『恋と嘘』『わたしに××しなさい!』『DTC-湯けむり純情篇-from HiGH&LOW』『家族のはなし』『走れ! T校バスケット部』『jam』『今日も嫌がらせ弁当』『いのちスケッチ』『花束みたいな恋をした』『軍艦少年』『Blind Mind』『正欲』『不死身ラヴァーズ』(以上映画)、『探偵が早すぎる』『駐在刑事』『僕の初恋をキミに捧ぐ』『おやすみ王子』『ラッパーに噛まれたらラッパーになるドラマ』『ハゲしわしわときどき恋』『美食探偵 明智五郎』『ヒミツのアイちゃん』『シェフは名探偵』『TOKYO MER 走る緊急救命室』『JAM -the drama-』『あせとせっけん』『テッパチ!』『結婚するって、本当ですか』「生配信ドラマ『ゴースト・オブ・レディオ~バチボコ怖い心霊バスツアー』」(以上TV)、「音楽劇『銀河鉄道の夜2020』」『怖い絵』『サンソン ―ルイ16世の首を刎ねた男―』『鴨川ホルモー、ワンスモア』(舞台)など。Web版『PEAKS』にて「旅する寛太」連載中。Leminoで『情事と事情』(毎週木曜0:00全8話)が配信中。2025年はNHK土曜ドラマ『リラの花咲くけものみち』、第48回創作テレビドラマ大賞『明日、輝く』に出演。
本連載の前身、佐藤大樹さん&佐藤寛太さんの連載はコチラ!