峯田和伸(銀杏BOYZ)のどうたらこうたら
【なんかなんか人生相談(20)】僕は音楽の仕事を辞めるべき・辞めないべき?(35歳・男性)
毎週連載
第339回

今週も人生相談です。先週は「バンドメンバーが見つからない」という方からのお悩みでしたが、今週は「音楽の仕事を辞めたほうが良いか悩んでいる」という方からの人生相談です。
【お悩み】
ライブハウスで長いこと働いています。
僕自身、以前はバンドをやっていました。本当は表舞台に立ちたかった。しかし、長いこと裏方にいて、今ではもうギターも触っていないです。
仕事にはうれしさも誇らしさもあります。長くやってきて仲間もいるし、評価もされてます。ただ、やはりどこかで寂しさがあります。「今のライブハウスを辞めて、リスナーに戻ろうかな」ってここ数年すごい思うようになりました。
かつてのバンドメンバーも結婚したり、仕事としてではありますが、音楽と向き合っているのは、今では自分だけになりました。
日々やりがいもあって楽しい、でもたまにすごく寂しさに押し潰されそうになります。知人に相談すると、9割型の意見が「今辞めるのは悪手(あくしゅ)だ、もったいない」と言われます。峯田さんは「辞めるな」って思いますか?
(チョコボールあきひと・35歳・男)
(※お悩みの文面は一部意訳しています)
【カウンセラー峯田のお答え】
このチョコボールあきひとさんのお悩みに答える前に、僕自身のことを考えてみました。今のところは「峯田さんの歌を聴きたい」「銀杏のライブに行きたい」って思ってくれる人がいるから、僕が「音楽や表現をヤメる」なんてことはまったく頭にない。でもさ、じゃあそうやって待っていてくれる人たちがひとりもいなくなってさ、誰にも求められていないような状況で「それでも自分の表現を貫く」ってことで、誰にも聴いてもらえない歌を歌い続けるかなーと思うと、そこは自信を持てないんだよね。だって、それは自分の「我」だけを押し通すみたいなことになるからね。
その辺は自分でもそういう状況になってみないとわからないんだけど、でもさ、仮に自分の「表現」をヤメることになっても、なんらかのカタチで音楽に関わることをしていそうな気はする。僕が一番夢中になれて、一番大事に思えるのはやっぱり「音楽」だからね。
僕の昔のバンド仲間でバンドは続けられなくなっちゃったけど、レコード会社で働いたり、自分のレーベルを始めたり、それこそチョコボールあきひとさんみたいにライブハウスで働いたりする友達が結構いるんだ。こういった友達はたまたま、あるいはめでたく「バンドを辞めても、音楽に関わることが『仕事』になった」例なんだけど、でも、音楽って「絶対に仕事にしなくちゃ触れちゃいけない」ってことでもないと思うんだよね。
なんか日本だとさ、「仕事にしなくちゃいけない」「それ以外はただの道楽だ」「遊びだ」っていう風潮があるけど、そんなことはないよ。音楽はもっと自由に楽しんで良いものだし、もっとみんなの身近にあって良いものだと思う。
たとえば、普段は生活のためにサラリーマンを毎日続けていて、月に一回、地元で仲の良いバンドを集めてライブをやったりするのでも十分「音楽」なんだよね。あるいは、あるバンドが好きすぎて、でもメディアにはなかなか出てこないから、自分でそのバンドのファンジンを作ってみるとかもまた「音楽に関わること」だと思うんだ。
アメリカとかイギリスで音楽ファンの間ではある程度知られたバンドでも、「普段はバイトしていてライブの日だけ休んで活動をする」なんて例は珍しくないしさ、完全に「音楽は職業にしなければ絶対にダメだ」なんてことはないよ、絶対。もちろん僕も仮に「表現」をヤメることになった場合は、必ずしも仕事じゃなくても良いとは思っている。自分の表現ができなくなっても、なんとなくずっと音楽に触れる生活はしているような気はするんだよな。
それで、チョコボールあきひとさんのお悩みなんだけど、「辞めなくていいんじゃない?」って言ってくれる友達を持っていることがまず幸福なことだよね。絶対に大事にしてほしいと思う、そうやって言ってくれる友達のことは。
たださ、大好きな音楽が毎晩かかるライブハウスで働く状況でも「寂しさに押し潰されそうになる」ってことが、どんな感情から生まれるものなのかは、自分自身でよく考えたほうが良いと思う。そして、そのモヤモヤする要因のひとつずつに対しては、きちんと自分で向き合って自分なりの答えを出していくしかないとは思う。
仮にそこで出した答えが「音楽の仕事を辞める」ということだったとしてもさ、別に「お前は音楽聴くんじゃねぇ。だってヤメたんだから!」みたいに差別されることなんかないし、その後も気軽に音楽を楽しんでいって良いんじゃないかな。
チョコボールあきひとさんの友達のことをさっき話したけど、僕にとっての音楽は友達みたいな存在なんです。いつも必ずそばにいてくれて、許してくれたり励ましてくれたり楽しい気分にさせてくれる存在。そんな大事な友達を僕は手放すことはないし、チョコボールあきひとさんも、そんなに好きなら、仮に仕事じゃなかったとしてもずっと触れ続けていって良いんじゃないかなと思います。

構成・文:松田義人(deco)
峯田和伸(銀杏BOYZ)の
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プロフィール
峯田 和伸
1977年、山形県生まれ。銀杏BOYZ・ボーカル/ギター。2003年に銀杏BOYZを結成し、作品リリース、ライブなどを行っていたが、2014年、峯田以外の3名のメンバーがバンド脱退。以降、峯田1人で銀杏BOYZを名乗り、サポートメンバーを従えバンドを続行。俳優としての活動も行い、これまでに数多くの映画、テレビドラマなどに出演している。