峯田和伸(銀杏BOYZ)のどうたらこうたら
ライブでのこだわりは「人間を見せたい」。それだけです
毎週連載
第353回

しばらく「なんかなんか人生相談」が続いたけど、この間、僕はZeppツアーがあったりして各地を巡っていました。Zeppツアーの話はまた追ってするかもしれないけどさ、ライブの演奏とかMCとかのときの僕と、普段の僕は、どうも人から見ると、まるで別人格に見えることもあるらしい。おそらく僕は、普段過ごしている姿が「素顔」みたいなことなんだと思う。
たとえば日本武道館みたいな大きな会場で演奏する前は、緊張を取り払うために、トイレに籠ったりして「俺は銀杏の峯田だ、俺は銀杏の峯田だ……」って自己暗示にかけることがある。やっぱりそこまでお客さんが多い会場ってそんなに何度もやったことがないし、普通にしていたらビビっちゃうから。またさ、「銀杏の武道館!」ってことで、それこそ全国各地からお客さんがこの日のために観に来てくれているわけだから、「普段のライブをさらに超えるものにしたいっ」ていう気持ちは当然僕の中にあって。だからこそそうやって隠れて自分を鼓舞させるようなことはある。
でもさ、結局のところ、そこで度胸がつこうがつくまいが、僕はやっぱり僕でしかないんだよね。ダサくて、偏ってて、不器用すぎて、どんなにカッコつけても、どんなに背伸びしても、これだけは取り繕うことができないわけ。だったら、僕自身が本当に思っていること、伝えたいこと、自分が作った「歌」を通して、目を見開いて大声で歌い切るしかない。結局はステージに立って、そうやっているのもまた「僕自身」ってことにしかならないわけさ。
もしかしたらMCとかで喋る内容も、倫理的には間違っているかもしれない。自分でも喋ってて思うことあるもんな。「アレ? 俺、今勢いで喋ってるけど、こんなこと大勢の人の前で喋って良いのかな」みたいに。でもさ、そういったひとつひとつを気にし始めるとキリがないし、気を遣って喋ると結局当たり障りの良いことばっかり言うようになって、面白くないんだよね、僕自身が。
せっかく「ライブ」っていう自由な空間で、「銀杏の音楽を聴きにきた」っていう友達みたいな人たちの前なんだから、倫理的に間違ってようが正しかろうが、僕は僕の「今」をガーっと喋るしかないんだ。それで「ガッカリした」「そんなことを言うなんて」みたいに思って嫌いになる人もいるかもしれないけど、それはしょうがない。そこも気にしていたら何もできなくなるからね。
真面目に言うと、ライブで僕が心がけていることは「人間を見せたい」ってこと。もう「それだけ」「それしかない」と言っても過言じゃないし、実は僕にとっての「エンタメ」ってそこに集約されるような気がする。
みんな普段は、会社に行ったり学校に行ったりして、どこか自分を演じたり、周囲に合わせたりして生きているじゃん。もちろん協調性を持つのは大事なことだけど、銀杏のライブでは少しでもそういう堅苦しいことをなくしたい。お客さんが音を浴びて、少しでも自由になってくれるのが一番で、そのためにはさ、僕自身が丸裸になって「人間・峯田和伸」みたいなところをお客さんにまず見せないとダメだと思うからね。
……とか言っているけど、これは僕の場合ですよ。もっとすごい歌唱力を持つ人、演奏力を持つバンド、演技力を持つ役者さんはまた違うかもしれない。あくまでも「表現」の力で魅了する人っていうすごい人はいっぱいいるからね。ただ、僕にはそういう力が足りないからさ、ただただ大声で歌い、喋るしかないっていう理由もあるんだけどね(笑)。
でも、自分ではそれで良いと思ってる。涼しい表情で、湿り気なくステージに立つってすごいカッコ良いなと思うけど、そんなこと僕にはできないんだもん。僕のMCとかを聞いて「あいつ、また頭おかしなこと言っているわ」くらいに思われるほうが僕は楽だし、結局それもまた僕自身ということだからね。

構成・文:松田義人(deco)
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プロフィール
峯田 和伸
1977年、山形県生まれ。銀杏BOYZ・ボーカル/ギター。2003年に銀杏BOYZを結成し、作品リリース、ライブなどを行っていたが、2014年、峯田以外の3名のメンバーがバンド脱退。以降、峯田1人で銀杏BOYZを名乗り、サポートメンバーを従えバンドを続行。俳優としての活動も行い、これまでに数多くの映画、テレビドラマなどに出演している。