峯田和伸(銀杏BOYZ)のどうたらこうたら
セックスは、タピオカを買いに行くのとは全然違う行為です
毎週連載
第326回

前回、今と昔のエロ動画の違いの話をしたけどさ、なんか今のエロって、一見多様化・細分化されて自由のように感じられても、実は全然画一的なもののように思えてならないんだ。
確かにさ、昔に比べれば「エロの値段」はどんどん下がり、そしてその世界もどんどん広がったとは思う。昔はエネマグラとか吸うやつみたいなオモチャもなかったし、プレイにしても、ポルチオセックスだの、スローセックスなんていうものもなかった。もちろんNTR(ネトラレ)なんていうのも、ごく少数の変態的なプレイだと思われていた。そういったプレイのリストがどんどん増えたことは良いにしても、その「型」みたいなものにハメないとエロを楽しめないような人もまた増えて、これが僕はちょっとイヤなんです。
例えばさ、昔は「オホ声」なんてなかったでしょう。
オホ声っていうのは女の子が、女性らしからぬ野獣のような声で喘ぐことを言うんだけど、オホ声が一般に知られる前に、たまたまそういう野獣的な声を出す女の子がいたら、これは相当エロいよ。僕はそんな経験はないけども、「こんな下品でひどい声を、僕にだけ聞かせてくれた」ってことで、もしかしたら超萌えるんじゃないかと思う。
でもさ、そのオホ声が一般的に知られるようになると、わざわざオホ声であえぐようにする女の子も増えてきて。こういう演技が入ると、途端に萎えちゃうんだよね。冷静にオホ声を演じてる、本気じゃない、ってことで僕だったらすごい冷めるな。
あと最近多いのが「首絞め」。いやさ、SMの深い世界では古くから首絞めプレイがあったらしいけど、これは奥深い変態同士のもので、首を絞めながらセックスするという背徳感と合わせて男女の秘密めいた絆を強めるところがあったと思うの。
でもさ、そんなごく限られた世界で嗜まれてきた首絞めが、今ではポピュラーになっちゃって、何かと言うと「私の首絞めてー」みたいなことになっている。おそらくは「タピオカ流行ってるから飲んでみよう」みたいなことと同じで、「首絞めバズってるから、やってみよう」ってことでしょう。それだけに固執したり、自らを流行やスタイルの型にハメてのセックスというものが僕はどうも納得できないんだ。
いや、ときにはさ「首絞めバズってるから、やってみよう」とかは良いよ? 「行列ができるカレー屋さん、私も食べてみたい」みたいな感じで、そういう流行的な要素をエロに取り入れるのも悪いことではない。全然いい。
でもさ、究極のことを言うと、セックスって非日常的なものだから、そこだけは周囲の流行や周囲の流れに合わせないほうが良いんだよ。むしろ、そういう社会の呪縛、常識の呪縛みたいなものから解き離れてこそ気持ちの良いものなんだから、この線引きだけははっきりしておいたほうが良いと思うんだ。
だってさ、人間の日常って誰でも大なり小なり演技して過ごすものでしょう。電車に乗って目の前に座った女性に「エロいですね。めっちゃセックスしたいっすわ」となんて言わないわけで。男女ともみんなそういうエロい気持ちを抑えて「エロいことなんか、1ミリとも考えていません」みたいな感じで、お年寄りに席を譲ったり、自動改札機を通ったりしているわけでしょう。
そんな日常から唯一人間が解き放たれることができる時間がセックスだと僕は思うわけ。恥も外聞もなく、誰に合わせることもなく、ただただ欲求の赴くままにいられるものはセックスかライブだけ。そんなさ、人間にとって最も尊く楽しい時間になってもまだ、演技したり型にハマったプレイしかしないのって、マジで残念すぎるわ。
「○○ちゃんがこれやってるって言うから、私もやってみたい」とかさ、どうかしてるよね。
だいたいさ、イラマチオなんか実は男からすれば全然気持ち良くないんだよ、ぶっちゃけの話。そんなエロの流行なんかどうでも良くてさ、「私、実は男の人の体を全部噛んでプレイするのが好きだ」とか「相手と手錠で結ばれていないとイケないんだ」とか、その人ならではの性癖を追求して実践するほうが良いと思う。
セックスの時間くらい周囲に合わせないで自分の殻をまず破ってこそ、真の快楽って得られると思うよ。

構成・文:松田義人(deco)
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プロフィール
峯田 和伸
1977年、山形県生まれ。銀杏BOYZ・ボーカル/ギター。2003年に銀杏BOYZを結成し、作品リリース、ライブなどを行っていたが、2014年、峯田以外の3名のメンバーがバンド脱退。以降、峯田1人で銀杏BOYZを名乗り、サポートメンバーを従えバンドを続行。俳優としての活動も行い、これまでに数多くの映画、テレビドラマなどに出演している。