峯田和伸(銀杏BOYZ)のどうたらこうたら

若い人の「なんでもかんでも好き」傾向と、本当に「好きになる」こととは

毎週連載

第354回

僕さ、ずっと思っていることがあって。今の若い人たちって、情報がありすぎるからかもしれないけど、なんでもかんでも「好き」って言うでしょ。「こういうバンドがいるんだけどさ」って言えば「知ってる。そのバンド好き!」って言う。「あそこに有名なラーメン屋さんがあるんだけどさ」って言えば「食べたことある。あのラーメン好き!」って言う。

いやさ、否定ばっかりしている人よりはずっと良いことだとは思うけど、「好き好き」ばっかり聞いてると、「本当の意味で、それが好きなの?」「結局、あなたが本当に好きなものってナンなの?」って疑ってかかりたくなってくるんだよね。

僕が若かった頃、たとえばあるバンドの曲を聴いて「いいな」って気にいったとしても、それだけで「あのバンド好き!」なんて軽々しく言える感じではなかった。好きになる入り口はヒット曲だろうが、何かの主題歌だろうが、なんでも良いんだけど、そのバンドのことをある程度調べて、最低でもリリースされている全曲を聴いて、その上で「いいな」と思えなければ、そんな軽々しく「好き」って言っちゃいけないと僕は思ってた。だってさ、そのバンドのことを本当に好きな人、真剣に応援している人、身を削って追っかけている人の前で、そんな軽々しく「好き」なんて言えるわけがないからね。

かと言って僕は別に、「好きになるなら、徹底してマニアックになれ」「オタクになってこそ『好き』と言える資格があるんだ」ってことを言いたいわけではないですよ。そうじゃなくてさ、そのバンドや歌手の曲を聴いたとして「本当に心が揺さぶられた」「自分自身を重ねることができた」ってことを体感して、感動して、本当の思い入れを持ってこそ「好き」って初めて言えるんじゃないかってことを言いたいんです。やたらとバンドの事情に詳しい、オタク的な人より知識がなくてもさ、そうやって「自分の中に、そのバンドがいる」っていう人は、きっと「本当に好き」なんじゃないかと思う。また、そうやって聴いてくれている人は、発信側にとってもすごくうれしいことだよ。たとえば銀杏の曲を聴いて「僕もこんなことをやろうと思います」って何かを始めてくれる人がいたら、これほどうれしいことはないよ。

仮にさ、銀杏のファンの人で、オタク的に「銀杏BOYZは○○○○年○月○日にアルバムが出ました」「峯田さんは○○○○年○月○日のステージで骨折しました」みたいに詳しい人がいたとする。そういう人を前に「よくそこまで俺のこと知ってるな」と感心することはあっても、「そうですか。すごいですね」としか言えないんだよ。そういうデータ的なことってさ、本気で調べれば誰でもできるし、それは作品云々とかとはまた別の話で、僕にとっては実はあんまり大事なことではないんだ。オタクタイプの人って自己完結型だよね。「誰よりも俺が詳しい」「こんなこと誰も知らないだろう」ってことに命をかけていて、別にそれ自体を悪いって言うわけではないけどさ、だいたい他人と共有できないことで完結していることが多いんだよね。

そういうことよりも、銀杏の曲やライブを体感して「どんな風に思ってくれたか」「どんな風に自分で昇華させたくれたか」っていうことのほうが100倍は大切なことだと思う。

バンドファン、サッカーファン、野球ファン、怪談ファン、お笑いファン……色んな分野にファンやマニアがいるものだけど、そういう人たちと接していて僕が「面白いな」と思うのは、結局その対象となる分野の話を、その人がどう感じたか、どんな風に思ったかなの。つたない、些細なことでも全然いいんだ。

でも、そういう「体感」みたいなことがないと、本当の意味では「好き」とか「ファン」って言っちゃいけないようにも思う。

その点、魚類学者のさかなクンはすごいよね。学者としての知識を持ちながら、ちゃんと自分自身もさらけ出して「ギョギョギョー」みたいにエンタメにもして他人に広めようとしている。「何かが好き」っていう意味での頂点にいる人だと思う。今回のテーマで言うと、さかなクンの前で「僕、魚好きです」なんて軽々しく言えないでしょう(笑)。そういう感じが今の若い人には、なんか欠けているような気がするわけさ。

僕にとって大事なのは知識じゃなくてどう感じて、どう動くか

構成・文:松田義人(deco)

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プロフィール

峯田 和伸

1977年、山形県生まれ。銀杏BOYZ・ボーカル/ギター。2003年に銀杏BOYZを結成し、作品リリース、ライブなどを行っていたが、2014年、峯田以外の3名のメンバーがバンド脱退。以降、峯田1人で銀杏BOYZを名乗り、サポートメンバーを従えバンドを続行。俳優としての活動も行い、これまでに数多くの映画、テレビドラマなどに出演している。