Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

峯田和伸(銀杏BOYZ)のどうたらこうたら

【なんかなんか人生相談(11)】自分の作品を客観的に見ることができません(40歳・女性)

毎週連載

第330回

今週も「なんかなんか人生相談」です。今回は40歳の小説家希望の方からのお悩みです。

【お悩み】

私は下手クソな文章を連ねて、色々な文学賞に送っています。

実際下手クソなんでしょう、どこにも引っかかったことがありません。でも、もう少し諦めずに続けてみようと思っています。

その上での相談ですが、実は困っていることがひとつあります。それは「自分が創った物語を客観的に感じることができない」ということです。

文章を書いている最中から、文学賞への応募くらいまでは「なんて最高の作品を作りあげてしまったんだ、私は! 大賞間違いナシ!」「これ以上の物はない!」「シュールでチャーミングで最高!」なんて思っているのですが、でも、少し時間が経ち読み返すと「なんてバカみたいな、くだらない作品なんだ!」「私は本気でこれを出版社に送ったのか!」と、恥ずかしさのあまり死んでしまいたくなります。

こんなことを繰り返すことで、私は自信が持てなくなってしまいました。作っている最中も自分の作品を客観視するにはどうしたらいいんでしょう。峯田さんはそんな経験ありますか?
(かぶ・40歳・女)

(※お悩みの文面は一部意訳しています)

【カウンセラー峯田のお答え】

僕は物書きのプロではなく、この連載も友達の編集者に代筆してもらっているから、的確な意見は言えないんだけど、なんとなく勘では「いきなり大賞狙うんじゃなくて、まずは人目につくようなブログなりnoteなりで、どんどん発表を続けてみたらどうか」って思うかな。

なんかさ、この相談を読んで気になったのは、その小説や原稿が「全部かぶさん自身の中で終わっている」ということなんですよ。これはあんまり良くないんじゃないかとは思う。

かぶさんが書き上げた「最高だ」と思える大切な作品だったはずなのに、しばらくすると、急に「ダメな作品だ」となってしまうってことだけど、今のところ作家も読者も「かぶさんしかいない」という状況なわけ。

言うまでもないけど、表現物というのは「受け手」が存在して初めて成り立つものなんだよね。作家さんとかアーティストと呼ばれる人たちは、みんなそこで切磋琢磨しているんです。もちろん自分の感情に徹底的に向き合い、受け手をまったく意識しないような内省的な作品もあるけど、でも、これもまた評価してくれるのは「受け手」という他人なんです。

この「受け手」という他人から褒めてもらえることもあれば、当然「ダメな作家」「あいつの作品嫌い」って否定されることもある。でも、その作家と、様々な意見を持つ人とのやり取りが、自ずと自分の表現力を高めてくれることもあるんだよね。

今のかぶさんが「自分の作品を客観的に見られない」というのは当然で、おそらくは文学賞に一方的に応募し続けるものの「作家も読者もかぶさんだけ」という状態だからじゃないかなと思うんだよね。

何かを表現する人、モノを作る人っていうのはもちろん「自己愛」とか「エゴイズム」みたいなものが強くあって、こういう感情も大切にすべきだと思うけど、かぶさんが自分の作品をさらに高めるために、一度自分の原稿をネットで発表したらどうでしょうか。もちろん急に「かぶのブログ」って始めても、誰も読んでくれないかもしれないけどさ、めげずに必ず「毎日1回はブログを書く」って決めてしぶとくやり続ける。

そうすればひとり、ふたりって少しずつ読者が増えていくかもしれない。読者が増えることで喜べたり、あるいはつまんない気持ちになることはあると思う。でもさ、そこで初めて「自分の作品に対する客観的な見方」もまた、できるようになると思うかな。

世に原稿を発表したことがなく、受け手とのやり取りもそうそうない人が、「いきなり文学賞を狙う」っていうのはさ、野球の試合に一度も出たことがない人が、大谷翔平に「私に試合させてくれ」って言っているようなものだよね。きつい言い方になるかもしれないけど、それはちょっと厚かましいし無謀。まずは身近なところから作品作りを始めてみると良いんじゃないかと思います。

ちなみに僕が好きな「浅草東洋館」っていう演芸場があるんだけど、ここには毎日毎日若手からベテランまで様々まお笑い芸人さんたちが出るんだ。でも、お客さんは老若男女でバラバラで、若いお客さんもいれば、お年寄りのお客さんもいる。

こういうさ、まるで違う世代の人たち、自分のファンじゃない人たち全員を、爆笑させるっていうのは本当に大変なことだと思う。それだけに「浅草東洋館」に出ているお笑い芸人さんたちはみんなレベルが高いの。

若手のイケメンのお笑いコンビなんかだと、「お笑いの技術」以外のところで人気になってファンがつき、そのファン向けのお笑いをやっている人たちもいるけど、「浅草東洋館」のお笑い芸人さんたちはそうじゃない。一般メディアでは無名かもしれないけど、本当にお笑いに真剣に取り組んで、受け手を笑わせることに必死だし技術も高いわけ。

言うまでもなく、自分ひとりでお笑いネタを作って、自分ひとりでその話を前に「ウケる! めっちゃ笑える!」とか、その翌日に「いや、昨日のネタは全然面白くない。死にたい」みたいなことはまったくないんです。

表現する上においては、自分を高く見積りすぎてもダメだし、逆に低見積りすぎてもダメ。その辺のバランスが難しいところだけど、その答えはまず受け手に提示して見えてくるんじゃないかなーと僕は思います。

あらゆる表現物は発表してナンボです

構成・文:松田義人(deco)

峯田和伸(銀杏BOYZ)の
「なんかなんか人生相談」お悩み大募集!

峯田和伸(銀杏BOYZ)の「どうたらこうたら」では皆さまからのお悩み、抱えている問題、誰にも言えない性癖などを大募集します。その名も「なんかなんか人生相談」。皆さまからのお悩みに対し、峯田先生が不定期で悩みを解決してくれます。ぜひ送ってくださいね!

相談はこちらから

プロフィール

峯田 和伸

1977年、山形県生まれ。銀杏BOYZ・ボーカル/ギター。2003年に銀杏BOYZを結成し、作品リリース、ライブなどを行っていたが、2014年、峯田以外の3名のメンバーがバンド脱退。以降、峯田1人で銀杏BOYZを名乗り、サポートメンバーを従えバンドを続行。俳優としての活動も行い、これまでに数多くの映画、テレビドラマなどに出演している。