峯田和伸(銀杏BOYZ)のどうたらこうたら
スマートフォンの便利さの裏で、実は失っていることもある
毎週連載
第320回

前回「声だけのエロス」の話をしたけどさ、今の時代はスマートフォン、SNS、TikTok、YouTubeなんかで、欲しい情報が視覚的にすぐに得られるようになったこともあってさ、「『画』を見さえすれば、なんでもかんでもわかる」と考える人が多くなったような気がする。要は視覚的に得られた情報だけが「真実」であって、その前後背景とか行間を読み取ろうとする人が少なくなっているんじゃないかっていうことなんだ。
またその一方で「わからないこと」「正体不明なこと」に対してすごく臆病になっている人も多くなったようにも思う。
この連載でも何度も喋ってきているけどさ、みんなスマートフォンがないと電車に乗ることすら怖くてさ、「移動アプリで、目的地までどれくらい時間がかかるかわからない」といった状況だと怖くて怖くて仕方がないみたいに僕には映る。
でもさ、そんなことをやっていても面白いことなんか何も起きないよ。スマートフォンのアプリがあれば全て予定通りに進んで、事前に調べた通りに目的地に着くことはできるかもしれないけど、その移動中で面白いことはまず起きないと思う。
逆に、なんの情報もないまま目的地に向かって出かけたときは、駅員さんや他の乗客に移動手段を尋ねたりしないといけないけど、そこには色々な発見があると思うんだ。「この駅員さんは行き方を教えてくれたけど、なんか不機嫌そうだな」とか「この乗客、ツンとした表情だけど、話をしてみたら意外と優しいんだな」とかね。あるいは、そこでの会話をきっかけに友達になることもあるかもしれないし、なんなら恋人になることもあるかもしれない。
そういう偶然の連続こそが、人が生きていく上での学びだったり面白さなんだと僕は思うけどさ、どうもそういうことを今の若い人は遠ざけているように思う。でもさ、スマートフォンを取り上げられたとき、あるいは壊れてしまったとき、一番の強味で自分を守ってくれるのは自分自身だからね。こういう土壇場の場面とか、理不尽な状況に直面したときのリスクヘッジとして、「週に一度はスマートフォンを持たずに出かける日」とかを作ってみるのも面白いかもしれない。
またさ、自分と同じ価値観の人、自分が属するコミュニティの中での人、同世代以外の人と、無理してでも接してみるのも良いんじゃないかと思う。そこでの会話やコミュニケーションは正直かなり面倒にも思うかもしれないけど、でもさ、人生の長い目で見れば、実はとても有意義な時間を過ごせ、学びになることが多いと思う。
要は「自分とは世代が違うこの人は、こんな風な考え方をするんだ」「自分とは違うコミュニティのこの人は、こんな見方をするんだ」みたいなことを知るとさ、「自分以外の人」の気持ちに少しは寄り添える、少しは理解できるようになると思うからね。それを繰り返していった人、そうでない人とを比べればさ、長い目で見てどっちが面白くて深い人生になるかは一目瞭然だよね。
念のために言っておくけど、僕は何もスマートフォンをまるっきり否定しているわけではない。僕も毎日使っている。でもさ、スマートフォンは諸刃の剣であって、あまりそれだけに依存していると、同時に人間としての面白さを失うこともあるとは思う。やっぱり、週に一度はスマートフォンの電源を切って、何もないままで移動するとか遊んでみるとかをやってみるくらいがちょうど良いんじゃないかと僕は思うな。

構成・文:松田義人(deco)
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プロフィール
峯田 和伸
1977年、山形県生まれ。銀杏BOYZ・ボーカル/ギター。2003年に銀杏BOYZを結成し、作品リリース、ライブなどを行っていたが、2014年、峯田以外の3名のメンバーがバンド脱退。以降、峯田1人で銀杏BOYZを名乗り、サポートメンバーを従えバンドを続行。俳優としての活動も行い、これまでに数多くの映画、テレビドラマなどに出演している。