峯田和伸(銀杏BOYZ)のどうたらこうたら
25年間、江口くんにかけられたハチ公の呪い・その②
毎週連載
第289回
(前回の続きです)
マジで江口くん(マネージャー)は「ハチ公の心霊写真」の話をいっさいしなくなり、江口くん自身もあの写真の存在を忘れかけてたんだって。
そして、肝心の「ハチ公の心霊写真」自体もどこかへなくしてしまったらしいんだけど、あの騒ぎから15年くらい経った後、山形の実家で暮らしていた江口くんのお父さんが亡くなったの。江口くんは長男だから喪主として気丈に葬儀などを乗り越えて、やっと落ち着いた頃に、お父さんの書斎を整理することにしたんだって。
生前の江口くんのお父さんは、その書斎に誰ひとり立ち入らせなかったらしいんだけど、ふと本棚を整理していたら、本と本の間から1枚の写真がポロッと落ちてきたんだって。
「なんだろう」と思って見てみると、これがなんと紛失していたあの「ハチ公の心霊写真」だったわけ。
江口くんはこんな意外すぎる場所で、15年前の「ハチ公の心霊写真」とここで再会することになったわけだけど、過去にお父さんに見せたこともなければ、書斎に入り込んだ記憶もない。なのに、何故このお父さんの書斎に「ハチ公の心霊写真」があったのか……不思議でしょうがないし、唯一考えられるのは「写真がひとりでに空間移動した」みたいなことだけど、ここで江口くんはこう解釈するわけ。
「ハチ公のことを僕は忘れてはいけないんだ。それを旅立ったお父さんを介してハチ公が僕に伝えているんだ」
そこから江口くんはまた人知れず「ハチ公の心霊写真」を大事にし、もちろん他人には吹聴せず自分の中でハチ公を思う日々を送ることになったわけ。
すごいセンシティブな話でもあるからさ、そんな江口くんを見て僕も軽々しく「ハチ公の心霊写真」の話ができなくなっていた。
江口くんがいない場所で、別の友達から「ハチ公の心霊写真」の話をされても、僕もあえて話を膨らませないようにしていた。江口くんに不幸があったらイヤだからね。「ああ。そんな話も大昔にあったけどね」とか言って、僕も遠慮するようになっていたんだ。
でもさ、ここ数年で僕は怪談にハマって、怪談ライブを観に行ったり自分でも出演したりするようになって、改めて「ハチ公の心霊写真」のことを思い出したわけ。
「あの江口くんのハチ公の心霊写真の話は最強だ」
「あの話が公になれば、それこそハチ公を研究し続ける人たちにとっての『謎だったこと』が解き明かされることになるかも知れない」
そんな風に思ってさ、もう20年以上も封印してきた江口くんを説得して、あの「ハチ公の心霊写真」を改めてスマホで送ってもらうことにしたわけさ。
僕にとっては見慣れた写真だけど、改めて見るとやっぱり怖いよね。ずっと見続けているとさ、子犬の頃のハチ公が何かに怒っているような表情にも見えるし。でも、僕はここで改めて写り込んでしまった子犬のハチ公に最大限に敬意を示しながら、心の中でこうお願いした。
「ハチ公に何か悪いことをするわけではありません。あくまでもハチ公を愛する人たちにとって『ハチ公の新しい認識』が導かれることを願っているんです」
そして、この写真を持って『探偵!ナイトスクープ』に送り、客観的な意見も含めてこの「ハチ公の心霊写真」の謎を解決しようと思いついたんだ(次回に続く)。
構成・文:松田義人(deco)
プロフィール
峯田 和伸
1977年、山形県生まれ。銀杏BOYZ・ボーカル/ギター。2003年に銀杏BOYZを結成し、作品リリース、ライブなどを行っていたが、2014年、峯田以外の3名のメンバーがバンド脱退。以降、峯田1人で銀杏BOYZを名乗り、サポートメンバーを従えバンドを続行。俳優としての活動も行い、これまでに数多くの映画、テレビドラマなどに出演している。