峯田和伸(銀杏BOYZ)のどうたらこうたら
チャットGPTやAIとの理想的な付き合い方
毎週連載
第344回

今週からはまたしばらく自分の近況とかくだらない話をどうたらこうたらと話していこうと思います。お悩みは引き続き募集しているので、またお寄せくださいね。
さて、今回のお題はチャットGPTです。
最近、ネットで何かを検索してもチャットGPTがパッと答えてくれたりして浸透がかなり進んでいますよね。なんなら最近は、情報系の雑誌とかの原稿も全部チャットGPTが作っている、なんて話もあってすごい時代になったなと思います。
いやさ、僕は完全にチャットGPTを否定するつもりはなくて、物理的な情報整理とか辞書的に使う分にはすごく合理的で便利なツールだと思うんです。人間の手間を省略するという合理的な意味で、超画期的で良いことだと思います。
一方でさ、ちょっと前にビートルズが最新技術を駆使して「新曲」をリリースしたでしょう。あの「新曲」自体が良いか悪いかはさておき、あの試みを僕自身に置き換えて考えてみたんです。
仮に僕が何年か後に死んでしまった後、僕の意思と関係なく、銀杏BOYZの権利を持った全然知らない人が「今、峯田が生きていたら、こんな曲になるはずだ」として「銀杏の新曲です!」って発表されることがあったら、これは僕は絶対にイヤなんだよね。確かにその「銀杏の新曲」は僕の声を綺麗にサンプリングして、さらに僕の思考をすべて計算した上での僕が作りそうな歌詞になっているかもしれないけれど、それは機械やシステムが作ったものだからまず絶対に僕の作品ではない。そんな作品が、銀杏BOYZのディスコグラフィーに加えられることだけはすごくイヤなんだ。
確かにさ、「いやいや新曲は聴けたほうが良いでしょう。だって好きなんだもん、そのアーティストが!」っていう意見があるのもわかる。でもさ、その作家なりバンドなりが死んでもなお「新曲が出続ける」ということは、表現とか作品に対する冒涜にも感じるし、なんなら「人間」そのものへの冒涜にも感じるんだよね。
当然のこととして、人間が避けて通れないもののひとつに「有限性」というものがある。「どんなに好きな人でも、そんなに憎い相手でも、お互いにいつか必ず終わりがくる」というのが人間なわけ。でも、その儚さに嘆いたり、悲しんだりするのではなくて、「だからこそ生きている時間を楽しむ」っていうことが、僕にとっての「生きる」ってことなんです。
でもさ、その「有限」ということを技術で「無限」にしたところで、本当にその人を愛したり、その人を憎んだり、その音楽を楽しむことができるのだろうかと思うんだ。
「いつでもその人に会える」「いつでもその音楽を楽しめる」「いつでもうまいものが食べられる」っていうことは一見、良いことのようにも思えるけどさ、「有限」であること以上の幸福度を得られるのかどうかは甚だ疑問しかない。
その上で僕が思うのは、技術進歩はおおいに良いこと。もちろん、これからもどんどん進んでいってほしいんだけど、それと同時に、アナログの人間のほうも、そういったどんどん進む技術に負けないようにがんばっていかなくてはいけないってこと。じゃないと、マジで機械に負ける時代が来ると思うからね。
少し前に、将棋界にもAIが取り入れられて名人たちが次々と負けまくっていったの。そうなると、将棋っていう文化自体が危ぶまれる事態になりかねないわけだけど、そこですごかったのが藤井聡太さん。AIと将棋で勝負して、AIに負けないことを証明して見せてくれたんだ。
これはある意味でAI時代のあるべき姿だと思った。人間がAIに負けないことを証明したことに加えて、負けたAIのほうもまたあらゆる情報を収集して、さらにレベルを上げてくるわけじゃん。そしてまた、AIに負けまいと名人たちも鍛え上げていくと。この応戦を繰り返すことによって、結果的に将棋界全体のレベルアップにつながるわけだから、こういう最新技術の使い方はすごく良いなと思った。
チャットGPTやAIによって、有限性の良いところにまで介入されるのは僕個人的にイヤだけど、こうやって最新技術と人間とが競い合うようにできるとすごく良いよね。ひいては、こういった最新技術の「使い方」「向き合い方」を人間が問われているのも「今」なのかなともぼんやり考えています。

構成・文:松田義人(deco)
峯田和伸(銀杏BOYZ)の
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プロフィール
峯田 和伸
1977年、山形県生まれ。銀杏BOYZ・ボーカル/ギター。2003年に銀杏BOYZを結成し、作品リリース、ライブなどを行っていたが、2014年、峯田以外の3名のメンバーがバンド脱退。以降、峯田1人で銀杏BOYZを名乗り、サポートメンバーを従えバンドを続行。俳優としての活動も行い、これまでに数多くの映画、テレビドラマなどに出演している。