峯田和伸(銀杏BOYZ)のどうたらこうたら
シチュエーションが引き出す魅力ある異性への「勘違い」
毎週連載
第346回

ちょっと前、知り合いの編集者がさ、自分が担当した本の出版記念かなんかで、珍しく大勢の人の前でトークライブをやったんだって。
編集者、ライターさん、作家さん、漫画家さんとかって、「人前に出て何かをする」という仕事じゃなくてただ黙々と原稿に向き合う仕事だから、すごい緊張したらしいんだけど、ここで面白い話を聞いたの。
その編集者が壇上に上がったときに、会場に来てくれている女性が、若い子だろうがオバサンだろうが「全員メチャクチャかわいく見えた」んだって。「バカですねー」ってみんなで笑ったんだけど、でもこれはシチュエーションが引き起こす、ありがちな勘違いでもあるんだよ。
たとえば静かな喫茶店で、ひとりでコーヒーを飲みながら本を読んでる女の子がいたとするじゃん。すごく惹かれるし、きっと知的で、メチャクチャ性格も良さそうに映る。実際のルックスだって、3〜4割増しでかわいく見えることでしょう。
でもこれこそがシチュエーションが引き出す魅力の勘違いで、実際のその子が読んでいる本は妖怪とかUMAの本だったりするかもしれないし、喫茶店の外に出ればガニ股で歩いているかもしれないし、声はデカいわ、芸能ネタしか話さないアホな子なのかもしれないわけ。
あと、昔よく言われていたのがスキー場で出会った女の子がメチャクチャかわいく見える説。スキー場って非日常的な空間で、雪で白い光が反射してるわけだし、そりゃもうどんな女の子もかわいく見えるわけ。でもさ、「今度東京でも会おうよ」とかになって実際に会ってみると「あれ? そんなにかわいくない」「しかも、話す内容も高級ブランドのことばっか」みたいなことが起こっちゃうんだよね。
もちろん、ステージに立つバンドマン、ミュージシャンもそうだよ。公式なライブ写真って技術のあるカメラマンさんが撮っているものだし、照明とかが綺麗に当たって、メチャクチャカッコ良く写ってるものだけど、実際に会ったら、ただのオッサンだったりすることは珍しくない。
最近は演者自身も、インスタとかで楽屋の風景の写真をアップしていることがあるけど、結構驚くことがある。「あれ? あのミュージシャン、ステージと楽屋ではこんなに違うの?」「ただの疲れたオッサンじゃないか」みたいなね。
もちろん、僕もそうなんだ。ライブが終わった後、楽屋口で出待ちしているお客さんがさ、「峯田さん、今日カッコ良かったっす」とか言ってくれることがあるけど、でも、この場面での僕はステージを降りたただの疲れたオッサンだからね。もしかしたら、声をかけてくれるお客さんも、そんな風に褒めつつも、内心「……でも、今目の前にいる峯田さんはただのオッサンだな」と思っているかもしれない。でもさ、僕は勘違いされるよりはそっちのほうが良いな。だって勘違いされるよりもずっと楽だもん。

構成・文:松田義人(deco)
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プロフィール
峯田 和伸
1977年、山形県生まれ。銀杏BOYZ・ボーカル/ギター。2003年に銀杏BOYZを結成し、作品リリース、ライブなどを行っていたが、2014年、峯田以外の3名のメンバーがバンド脱退。以降、峯田1人で銀杏BOYZを名乗り、サポートメンバーを従えバンドを続行。俳優としての活動も行い、これまでに数多くの映画、テレビドラマなどに出演している。